「6才のボクが、大人になるまで。」リチャード・リンクレイター

ひとりの少年の6歳から18歳までの成長と家族の軌跡を、12年かけて撮影した映画だという。オーディションで選ばれた少年エラー・コルトレーンは12年間、毎年夏休みに映画に関わった。お姉ちゃん役のローレライ・リンクレイターも母親役のパトリシア・アークエットも父親役のイーサン・ホーク も12年間、家族を演じ続け、その歳月が彼らにも加わる。映画の時間と現実の時間が重なっていく。少年は声変わりし、少女も女性になり、俳優である両親の二人にもシワや脂肪や白髪も加わっていく。時間を映画に詰め込んでいるのだ。
それにしてもこの男の子、よく6歳から18歳まで続けたなぁ。途中でグレてイヤになったり、やめたくなったりしなかったのだろうか?しっかりと親と契約を結んでいたのだろうなぁ。6歳のまだ何もわからなかった頃にオーディションを受けて合格して撮影が始まって、それから12年…。気持ちも変わるし、性格も変化する。実際、この映画の最大の見どころは、この少年の変化である。可愛かった男の子は、次第にナイーブでシャイな青年になっていく。それは作られたキャラクターではなく、少年の変化からもたらされたものだろう。そもそも、この映画の脚本は少年の成長とともに書き加えられていったのだろうか?まさか、初めから作られたものではないだろう。それなら、俳優を変えて撮ってしまった方がいい。作り手側もまた、少年の成長とともに一緒に映画を作り上げていったのだろう。両親の離婚と子供たちの成長という大きな括りはあったにしても。途中で暗礁に乗り上げることなく、12年かけて作り上げたキャスト・スタッフの努力に敬意を払いたい。そう簡単にできることではないと思う。
子供の成長を実際に何年もかけて撮った映画としてマイケル・ウィンターボトムの「いとしきエブリデイ」があった。あれは5年間程度だった。本物の姉弟を使って5年間、ちょっとずつ撮影した家族の映画だった。この映画は夫が刑務所に入ってしまい、父親不在の5年間を描いた家族の物語だったが、この作品は12年である。
「いとしきエブリデイ」レビュー
家族の変化のストーリーは当然ある。父親が離婚して、別の父親と母親が結婚、引っ越し。新たな兄妹との暮らし。実の父と過ごす週末のドライブ。そして義父のアル中と暴力でさらに引っ越し、離婚。少年の初恋に失恋、そして人生観の変化・・・。当然のフィクショナルなストーリーはあるが、そこに必要以上の演出やわざとらしさがない。映画の上映時間は2時間45分とやや長い。劇的な展開がある映画ではないので、ダラダラと長くは感じる。どうやって終わらせるんだろうと思いながら観ていた。人生そのもののような映画なのだから、なにか死にまつわるような劇的な事件を起こすわけにもいかない。でもなかなかラストも良かった。あぁ、若いっていいなぁと単純に思ってしまった。そして子供を送り出す母親の涙もよくわかる。人生、いろいろ苦労してもあっという間である。撮影時間の12年という時間の重さとともに、説得力のあるシーンになっていた。
ラストの若い二人の台詞も瞬間と時間に関わるものだった。男の子は瞬間を切り取る写真に興味を持つ。瞬間には時間が刻みつけられている。瞬間の積み重ねが時間の連なり。高校を卒業した息子が父親に「今の話の要点は何?」と聞くと、父親役のイーサン・ホークが「要点なんかわからないよ」と言う場面があった。人生に要点なんかないのだ。時間はつながっている。瞬間を切り出しても、それが全てではない。いいことも悪いこともすべてひっくるめて人生なんだよね。
リチャード・リンクレイター監督は恋人たちの時間にこだわった「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」や「スクールズ・オブ・ロック」というなかなかいい青春映画も撮っている。
「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」
原題:Boyhood
製作年:2014年
製作国:アメリカ
配給:東宝東和
監督:リチャード・リンクレイター
製作:リチャード・リンクレイター、キャスリーン・サザーランド
