「ミチバチのささやき」ビクトル・エリセ

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「ミツバチのささやき」 (c)2005 Video Mercury Films S.A.

個人的に最も好きな映画は?と問われると、ヴィム・ヴェンダースの『パリ・テキサス』か、エミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』か、このビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』と答えていた。それくらいマイ・フェイバリット・ムービーである。東京でHDリマスター版公開をやっていたので、久しぶりに映画館で観る楽しみを味わった。同時に公開していた『エル・スール』も同じくらい好きな映画であるが、そちらは残念ながら観られなかった。

「映画が来たぞ」という村に巡回上映でやってきたトラックを子供たちが取り囲むシーンで始まるこの映画は、まさに映画のヨロコビそのものに満ちている。村で上映される映画は「フランケンシュタイン」。住民たちが公民館のようなところに、それぞれ椅子を持参で集まってくる。暗闇。フィルムの光。幻。怪物の映画だ。そう、これは少女と怪物=精霊をめぐる世界発見の物語である。少女にとって、世界とは未知なるものであり、精霊たちが棲む得体の知れないものである。小さい頃、誰もが持っていたそんな未知なる世界(自然)への畏敬と魅惑。いつしか人は大人になることで、そんなワクワク、ドキドキな感覚を失って行く。夜の闇、壁に映る月明かりの木の影。森。遠くまで続く道。廃墟。井戸。この映画では、姉のイサベルがもう大人の仲間入りをしつつあり、目がクリクリと可愛らしい少女アナは、世界に対する疑問と好奇心でいっぱいだ。この映画がここまで名作と言われるようになったのは、アナ・トレントという少女をビクトル・エリセが見い出したことにあると言ってもいいだろう。

あらためてこの映画を観てみると、多くのことが語られていないことに気づく。余白。描かれているのは闇と光だけ。そしてスピリチュアルな想像力。

時代設定はスペイン内戦が終結した翌年の1940年。スペイン内戦の闇を両親それぞれ抱えており、ミチバチの研究をしている父フェルナンドは、知的でありながらもどこか世捨人のようであり、アナとイサベルは寝室の上の父の靴音を聴くだけ。あるいは毒キノコを踏みつぶす父の足。一方、母テレサもまた少女たちの前では不在である。母は誰かに手紙を書き、村を通過する汽車に手紙を投函する場面がある。手紙は、内戦時代の苦しみと人生の空虚が誰かに宛てて(亡命者?昔の恋人?)書かれている。少なくとも今の家庭や子育てに夢中になってはいない。どこか遠くを見ているようである。ホームに入ってくる列車とやってくるテレサの姿を横移動で捉えたロングショットは素晴らしい。列車の窓の無表情な兵隊をなんとなく見るテレサ、その眼差しはどこまでも虚ろである。

そして、村はずれにある廃屋に、精霊が潜んでいると思って探すアナ。丘の上からアナとイサベルが廃屋への一本道を走っていくロングショットもすばらしい。イサベルが妹のアナをからかうため、死んだふりをする場面がある。何者かが窓から侵入し、イサベルを襲ったように見せかける。映画はアナの目線とともに、何ものかを思う。そしてフランケンシュタインが少女を殺したように、死の影が日常に忍び寄ってくる。アナはそれを怖いものとしてではなく、好奇心とともに感じる。あるいは、学校での人体模型を使った授業。模型に目を入れるアナ。人形に魂を宿らせるかのように。遊びで火を飛び越えるイサベルとじっと見つめたままのアナ。二人の距離は次第にできていく。

そして廃屋の隠れた負傷した脱走兵とアナとの邂逅。差し出されるリンゴ。父の上着と懐中時計。そして夜の銃撃戦と、食卓の父の元に戻っている懐中時計。この場面で初めて家族四人が揃う食卓シーンがある。しかし、そこには幸福な一家の団欒はない。アナは、再び廃墟へと向かい、兵士の不在と血の跡を発見し、目の前の父の姿に出くわす。精霊の世界に立ちはだかる現実の壁。
そしてアナが行方不明になる。夜の森を彷徨うアナ。フランケンシュタインとの出会い。このあたりの一連の描写は、多くの説明はされないが、見事にアナの心象を描き出す。ラストは、夜の森に向かって、精霊に呼びかけるアナの姿で終わる。

