「女に二度決断する」ファティ・アキン

二度
(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

トルコ移民の両親のもと、ドイツのハンブルグ生まれのファティ・アキン監督は、ずっとドイツのトルコ移民の問題を扱ってきた。それが彼の出自である以上、その問題から逃れられないのだろう。そして今作も、トルコ移民の夫と結婚したドイツ人女性カティヤの苦悩をめぐる物語である。絶望的な深い哀しみと復讐の怒りを心のうちに滲ませた妻を演じるダイアン・クルーガーが素晴らしい。彼女の独り舞台とも言えるこの映画は、彼女の演技で支えられている。

トルコ移民である夫はハンブルグのトルコ人街で起業し、会社を構えていた。妻のカティヤは友人とトルコ風呂でくつろぐために、日中、一人息子を夫に預けた。その間に起きた爆弾テロ。犯人は移民排斥を訴えるネオナチだった。

最愛の夫と息子を一瞬にして失った妻カティアの苦悩は計り知れない。冒頭は愛にあふれた夫との結婚式、息子や夫との幸福なやりとり、そして友人と浴場でくつろぐ場面など、これから起きる惨劇とはかけ離れた幸福な日常が描かれる。そして、夫の会社に戻ってからの爆発事故現場との遭遇という具合に、映画はカティアに寄り添う形で進行していく。だから、派手な爆発場面は描かれない。遺体とも対面できぬまま、DNA鑑定で夫と息子の死が知らされ、突然の悲劇を受け入れざるをえず、戸惑いながらも哀しみに沈んでいく。前半は雨がずっと降り続く。降り続ける雨が、彼女の哀しみを深く深く沈みこませる。夜の窓ガラスの雨の雫が影となって彼女の顔に映る場面など、映像の描写もいい感じだ。トルコ人の両親とのやりとりや、ドイツ人の母との確執も見応えがある。夫には薬物売買を扱っていた前科があり、善良なる市民と描いていないところもリアリティがある。そこにはトルコ移民の現実がある。

中盤はほとんど法廷のシーンが続く。友人の弁護士ダニーロ(デニス・モシット)とともにネオナチの被疑者カップルとその弁護士と対峙する。このネオナチの弁護士がなんとも憎らしくてうまい。凄惨な事故現場の証言とともに、子供を失った彼女の心理は追いつめられていく。そして、弁護団の卑劣な言い逃れに怒りが少しずつ増幅されていくあたりも構成的にうまい。

そしてラストは、ギリシアの海へ。何度も繰り返されるスマホで録画された家族の幸福な海辺のシーンが泣ける。カティアは何度もスマホ動画で、最愛の夫と息子への思いを募らせる。哀しみの雨は海へと還っていく。そしてある行動をとる。

それについてはネタバレになるので書かないが、一度決意した行動を取りやめ、別の形で実行するのが、この映画の重要なところだろう。暴力やテロをどのように封印していくか。怒りの連鎖を断ち切るために、どうすればいいのか。裁判という公正な仕組みがうまく機能しなかったとき、我々はその理不尽な現実とどう向き合えばいいのか。この映画のカティヤが取った行動は正しかったのか、映画はなにも語っていない。ただただ、そうせざるをえなかった哀しみと苦悩が描かれるだけである。私は彼女の行動に共感しつつも、どこか割り切れぬ思いを抱えて、映画館を後にした。結局は復讐をしただけではないのか。正解などない。この不条理な暴力の現実に対して、我々がどう立ち向かっていくのかは、人類の永遠の課題である。復讐し続けるという暴力の連鎖を断ち切ることを、どうやったら目指せるのかは、とても簡単なことではない。そのために裁判があり、社会がある。しかし、現実の争いは止まない。その重さだけが、ずっしりと伝わってくる映画である。なんとも重くやりきれない映画だ。ファティ・アキンの映画は初期の方が面白く感じていた。だんだん単純化されているような気もする。