製作総指揮:ジョナサン・セリング、ジョン・スロス
脚本:リチャード・リンクレイター
撮影:リー・ダニエル、シェーン・F・ケリー
美術:ロドニー・ベッカー
衣装:カリ・パーキンス
編集:サンドラ・エイデアー
音楽監修:ランドール・ポスター、メーガン・カリアー
キャスト:エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレイター、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク
☆☆☆☆4
(ロ)
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「フランシス・ハ」ノア・バームバック

男友達に「お金が入ったから奢るわ」と言いながらも、カードが使えなくて、ドタドタとお金をおろすためにATMを探しに走り、転び、出血しながら戻ってくるフランシス(グレタ・ガーウィグ)。そしてデビット・ボウイの曲「モダンラブ」に合わせて、踊りながら街を颯爽と駆け抜けるフランシス。あるいは、友とケンカごっこをしようと殴りあう無邪気なフランシス。踊り、走り、躍動するフランシスが前半に描かれる。そんな女の子が躍動する青春映画なのかと思いきや、モダン・バレエでプロになりたいフランシスは現実ではちっとも踊れない。走ることもできない。
後半はすっかり動けなくなり途方に暮れる。思い立って週末パリに遊びに行っても、友人にも会えず、まったりとカフェで時間を潰すだけ。バレエが続けられなくなって、母校に戻って踊ろうとするも踊れず、ワインを注ぎながら働く冴えないフランシス。親友ソフィー(ミッキー・サムナー)に会っても隠れようとしさえする。才能もないのに虚栄心もあって、不器用でいろんなことがうまくいかないけれど、どこか憎めない女性。走りたいのに走れない。踊りたいのに、踊れない。そのジレンマ。鬱屈。焦り。だからこそ、観客は27歳の彼女に共感する。親友とも言える友への嫉妬も含めて、ちょっとズレたところもあって、心情がとてもリアルなのだ。だからこそ、地味な映画ながらヒットしたのだろう。
恋人とあっさり別れ、親友ソフィーとの同居生活を選んだのに、恋人ができたソフィーに去られ、同居生活が解消になってからの居場所を求めて町を転々とする物語である。時には、男二人の同居人を見つけたり、実家に帰ったり、パリに行ったり、母校に帰ったり、なかなか居場所が定まらない。それはつまり、夢を諦めきれず、生き方が決まらないということだ。そんな誰にでもある等身大の青春映画。この映画は恋愛よりも同性の友との確執が主要なテーマになっているのも好ましい。ありきたりな恋愛映画になっていないのだ。
ノア・バームバックは、監督作「イカとクジラ」のほか、「ライフ・アクアティック」「ファンタスティック Mr. Fox」などウェス・アンダーソン作品の脚本にも参加しているそうだ。「イカとクジラ」でも不器用な人間たちがリアルに描かれていた。この映画の白黒画面のニューヨーク、ブルックリンの町の美しさに、センスの良さが表れている。フランス・ヌーヴェルバーグのような街の輝き、人物の自然な躍動感、そして台詞がいい。undateable!恋愛だけが人生じゃない!非モテ女子に贈る青春応援歌だね。
原題:Frances Ha
製作年:2012年
製作国:アメリカ
配給:エスパース・サロウ
監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・バームバック、グレタ・ガーウィグ
撮影:サム・レビ
美術:サム・リセンコ
音楽監修:ジョージ・ドレイコリアス
キャスト:グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー、マイケル・ゼゲン、パトリック・ヒューシンガー
☆☆☆☆4
(フ)
「ジャージー・ボーイズ」クリント・イーストウッド

もう何も言うことはない。何も書くことはない。ザ・フォー・シーズンズを知らなくても、誰もが知っているヒットメドレーの歌声とリズムに身を任せて、安心してこのミュージシャンたちの人生の映画を楽しめばいい。