アナはいつまで精霊の存在を信じ続けられるのだろうか。われわれは、いつまでこの世界の得体の知れなさと向きあっていられるのだろうか。小賢しい知識で、この世界を理解したかのように訳知り顔で振る舞うオトナに、いつなってしまうのだろうか。映画は闇と光の深みを私たちに静かに示してくれる。この映画を観た時、誰もがそんな「あの頃」を思い出すに違いない。世界が謎の神秘と輝きに満ちていたあの頃を。


原題 El espiritu de la colmena
製作年 1973年
製作国 スペイン
配給 アイ・ヴィー・シー
日本初公開 1985年2月9日
上映時間 99分
監督:ビクトル・エリセ
製作:エリアス・ケレヘタ
原案:ビクトル・エリセ
脚本:アンヘル・フェルナンデス=サントス、ビクトル・エリセ
撮影:ルイス・クアドラド
美術:アドルフォ・コフィーニョ
編集:パブロ・G・デル・アモ
音楽:ルイス・デ・パブロ
キャスト:アナ・トレント、イサベル・テリェリア、フェルナンド・フェルナン・ゴメス、テレサ・ギンペラ、ケティ・デ・ラ・カマラ、ラリ・ソルデビリャ、ミゲル・ピカソ、ホアン・マルガリョ、エスタニス・ゴンザレス、ホセ・ビリャサンテ

☆☆☆☆☆☆☆7
(ミ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 家族 ☆☆☆☆☆☆☆7

「ジュリエッタ」ペドロ・アルモドバル

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愛の変態監督ペドロ・アルモドバルが、とてもまともな家族映画を作った。というのも、原作はノーベル賞作家のアリス・マンロー。

『トーク・トゥ・ハー』では、昏睡状態にある女性を一方的に思い続けるストーカー的愛の純情を描き、『私が、生きる肌』では、失った最愛の妻を肌を移植させることで甦らせようとした。法や倫理を超え、男女差や生と死の境界などあらゆる枠組み、既成概念を越境する力が愛にはあると信じているようだ。その枠組みを越境する強さと混乱。愛と嫉妬と欲望・・・そんな数奇で波乱に満ちた人生を描き続けてきたのがペドロ・アルモドバル監督である。

さて、この映画であるが、母と娘の物語である。スペインのマドリードで暮らすジュリエッタは、知り合いの女性に「あなたの娘を見た」と告げられ、12年も会っていない娘に思いを馳せる。そして、男性とのポルトガルでの新たな旅立ちを中止する。12年前、娘は突然、母の前から姿を消したのだ。その理由がわからないまま、わだかまりを抱えつつ母は孤独に生きてきた。娘が母と連絡を取るためには、マドリードの住所しか知らない。だから、ジュリエッタはマドリードから離れられなくなったのだ。

ジュリエッタが列車で男と出会い、娘を出産するまでの物語。そして、病気の母を若い女と介護する父の人生。さらに、娘が生まれてからの漁師の夫と娘の関係、そして夫が嵐の日に漁に出て行った直前の夫婦の諍い。夫の死とその後の娘との生活・・・。父や夫との関係、そして自分と娘の関係、それぞれの人生が交錯しながら、気持ちは少しずつズレていく。その小さなズレが時間とともに積み重なっていき、距離が広がっていく。いつも奇想天外な過激な人生ドラマを描いてきたペドロ・アルモドバルにあって、とても日常的な家族の距離感を丁寧な演出ですくい上げていく佳作である。いつものように色彩が美しい。情熱的な若きジュリエッタと孤独な哀しみを湛えた老いたジュリエッタ。それぞれに女性として美しくステキだ。


原題 Julieta
製作年 2016年
製作国 スペイン
配給 ブロードメディア・スタジオ
上映時間 99分
監督:ペドロ・アルモドバル
製作:アグスティン・アルモドバル、エステル・ガルシア
原作:アリス・マンロー
脚本:ペドロ・アルモドバル
撮影:ジャン=クロード・ラリュー
美術:アンチョ・ゴメス
音楽:アルベルト・イグレシアス
キャスト:エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ、ダニエル・グラオ、インマ・クエスタ、ダリオ・グランディネッティ、ミシェル・ジェネール、スシ・サンチェス、ロッシ・デ・パルマ