原題 Aus dem Nichts
製作年 2017年
製作国 ドイツ
配給 ビターズ・エンド
上映時間 106分
映倫区分 PG12
監督:ファティ・アキン
脚本:ファティ・アキン、ハーク・ボーム
撮影:ライナー・クラウスマン
美術:タモ・クンツ
音楽:ジョシュア・ホーミ
キャスト:ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨハネス・クリシュ、サミア・シャンクラン、ヌーマン・アチャル、ヘニング・ペカー

☆☆☆☆4
(オ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 家族 社会 法廷 ☆☆☆☆4

「ザ・スクエア 思いやりの聖域」リューベン・オストルンド

スクエア
(C)2017 Plattform Prodtion AB / Societe Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

「フレンチアルプスで起きたこと」(未見)のスウェーデンのリューベン・オストルンド監督。2017年・第70回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した作品。

知的な企みに満ちた作品である。ストーリー的なカタルシスも何もないので、なんじゃこりゃ?的な映画なので万人におススメはしない。いろいろ考えたい人向きの作品。現代アート美術館のキュレーターのクリスティアン(クレス・バング)を取り巻くアート的世界の人間たちの自己欺瞞や差別、偏見、他者への無関心、階層の断絶などを皮肉を込めて描いた自己批評的な映画。ネット社会の群集心理や暴力やセンセーショナルな過激描写などの問題も浮き彫りにしている。

赤ちゃんの声や女性の叫び声、子供の「助けて」、モンキーマンの野獣の叫び、障害者の卑猥な野次など、なまざまな音が映像に介入し、混乱を引き起こす。「ザ・スクエア」という新たな展示は、通りがかる人々に「思いやりの聖域」として利他主義へと導くインスタレーション。しかし、キュレーターのクリスティアンはある日、広場で逃げ惑う女性を助けたところ、携帯電話と財布を盗まれてしまう。思いやりがアダとなる皮肉。その盗難者をGPSで追求し、「正義」を振りかざして、犯人への告発チラシを団地中の郵便ポストにばらまく。その地域への偏見に満ちた行為がアダとなり、犯人でもないのに犯人と決め付けられた少年の怒りを買う。その少年への対処でさらに事態をこじらせ、自分に好意を寄せるインタビュアー女性との一夜のセックスが意外な詰問に合う。さらにアート関係者のパーティーでの見世物モンキーマンのパーフォーマンスで、野獣のように人々に襲いかかり、一同見て見ぬふり。そして暴力的にモンキーマンを集団でねじ伏せようとしたり、人集めのための話題優先のスキャンダラスなネット動画で批判を浴びたり、次から次へとトラブルが巻き起こる。そこに見えてくる現代人の自己欺瞞や偏見や差別意識。思いやりの聖域の平等意識など、偽善に満ちた空疎なものに思えてくる。

どこかルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』などのインテリ階級やブルジョワジー批判を思い出させる。映画としては、やや観念的な図式性は感じられるものの、他の作品も観たくなる監督。カンヌのパルムドールは出来過ぎな気もするが、こういう知的批判精神はウケるんだろうな。


原題 The Square
製作年 2017年
製作国 スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク合作
配給 トランスフォーマー
上映時間 151分
監督:リューベン・オストルンド
脚本:リューベン・オストルンド
撮影:フレデリック・ウェンツェル
美術:ヨセフィン・オースバリ
キャスト:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー

☆☆☆☆4
(サ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 社会派 皮肉 ☆☆☆☆4

「聖なる鹿殺し」ヨルゴス・ランティモス

鹿
(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited


なんとも救いのない重苦しい映画だ。罪と罰。生け贄。古代ギリシャ悲劇『アウリスのイピゲネイア』を下敷きにしていると言われている。このギリシャ悲劇は、トロイア戦争のころ、ギリシャ軍の大将アガメムノンが、女神アルテミスが大事にしていた鹿を射殺してしまい、アルテミスの怒りをしずめるために、アガメムノンは、娘のイピゲネイアを生け贄として捧げる・・・という話だ。「聖なる鹿」はその逸話から取られているようで、映画の中で鹿は登場しない。