音楽は魔法だ。誰もが心ウキウキとしてくるし、体を動かしたくなる。そんな音楽の魔力に憑りつかれた男たちの人生。クリント・イーストウッドの音楽センスは抜群だし、かつてチャーリー・パーカーの「バード」だって撮っている。彼がトニー賞でミュージカル作品賞を含む4部門を受賞した人気ブロードウェイミュージカルを映画化したところで驚かない。彼の音楽への愛は一流だし、ラストのダンスシーンンも最高だ。口パクではなく、ミュージカルでも主演をしたジョン・ロイド・ヤングの歌声もいい。へんに売れた役者にしないで、歌えるメンバーのキャスティングにしたのも素晴らしい。マフィァのボスを演じたクリストファー・オーケンも脇で渋い。
高音の美声に恵まれたフランキー、作曲の才能に恵まれたボブ・ゴーディオ、フランキーの兄貴分で粗野で借金まみれのトミー、最後にブチ切れるニックなど、4人の人生の交錯を見事に活写し、とにかく安心して映画の世界に身をゆだねることができる作品。事実とフィクションがいろいろ合わさっているのだろうが、事実をもとにしたフィクションだ。有名な曲、「君の瞳に恋してる Can't take my eyes off of youはVallie」は映画の中でとても効果的に使われている。実際には、この曲がソロでヒットしたのは1967年、フランキーの娘が麻薬の過剰摂取で亡くなったのが1980年らしい。ずいぶんと時代的な隔たりがあり、映画的な作為で作られている。 これを都合のいい作為だと非難する人もいるだろうが、映画はフィクションなのだ。娘の死のショックから立ち直ったヒット曲としてあの名曲をドラマチックに聴かせたところでどこが悪い?音楽と同じように映画はフィクションの魔法なのだ。映画それ自体が楽しめればそれでいい。
ホテルのテレビでイーストウッドの西部劇が流れていた。C・イーストウッドは自分もスターにのし上がっていった同時代の彼らへの共感と愛と敬意を込めてが描いたのだろう。それと同時に、ヒット曲が成功物語を生み、誰もが熱狂し、時代を映していた幸福な過去へのオマージュのようにも思える。そして、輝かしき青春の原点はいつでも路上にあったのだ。
誰もが楽しめる映画になっている。クリント・イーストウッドの見事な職人芸だ。
原題:Jersey Boys
製作年:2014年
製作国:アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:クリント・イーストウッド
製作:グレアム・キング、ロバート・ローレンツ、クリント・イーストウッド
脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
ミュージカル版台本:マーシャル・ブリックマ、ンリック・エリス
撮影:トム・スターン
美術:ジェームズ・J・ムラカミ
衣装:デボラ・ホッパー
編集:ジョエル・コックス、ゲイリー・D・ローチ
作詞:ボブ・クルー
作曲:ボブ・ゴーディオ
キャスト:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、ビンセント・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン
マイク・ドイル、レネー・マリーノ、エリカ・ピッチニーニ、ジョセフ・ルッソ、ドニー・ケア、キャサリン・ナルドゥッチ
☆☆☆☆☆5
(シ)
「グランド・ブタペスト・ホテル」ウェス・アンダーソン

映画を作る喜びに満ちた幸福な映画である。映画のどのワンカットを切り出しても、ウェス・アンダーソンの特徴のある映像である。その構図、色調、衣裳、セット、小道具に至るまで細部まで計算され尽くし、凝りに凝っていて楽しいのだ。だから画面から目が離せない。字幕を読む暇もないくらいだ。展開もテンポよくどんどん進んでいく。僕はついつい2度も映画を観てしまった。それぐらい見応えがあるし、何度観てもきっと楽しい映画だ。