☆☆☆☆4
(シ)

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tag : 人生 家族 ☆☆☆☆4

「ダゲレオタイプの女」黒沢清

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死の気配に満ち満ちている映画だ。黒沢清が全編フランスでロケし、フランスのスタッフと俳優を使って撮った映画。黒沢清のフランス版『岸辺の旅』である。死者とのの交感という意味では、106歳で亡くなったマノエル・デ・オリヴェイラの『アンジェリカの微笑み』を少し思い出した。死の気配に満ちた不安な映画は黒沢清の真骨頂である。素晴らしい恍惚感と美しさだ。

装置や空間が黒沢清の映画にあっては、とても重要だ。フランスのパリ郊外の再開発地域にある古い屋敷が舞台だ。ダゲレオタイプの写真撮影アルバイトの面接に来たジャン青年とともに観客は屋敷を訪れる。重く大きな門、そして案内された吹き抜けのロビー。そこでジャンが待っていると、カメラがゆっくりパンをし、キィーという音ともに扉がゆっくりと開く。誰もない部屋。さらにふと階段を見上げると、青いドレスの女が立っており、ゆっくりと階段を上がっていく。ゾクゾクとする始まりだ。

さらにダゲレオ写真を撮るための大ぶりなカメラ装置。170年前の銀板に焼き付ける形の世界最古の撮影手法を再現している芸術家ステファン。そして長い露光時間のため、モデルを固定させる拘束器具。美しいモデル(娘のマリー)が拘束される場面はSM的な倒錯美だ。ジャンが拘束器具をつける時のマリーの甘美な吐息。そして、屋敷の庭の温室と植物。その植物を死へと至らしめる水銀を入れるタンク。ダゲレオタイプの写真は、美しき生や美を銀板に閉じ込める。そして永遠を手に入れる。モデルは120分も拘束器具で固定され、一種の仮死状態にさらされる。生の美しさと死がこの屋敷では日常的にせめぎ合っているのだ。そして、ステファンの妻は温室で首を吊って自殺したという。ステファンは、そんな妻の幽霊に日々悩まされている。

死が生を覆いつくしている古い屋敷で、物語は静かに進行する。狂気の芸術家の父ステファンとモデルのマリー。亡き妻の身代わりとなっている娘マリーと父との関係は、近親相姦的な倒錯性もある。そして、マリーは植物をする。植物園の就職面接で、マリーは植物のことを「動きは見えないけれども、根を張って環境を支配する」と語る。植物の目に見えない力。それは、ダゲレオタイプのカメラと拘束器具の力でモデル支配するステファンに対して、マリーや亡き妻たちの側に植物がある。それは生に対する見えない力=霊(死)の力でもある。

長時間露光の撮影が終わり、眠気に襲われていたジャンがマリーの拘束器具を解くと、マリーが気を失って倒れる場面がある。この人形のような動きに死の気配が宿り、観客はドキッとする。さらに、地下の写真スタジオ倉庫の階段を青いドレスの亡き妻の霊が上がっていく。それを追いかけるステファン。さらに、娘のマリーもその階段を上がっていくのだが、カメラは階段に固定されたまま動かない。やがて、一瞬の砂ぼこりの後、マリーが壊れた人形のように階段を転がり落ちてくる。カメラは階段の上で何が起きたのか、何も映さない。ただ階段を映すのみなのだ。まさに、階段が映画の主役であるかのように。

階段から落ちたマリーを死んだと思った父ステファン。まだ生きているとマリーを抱えて、車で病院に向かうジャン。しかし、夜の川のそばで、ジャンはマリーを車の後部座席から投げ出してしまい、マリーの姿が闇に消える。必死の探すジャンの前に、スッと立ち現れるマリーの姿。このシーンのマリーの描かれ方もスゴイ。やがて何ごともなかったかのように「家に帰りましょう」と言うマリー。観客は、マリーは死んでしまったのか、まだ生きているのか分からないまま、物語は進行していく。さらに屋敷を売らせるためにジャンはステファンに、マリーが死んだことをそのまま信じさせ、秘かにマリーと暮らすことにするのだ。どこからが死なのか不明なまま、さらに嘘で死を覆い隠し、生が営まれていく。生と死の境界が混沌としたまま、観客は最後までこの曖昧な物語につきあうことになる。