冒頭は手術中の心臓のアップ。脈打っている心臓が不気味だ。最初は、男性と少年がカフェで話しているところから始まる。少年は遅れてやってきて、ハンバーガーを注文して食べる。そして、この男性は医者であることがわかり、少年に腕時計をプレゼントする場面が描かれる。まず、この二人の関係が観客にわからない。親子ではなさそうで、隠し子?とか思いながら見ていると、自宅に少年を招待したりもする。裕福で、幸福そうな家庭。美しい姉と弟。姉は合唱団に参加しており、弟は長い髪をなかなか切らず反抗期でもあるようだ。どこにでもある裕福な医者一家の風景。そこにこの少年が絡んでくる。

不気味で不穏な空気が次第に濃くなり、物語はサスペンスへと展開する。しかもまったく不条理なサスペンスだ。医者一家の弟の足が突然、動かなくなり、下半身麻痺と摂食障害で入院する。そして、その奇病を姉も発症し、原因不明のまま二人が父の病院に入院することになる。一家に何が起きたのか?少年と父親の関係は・・・という謎を引っ張りつつ、物語がますます不穏で恐ろしくなっていく。まさにホラー映画だ。

不気味な存在の少年マーティンを演じるのが、バリー・コーガン。彼が本当に素晴らしい。悪魔か神の使いなのか?彼が子供たちに呪いをかけたのか?映画は何も明らかにしない。彼が、妻役のニコール・キッドマンの前で、パスタを食べる場面は本当にゾッとする。映像がスタイリッシュで、弟が病院で倒れる場面の俯瞰映像など、随所に不穏な空気を演出している。姉キム(ラフィー・キャシディ)の不安定な歌声や、マーティンとキムのデート場面など、観ていてドキドキする。後半はさらに暴力が加速し、生け贄を誰にするかで、様々な変化があり、ますます恐ろしさは増していく。母の発言や行動、そして自ら犠牲になろうとする姉。そして、ラスト・・・。ネタバレになるので書くのはやめておく。

とにかく、いや~な気分になる映画である。なぜ生け贄を捧げなければならなかったのか?心臓外科医であるスティーブン(コリン・ファレル)の奢りや傲慢さ、過ちというものは、映画では描かれない。そういう男だという話がなされるだけだ。なぜ家族が生け贄を差し出さないと救われないと思うのか。映画の中で、コリン・ファレルは寡黙で、罪悪感を抱えつつ、マーティンに追いつめられていくだけだ。過ちはあったのだろうが、ここまで家庭を破壊されなければいけないのか。

因果応報というにはあまりにも理不尽でスッキリしない。マーティンという少年の不気味さと、不条理な奇病に苦しむ家族の崩壊が恐ろしいだけだ。映像センスと不穏な空気の演出には監督の力を感じるが、映画としてあまり楽しめなかった。


原題 The Killing of a Sacred Deer
製作年 2017年
製作国 イギリス・アイルランド合作
配給 ファインフィルムズ
上映時間 121分
映倫区分 PG12
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
撮影:ティミオス・バカタキス
美術:ジェイド・ヒーリー
衣装:ナンシー・スタイナー
編集:ヨルゴス・モブロプサリディス
キャスト:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン、ラフィー・キャシディ、サニー・スリッチ、アリシア・シルバーストーン、ビル・キャンプ

☆☆☆3
(セ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族 サスペンス ☆☆☆☆4

「シルバー・グローブ/銀の惑星」アンジェイ・ズラウスキー

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とんでもない映画を観てしまった。前半、睡魔にも襲われたので、とてもレビューを書く資格はないのだが、あまりにもぶっ飛んだ映画だったので、備忘録として書いておく。たぶん、睡魔に襲われなくても、訳がわからなかったであろう。そう、まったく奇妙で狂気のような映画なのだ。よくこの監督のぶっ飛んだ世界に役者、スタッフたちがついていったものだと感心する。それなりのカリスマ性があるのだろう。160分の長い映画なので、途中でもう早く終わって欲しいような気分だった。とにかく意味不明な叫ぶような台詞まわし。喚き、怒鳴り、ヒステリックなのだ。さらに手作り感のあるチープな衣装や装飾、独特な世界観で戦いが繰り広げられる。カルト映画で有名なアレハンドロ・ホドロフスキーよりも分からない・・・。

