「無言歌」ワン・ビン

無言歌

すっごい映画だ。娯楽いっぱいのポップコーン食べながらコーラ片手に笑い転げる楽しい映画があるかと思うと、こんなに観ていて辛く苦しくなる映画もあるんですね。映画というものは、とても幅の広いものです。こういう映画もまた大いなる刺激を受けます。そもそも、当局の規制をかいくぐって、中国映画としてではなく、何か言われた時のためにダミーの脚本も用意しながら、ワン・ビン監督は確信犯的に、モンゴル国境に近い中国西部のゴビ砂漠で秘かに撮ったというまさに執念の映画である。資金も集まらず、企画から完成まで6年もかかったらしい。毛沢東批判に当たり、中国では当然ながら上映禁止の作品だ。ベネチア映画祭で詳細は隠して、サプライズ上映された。

山形国際ドキュメンタリー映画際をはじめ、各国で高い評価を受けてきたワン・ビン監督の初めての長編劇映画。ワン・ビン監督は9時間や14時間を越えるドキュメンタリー作品があるそうだが、未見です。

この映画は、中国共産党を批判した「右派分子」を粛清するという、1957年に毛沢東によって発動された「反右派闘争」を描いたものだ。編集にダルデンヌ兄弟監督の全作品を手掛けたマリー=エレーヌ・ドゾが参加しているそうです。


風吹きすさぶ荒涼とした黄土色の大地。まさに不毛の土地だ。そこを人がぞろぞろと歩いている。一人ひとりの顔はわからない。そして、ひたすら長い溝を掘っている。強制労働だ。1956年、中国共産党は言論の自由を保障し、党への批判を歓迎する「百花斉放・百家争鳴」を提唱した。しかし1年後、今度は党を批判した人々を「右派」と指弾、再教育のために辺境に送り込んだ。これを「反右派闘争」と呼ぶ。ここはその「右派」たちを思想改造をするための強制収容所。1960年、日本は高度成長を進み始め、豊かになりだした頃だ。

カメラはその荒涼とした大地から、彼らが暮らす地下の穴倉へと進む。土の上に用意されている簡素な寝床。地上の差し込む光と穴倉のような闇。食事はドロのような汁物だ。過酷な彼らの生活が映し出される。ネズミを殺して食べ、枯れ草の実を拾い、他人が吐いたゲロまで食べる。目を背けたくなるほどの飢餓。飢饉で食糧難となり、次々と人が死んでいく。死体は荒野に野ざらしで、その死体から衣服を奪い、こっそり人肉まで食うやつが現れる。まさに地獄絵だ。映画は、そんな人々の悲惨な姿を淡々と写し取る。まさにドキュメンタリーのように。

ドラマはそんな収容所に夫に会うために妻がやってくるところから始まる。その夫は7日ほど前に死んでしまった男だ。衣服は剥ぎ取られ、太ももの肉まで食われてしまった荒野の死体。妻は、夫をどこに埋葬したのかを尋ねるが、誰も教えてくれない。泣き続けて、収容所に留まり、夫の死体を捜し続ける妻。

そのほか死を前にして脱走する恩師と弟子もエピソードや、収容所長に残って自分の仕事を手伝え、と目をかけられる囚人の班長のエピソードなども描かれる。

累々と荒野に横たわる死体。そのギリギリの生死の狭間で、ただ生きるために生きている人々。むきだしの人間。愛情も恩師への思いも、生きていくために宙吊りにされる。「死んだ者のことよりも生きている者のほうが大切だ」と語られるその過酷な現実。そこで生きるということはどういうことなのか、私たちは言葉を失う。カメラはそれを大袈裟な怒りや告発といった視点ではなく、静かにその過酷な人間たちを見つめるだけだ。


原題: 夾辺溝
製作国: 2010年香港・フランス・ベルギー合作映画
配給: ムヴィオラ
監督: ワン・ビン (王兵)
原作: ヤン・シエンホイ
脚本: ワン・ビン
撮影: ルー・ション
編集: マリー=エレーヌ・ドゾ
キャスト: ルウ・イエ、リェン・レンジュン、シュー・ツェンツー、ヤン・ハオユー、チョン・ジェンウー、ジン・ニェンソン、リー・シャンニェン

☆☆☆☆4
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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