電車でマリーと屋敷に帰る場面、車で一緒に旅をし、モーテルに泊まるマリーとジャンの道行きは、『岸辺の旅』そのものである。朝、モーテルの壁にマリーが立っている場面も不気味だ。マリーが随所で見せる人形のような振る舞いに観客は死を感じ取る。

そばにいるのに、その存在が確かなものとして感じられない感覚、あるいは「見えないもの」に支配されている感覚、生きることの不安と不確かさ、あるいは芸術や映画そのものに潜む死の力、そんなものがこの映画には充満している。そして、それを装置や空間を通して、黒沢清を不気味に描き出すのだ。


原題 La femme de la plaque argentique
製作年 2016年
製作国 フランス・ベルギー・日本合作
配給 ビターズ・エンド
上映時間 131分
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
プロデューサー:吉武美知子、ジェローム・ドプフェール
撮影:アレクシ・カビルシン
美術:パスカル・コンシニ、セバスティアン・ダノス
衣装:エリザベス・メウ
編集:ベロニク・ランジュ
音楽:グレゴワール・エッツェル
キャスト:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリビエ・グルメ、マチュー・アマルリック、マリック・ジディ、バレリ・シビラ、ジャック・コラール

☆☆☆☆☆5
(タ)

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tag : ホラー ☆☆☆☆☆5

「手紙は憶えている」アトム・エゴヤン

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アトム・エゴヤン監督作品を観るのは初めてかと思う。ふと気づくと「ルース、ルース」と最愛の妻の名前を呼ぶ90歳のゼブ(クリストファー・プラマー)の姿が痛ましい。最愛の妻を一週間前に亡くしたのだが、そんなことさえ忘れてしまう認知症の老人。そんな彼が、友人マックスから1通の手紙を渡される。手紙には、二人はナチスにアウシュビッツで大切な家族を殺されたこと、アウシュビッツの生存者である彼は妻が死んだら、家族を殺したナチスの兵士に復讐することを誓っていたことが書かれている。そして、身分を隠して今も生き延びているナチス兵士の居場所と復讐計画が記されていた。体が不自由な友人マックスの思いも抱えつつ、ゼブは施設を脱け出して単身、旅に出る。

旅の途中、何度も記憶をなくし、今何をしているのか分からなくなり、そのたびに「ルース、ルース」と妻の名を呼び姿を探す。そして、手紙を読んで、自分の使命を確認するゼブ。高齢化社会のこの時代、認知症の老人を主役にすえ、しかもナチス残党探しの復讐物語。当然、話は重くなる。それでも、飄々と旅するクリストファー・プラマーがいい。登場人物も少なく、死を覚悟した老人のロードムービーになっていて、主役を認知症にしたその設定がうまい。

そして衝撃のラスト。ネタバレになるので何も書けない。何も知らないまま観ることをおススメします。


原題 Remember
製作年 2015年
製作国 カナダ・ドイツ合作
配給 アスミック・エース
上映時間 95分
監督:アトム・エゴヤン
製作:ロバート・ラントス、アリ・ラントス
脚本:ベンジャミン・オーガスト
撮影:ポール・サロシー
美術:マシュー・デイビス
音楽:マイケル・ダナ
キャスト:クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ヘンリー・ツェニー、ディーン・ノリス、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ
ハインツ・リーフェン、ディーン・ノリス

☆☆☆☆4
(テ)

テーマ : 映画レビュー
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tag : 人生 戦争 ☆☆☆☆4