東京で時間ができた時は、あまり札幌では観られないようなマイナーな映画を観るようにしている。それでこの夜、新文芸坐にて映画批評家・大寺眞輔さんの講義付きのシネマテーク企画として、知らないポーランド映画の上映があったので行った。

SF映画という情報だけで観たのだが、アンドレ・タルコフスキーのようなスタイリッシュさはないし、SF映画の異世界の描き方も中途半端だ。地球に似たような空気がある惑星という設定なので、海岸や砂浜や何もない平原や洞窟などで撮影されている。どちらかというと、S・キューブリックの「2001年宇宙の旅」やコッポラの「地獄の黙示録」の哲学的な世界に近いのだが、とにかく展開がわかりづらい。上映後の大寺眞輔さんの説明でなんとか物語は理解は出来た。

そもそもこの映画、1977年、ポーランド政府によって撮影中止を言い渡され、完成していないのだ。膨大な制作費をかけ、ヨーロッパ各地でロケを敢行していたのだが、すべて撮影をやめ、小道具も衣装も処分せよ、と時の共産党政権に言われたそうだ。その後フランスを中心に活動していたアンジェイ・ズラウスキーは、1987年、ポーランドに戻り、フィルムの欠落部分をナレーションと実景映像などで埋める形で、無理やり完成させたのだ。中止を言い渡された呪われたフィルムとして。だから映画はとても粗い。物語の進行も、登場人物たちの描かれ方も、そして欠落だらけのつぎはぎ映像も、音の使い方も。すべてが粗く、雑で、強引なのだ。完成度は低く、映画としては大いなる失敗作である。しかし、なんだか熱量だけはあるのだ。人類そのものを描こうとしたその壮大なる想像力だけは感じる。

原作は、監督の大叔父のイェジイ・ジュワフスキによる同名小説で、月の話だそうだが、設定を地球と似た惑星に代えている。宇宙船で惑星に不時着した乗組員たちは、子孫を作り、文明を築いていく。人類の創世記だ。文明、宗教、部族の対立。生き残った最後の宇宙飛行士が、地球に向かってロケットを飛ばす。そのロケットには不時着してからの映像が収められていた。それを地球で拾ったマレックという科学者が、妻に先立たれた地球での生活を捨て、再びその惑星に向かい、降り立つ。そして、救世主として惑星の住民たちに迎え入れられるのだ。テレパシーを持つ鳥の頭をしたようなシェルンという現地民たちとの戦い。そして、最後はマレックは救世主ではなかったと住民から石を投げつけられ、磔刑にされて終わる。まさに黙示録的キリスト教の世界である。欲望、暴力宗教、戦争、幻想

もう一度観るかというと、遠慮しておく。だけど、アンジェイ・ズラウスキー監督の他の作品は、怖いもの見たさで観るかもしれない。アフタートークが演劇でも映画でも最近よく行われているが、こういうトークイベントというのも面白いと思った。

原題 Na srebrnym globie
製作年 1987年
製作国 ポーランド
上映時間 : 160分
監督:アンジェイ・ズラウスキー
脚本:アンジェイ・ズラウスキー、イェジー・ズラウスキー
原作:イェジー・ズラウスキー
キャスト:アンジェイ・セベリン、クリスティナ・ヤンダ、ラジーナ・ディラグ、イェジー・トレラ

☆☆☆3
(シ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : SF 幻想 暴力 宗教 ☆☆☆3

「ラブレス」アンドレイ・ズビャギンツェフ

ラブレス

ロシア現代社会への批判を強く意識して作られた作品。ロシアの富裕層の夫婦の諍い。自分勝手な夫と妻。離婚協議中で、お互いに新たなパートナーがすでにいて、子供をどちらが引き取るかを揉めている最中に、子供が失踪してしまう。