ウェス・アンダーソンの前後、左右、上下のいつものカメラワークは健在だ。冒頭、一人の少女とともに壁を越えて、カメラは右から左に少女の歩きとともに墓地を移動する。ベンチに座る人々が一瞬映し出される可笑しさ。そしてある作家の銅像に導かれる。少女が手に持つ本。そして作家のオンカメの語り。そらに少年のイタズラがその語りを中断させる。こんな風に随所に遊びを散りばめつつ、物語の展開と画面はどんどん進んでいく。カメラは右から左、左から右、さらに下から上、上から下、そして画面の手前から奥、奥から手前へと移動し、登場人物たちもカメラとともに前後左右、上下、手前から奥へと移動し続ける。その運動そのものの楽しさ。時には、エレベーターでの移動の中で出会いたくない人物たちが乗り合わせ、あるいは横移動の列車の中での出会い、さらにはホテルの上から下への落下。登場人物たちは、まさに画面を縦横無尽に走り回り、動き回り、逃げ回るのだ。その追跡と逃走の運動のドラマ。それはまるで無声映画の活劇のようだ。まさに運動とスペクタクルである。ホテルオーナー同士の秘密結社のような逃走を手引きするつながりも楽しい。移動することの運動に映画の原初的な面白さがあるのだ。人が出会い、別れ、また別の人と出会い、そのドラマと空間から空間へ移動するアクション。シンメトリーな縦構図と横構図の人工的な空間。その虚構性こそ、映画の夢でもあるのかもしれない。
そして、色、衣裳、セットなど美術の素晴らしさも存分に堪能できる。さらに演じる役者たちの楽しそうなこと。画面に登場する豪華キャストたちは、存分にその特異なキャラクターを楽しんでいるのだ。
さらにピンクのかわいらしい色の奥に隠れている全体主義の闇もしっかり描いている。このへんはこれまでのウェス・アンダーソン監督作品の中でも一歩踏み込んだ映画になっている。とにかくキュートでチャーミングな映画である。これこそ映画作りへの愛と楽しさが感じられる映画である。
「ムーンライズ・キングダム」レビュー
「ファンタスティック Mr.FOX」レビュー
原題 The Grand Budapest Hotel
製作年 2014年
製作国 アメリカ
配給 20世紀フォックス映画
上映時間 100分
監督:ウェス・アンダーソン
製作:ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、スティーブン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン
製作総指揮:モリー・クーパー、チャーリー・ウォーケン、クリストフ・フィッサー、ヘニング・モルフェンター
原案:ウェス・アンダーソン、ヒューゴ・ギネス
脚本:ウェス・アンダーソン
撮影:ロバート・イェーマン
美術:アダム・ストックハウゼン
衣装:ミレーナ・カノネロ
編集:バーニー・ピリング
音楽:アレクサンドル・デプラ
音楽監修:ランドール・ポスター
キャスト:レイフ・ファインズ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、
ジェフ・ゴールドブラム、ハーベイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、
ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン、トニー・レボロリ
☆☆☆☆☆5
(ク)
「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」コーエン兄弟

去年のカンヌ映画祭グランプリ作品ながら決して派手な映画ではない。むしろ地味な映画だ。コーエン兄弟特有の雪だるま式不幸の連続というわけでも、ブラックでヘンテコなユーモアがあるわけでも、凶悪な犯罪が描かれるわけでもない。地味なフォークソングの音楽映画である。冒頭からじっくりとフルコーラスでフォークソングを聴かせる。主演のオスカー・アイザックのギターと歌声をそのまんま。ボブ・ディラン誕生前夜、この時代のフォークソングに魂を揺さぶられた人々の物語。そしてボブ・ディランになれなかった男の無名の負け犬人生である。(実在した伝説のフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録が元ネタらしい)。だけど、その負け犬人生ぶりが、なんだか哀愁があって心に響く。これは失われた魂を抱えて彷徨う男の孤独なロードムービーである。