「イレブン・ミニッツ」イエジー・スコリモフスキ

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ポーランド映画で初期60年代のイエジ-・スコリモフスキ特集を見た時、その実験性と革新性にビックリした。まさに、数々の傑作がこの時期に誕生した。『身分証明書』、『不戦勝』、『パリエラ』、『手を挙げろ!』などレビューも書いたので、そちらも参考にして欲しい。(イエジ-・スコリモフスキ監督作レビュー)
それらの初期作品群に、ゴダールも興味を持ったという逸話がある。ポーランド・ヌーヴェルバーグである。ロマン・ポランスキーの初期傑作『水の中のナイフ』の脚本には、イエジー・スコリモフスキが参加していた。60年代のポーランドには、優れた若き才能が結集していた。スコリモフスキには、1970年制作の『早春』というカルト的人気の作品もある。

そんなイエジ-・スコリモフスキが17ぶりに復帰したのが『アンナと過ごした4日間』(2009)であり、83分台詞なしで雪の森を逃げ続ける映画『エッセンシャル・キリング』(2011)なども撮っている。そして、この新作『イレブン・ミニッツ』である。1938年生まれだから、もう78歳である。わずか11分間に起きる様々な人物たちのそれぞれのドラマを、様々な映像を駆使して製作したまさに実験作である。凝縮された11分間。「4日間」だったり、「11分間」だったり、森を逃げ続けたり、持続した時間、空間にこだわり続け、いつまでも、果敢に挑戦し続ける監督なのだ。

しかし、ややこの映画は観念的に形式的にやり過ぎた感じである。消化不十分のまま投げ出された感じで、観客はただ戸惑うしかなかった。携帯の手持ちカメラから始まり、監視映像、パソコンのカメラ、並んだモニター、犬の目線、超クローズアップやスローモーションなど今の時代に溢れている様々な映像で表現される。なんの脈略もないバラバラの人々が、11分の間にどう交差していくか?午後5時からの11分間だけなので、それぞれの人生の深みなど描きようがない。観客は想像するしかないのだが、残念ながら僕にはそれぞれの人生が交差する面白味を見い出せなかった。

物語の中心は、女優と嫉妬深い夫だ。女優は映画監督のいるホテルの一室でオーディションを受ける。性的な目線で女優を面接する映画監督。心配になってホテルの一室まで追いかけてきた夫。ホテルの前では、刑務所から出てきたばかりのホットドッグ屋の男。ホットドッグを買いに来た犬を連れた女。あるいはクスリをやりながら人妻とセックスしていたバイク便の男は、夫が早く帰ってきたことで慌てて飛び出しバイクを走らせる。どうやら、ホットドッグ屋の父にホテルまで呼び出されたようだ。ホテルの一室では若いカップルがポルノビデオを見ている。ビルの窓の清掃人。さらに救急車で出産間近な妊婦を運ぶ救急隊員と女性医師。橋の下の画家。強盗をしようとする少年。そんなそれぞれの人々が無関係に羅列される。そして、何人かがホテルに集まってくる。

ビルの間近を低空飛行で滑空する飛行機が何度も挿入され、9.11のテロを思い起こさせる。11分間は、11日のカタストロフを予感させる。パニック。理不尽な暴力。人生は一瞬にしてそんな理不尽な暴力にさらされる。ノイズのような音が映画を支配し、不吉な空気を演出する。画面についた黒いシミ。ちょっとしたボタンのかけ違いで、悲劇は起きる。物語は不消化ながら、実験精神に満ちた映像表現ではある。


作品データ
原題 11 minut
製作年 2015年
製作国 ポーランド・アイルランド合作
配給 コピアポア・フィルム
上映時間 81分
監督:イエジー・スコリモフスキ
製作:エバ・ピャスコフスカ。イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ
撮影:ミコワイ・ウェプコスキ
編集:アグニェシュカ・グリンスカ
音楽:パベウ・ミキェティン
キャスト:リチャード・ドーマー、ボイチェフ・メツファルドフスキ、パウリナ・ハプコ、アンジェイ・ヒラ、ダビド・オグロドニク、アガタ・ブゼク、ピョートル・グロバツキ、アンナ・マリア・ブチェク、ヤン・ノビツキ、ウカシュ・シコラ、イフィ・ウデ、マテウシュ・コシチュキェビチ、
グラジナ・ブウェンツカ=コルスカ、ヤヌシュ・ハビョル

☆☆☆3
(イ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 サスペンス ☆☆☆3

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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