冒頭の雪に閉ざされた静寂の森。水辺の鳥。折れ曲がった木々。厳しい凍てつく冬の景色と閉じ込められたような閉塞感が映画を支配する。そして学校から出てくる子供たち。森の中を歩く一人の少年。水辺を歩き、リボンを拾う。そして、空に向かって投げると、木の枝にリボンがひっかっかる。このリボンがラストにもう一度、映し出される。少年は森の中に消えたままだ。

ラスト、離婚が成立し、それぞれのパートナーと暮らす二人。それぞれの家庭のテレビからウクライナ紛争のニュースが流れる。何人もの死者が出ていることをテレビは告げる。夫は、新しく生まれた子供をベッドに追いやり、妻はベランダに出てルームランナーで走る。そのジャージにはロシアの文字がある。ウクライナ紛争のニュースを見たくないかのような「無関心」。それは、子供への「無関心」ともつながっており、現代のロシアの人々への批判になっている。あるいはプーチン強権体制への批判か。

窓からの風景が印象的に使われる。二人が住んでいたアパートが改装中で、その窓から雪で子供たちが遊ぶ公園が最後に映し出される。その美しき絵のような雪の公園は、この映画でもっとも微笑ましい幸福な映像である。しかし、この夫婦の描かれる生活には、そのような幸福なシーンは一度もない。がみがみと文句を言い続ける妻。黙る夫。口喧嘩の果てに、車からそんな妻を放り出す夫。車からの窓、学校の窓。登場人物がいなくなった後のシーン終りで、長めに無人の窓が度々映し出される。あるいは、電車の中で、家の中で、妻はずっとスマホの画面を眺めつづけている。個々人が隔絶されているような孤立感。閉塞感。妻が新しいパートナーと暮らす部屋も広くて豪華だが、殺風景で温かみはない。

後半は民間ボランティアの捜索隊が子供を探す場面は延々と描かれる。警察よりもよっぽど規律正しく熱心に、彼らは黙々と子供を捜索する。なぜ彼らがこれほどまでに熱心に、子供を探すのかよくわからない。仕事でもないというのに。そこにも、温かさは描かれない。規律正しくマニュアル通り、組織的に捜索を継続する。この映画には、笑いや温もりやユーモアは一切描かれない。あるのは即物的なセックスと不安と苛立ち。そして喪失感。の不在。子供の行方を探しに、妻の母、祖母の実家に行くのだが、その祖母がまた凄い。夜中に子供を探しに訪ねてきた娘へのものすごい悪意と文句。母から逃げ出すために、娘は結婚し、子供を産んだ。家から出られるなら、相手は誰でも良かったと振り返る妻。夫のことなど一度もしていない。子供なんて産まなければよかったと。誰もいない森と廃墟の建物。救いがない。

行方不明者の子供の遺体を見て「別人だ」と言い、「子供を手放すつもりなんてなかった」と泣き叫ぶ妻。それが後悔した本音なのかさえよくわからない。夫は放心して頭を抱える。失われた子供という現実が残るだけ。欠落感。喪失感。新たな二人の生活も、決して幸福そうには見えない。なんとも、重く、やるせない映画だ。だからラストのウクライナ紛争のニュースとロシアのジャージが、やや政治的メッセージがあり過ぎて、どうなんだろうと疑問に思った。映像には力があり、役者たちの存在感も素晴らしい。


原題 Nelyubov
製作年 2017年
製作国 ロシア・フランス・ドイツ・ベルギー合作
配給 クロックワークス、アルバトロス・フィルム、STAR CHANNEL MOVIES
上映時間 127分
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
脚本:オレグ・ネギン、アンドレイ・ズビャギンツェフ
撮影:ミハイル・クリチマン
美術:アンドレイ・ポンクラトフ
編集:アンナ・マス
音楽:エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
キャスト:マルヤーナ・スピバク、アレクセイ・ロズィン、マトベイ・ノビコフ、マリーナ・バシリエバ、アンドリス・ケイシス、アレクセイ・ファティフ

☆☆☆☆4
(ラ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 家族 ☆☆☆☆4

プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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