冒頭のヘンテコな首を吊られる男の歌の後で、ルーウィン・デイヴィスが店の裏の路上で殴られる場面から始まる。負け犬男の人生そのもののようだ。そして友人の家のソファーで寝た翌朝、猫を部屋から逃がしてしまい、彼の不運続きの人生が描かれる。売れないレコードの山、金もなくコートもなく友人の家を泊まり歩くその日暮らし。一度手を出した歌手仲間のジーン(キャリー・マリガン)に妊娠を告げられ、仕方なく預かる羽目になった猫は逃走。ジーンの怒涛の悪態(笑えるシーンだ)。町で猫を見つけるもそれはニセモノ。泊まる家もなく再びやってきた友人の教授の家で、かつての相方の歌のパートを奥さんに歌われ、悪態をつきまくる。そして、仕事を求めてシカゴへ行くも、道中のトラブル、「金の匂いがしない」とライブハウスのプロデューサーに見抜かれ、寒い雪の中をトホホと彷徨う。歌を諦めて、船に乗る決意をするが会費を払っていなくて、しかも船員証まで姉に捨てられ、船にも乗れない。最後はバーで野次をとばして散々の荒れ方だ…。そして冒頭の殴られるシーンへと戻っていく。冒頭と同じシーンで円は閉じるのだが、その前の教授宅の家を再び出るとき、ルーウィン・デイヴィスは今度は猫を逃がさない。猫を居るべき場所にちゃんと居させたのだ。
言うまでもなくの映画の重要なキャラクターは猫だ。ルーウィン・デイヴィスの失われた相方の表象、あるいは死の世界の使者、あるいは神の使い?そんな役割で猫はルーウィン・デイヴィスについて回る。時には、ユリシーズという友人の雄猫として、そして窓から逃げて別の雌猫に入れ替わり、ドライブの道連れとなり、深夜の路上で車に轢かれそうになったりもする。猫は何かの使いなのだ。彷徨う友の魂・・・。
シカゴへ向かう途中、ドライバーだったミュージシャン(F・マーレイ・エイブラハム)が警察に連れて行かれ、ヤク中毒?で気を失ったジョン・グッドマンと道中一緒だった相棒の猫を彼は車に置き去りにする。その時の猫がなんとも名演技だ!彼のかつての相棒が本当にジョージ・ワシントン・ブリッジから飛び降り自殺したのかどうかよくわからないが、ルーウィン・デイヴィスは二度までも相棒に捨てられ、見捨てたのだ。そして猫を轢き殺しかけ、運にとことん見放される。それでも、死にゆく父の前で昔の唄を歌い、最後の方で、非礼を謝りに行った教授宅で猫のユリシーズは自分から家に戻ってきていた。だからラストのステージでの歌は、なんだか感慨深い。鎮魂としての歌。相棒の死の魂を抱えて彷徨い続けたルーウィン・デイヴィス、不運と孤独の八方ふさがりの果てに開き直るように一人唄を歌う。そんな彷徨う男たちの歌、そんな孤独な魂の積み重ねが、ボブ・ディランのような時代の寵児を出現させた。そしてあのフォークソングの時代を築いたのだ。無名な男たちの魂の彷徨があの時代、いつだって路上に溢れていたのだ。
ジャスティン・ティンバーレイクとキャリー・マリガンの美しき歌声「♪500マイルも離れて」も良かったなぁ。
原題 Inside Llewyn Davis
製作年 2013年
製作国 アメリカ
配給 ロングライド
上映時間 104分
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作スコット・ルーディン、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮:ロバート・グラフ
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
撮影:ブリュノ・デルボネル
美術:ジェス・ゴンコール
衣装:メアリー・ゾフレス
音楽:T=ボーン・バーネット、マーカス・マムフォード
キャスト:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、F・マーレイ・エイブラハム、ジャスティン・ティンバーレイク、スターク・サンズ、アダム・ドライバー
☆☆☆☆4
(イ)