「日日是好日」大森立嗣
樹木希林が晩年出ていたので気にはなっていた作品。茶道の映画なのでどんな風に成立させたのか、疑問だった。
若い女性たちの人生を描くのではなく、茶道を通じて感じる水やお湯の音の微細な変化、雨や風や季節を感じる心、細かい作法も頭で考えるのではなく、身体で反応する心地好さなどが描かれる。日々のかけがえのない時間の愛おしさ、同じものはなにもない。微細な変化を感じつつ、日々繰り返される日常への感謝、そんなことが描かれる。映画としての醍醐味はない。でも同じ所作に見えるなかにも、微細な変化があり、そのことを感じる心にこそ、豊かさがあるのかもしれないと思えた映画だった。
映画『日日是好日』
公開日:2018年10月13日
監督・脚本:大森立嗣
出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、山下美月、鶴田真由、鶴⾒⾠吾
原作:森下典子著『日日是好日–「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』
配給:東京テアトル/ヨアケ
☆☆☆3
(二)
若い女性たちの人生を描くのではなく、茶道を通じて感じる水やお湯の音の微細な変化、雨や風や季節を感じる心、細かい作法も頭で考えるのではなく、身体で反応する心地好さなどが描かれる。日々のかけがえのない時間の愛おしさ、同じものはなにもない。微細な変化を感じつつ、日々繰り返される日常への感謝、そんなことが描かれる。映画としての醍醐味はない。でも同じ所作に見えるなかにも、微細な変化があり、そのことを感じる心にこそ、豊かさがあるのかもしれないと思えた映画だった。
映画『日日是好日』
公開日:2018年10月13日
監督・脚本:大森立嗣
出演:黒木華、樹木希林、多部未華子、山下美月、鶴田真由、鶴⾒⾠吾
原作:森下典子著『日日是好日–「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』
配給:東京テアトル/ヨアケ
☆☆☆3
(二)
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「PASSION」濵口竜介
『寝ても覚めても』の濵口竜介監督が、2008年に東京藝術大学大学院の修了制作として撮った作品。この監督は、「人間の面倒くささ」を徹底して描いている作家なのだと思った。『寝ても覚めても』でも、男女関係が「迷い」とともに複雑化する物語だったが、この『PASSION』もまた、一組の婚約したカップルが、その報告を友人たちに告げた夜から、大きな「迷いと混乱」が始まり、男女のカップルが過去と現在で入り乱れる話だ。簡単に言えば、愛とセックスと暴力の話なのだが、それをストレートな描写ではなく、セリフ劇として展開しているのが特徴だ。濵口監督のどこかのインタビューで、ジョン・カサヴェテスに影響を受けたようなことが書いてあったが、それはよくわかる。衝撃的な出来事やアクションが起きなくても、十分に会話だけで、不安と迷いと葛藤の活劇は描けるということだ。
『ハッピーアワー』という女性たちだけの長い映画があったが、そこでも延々と続くセリフ劇は同じなのだが、ケーブルカーの車内が効果的に使われていたのが印象的だった。今回はバスの車内の描写が印象的だ。婚約発表の夜、男たちは夜のバスに乗って、一人の女の家に行く。バスの中でふざけあう男たち。その夜のバスは、男たちを別の世界に誘うかのようだ。あるいはラストで、男と女が偶然、同じバスに乗り合わせる場面。「バス」は、男や女たちをどこへ運んでいくのだろう。そのほか、登場人物たちが何度もすれ違う女性の家の近くの「歩道橋」も印象的だ。ほかに、非常口の螺旋階段、猫を埋めた高台の場所など、映像演出的に「場所」へのこだわりが感じられる。それからラストの工場の煙突の煙の長廻しと男女の会話、港での行き交う色鮮やかなコンテナを運ぶトラックや船の汽笛の音まで、いろいろと作為的映像演出をやっている。
そして際立っている演出は、「暴力について」語り合う学校の教室の場面と、男二人と女一人が女の家で、「本音ゲーム」を始める場面だ。どちらも映画の中で突出しているのだ。長過ぎるし、セリフが過度である。それは、『ハッピーアワー』でのワークショップの場面も同じように突出して長かった。なぜ濵口は、このような映画全体の中で納まりの悪い、過剰な会話劇をやりたがるのだろう。それはナマナマしいとも言えるが、嘘くさいともいえる。生徒たちや登場人物たちが、本音のように感情むき出しで言い合うのだが、そんなことは日常ではあまり起こらない。「暴力は引き受けるしかない」と生徒たちに説くカホ(河井青葉)。ラストでは、「すべては奇跡だ」とも語る。ヒロインであるカホ(河井青葉)は、精神的な存在であり、理知的な存在だ。もう一人のヒロイン、ショートカットのタカコ(占部房子)は、「あまり考えたくない」と言い、性的・肉体的、感覚的な存在である。男たちは、この対極の二人の間で、右往左往する。誰もが迷い、ためらい、等身大でもあるが、いやになるほどハッキリしない。魅力的でないのだ。この人間のダメさ、面倒くささをどう引き受けられるか。濵口竜介は作為的な映像を仕掛け、生々しい芝居のリアリティとフィクションの間で、観客に「居心地の悪さ」を感じさせ、その「あいまいさ」を表現し続ける。
製作年:2008年
製作国:日本
上映時間:115分
監督・脚本:濱口竜介
プロデューサー:藤井智
撮影:湯澤祐一
照明:佐々木靖之
録音:草刈悠子
美術:安宅紀史、岩本浩典
編集:山本良子
キャスト:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦
☆☆☆☆4
(パ)
『ハッピーアワー』という女性たちだけの長い映画があったが、そこでも延々と続くセリフ劇は同じなのだが、ケーブルカーの車内が効果的に使われていたのが印象的だった。今回はバスの車内の描写が印象的だ。婚約発表の夜、男たちは夜のバスに乗って、一人の女の家に行く。バスの中でふざけあう男たち。その夜のバスは、男たちを別の世界に誘うかのようだ。あるいはラストで、男と女が偶然、同じバスに乗り合わせる場面。「バス」は、男や女たちをどこへ運んでいくのだろう。そのほか、登場人物たちが何度もすれ違う女性の家の近くの「歩道橋」も印象的だ。ほかに、非常口の螺旋階段、猫を埋めた高台の場所など、映像演出的に「場所」へのこだわりが感じられる。それからラストの工場の煙突の煙の長廻しと男女の会話、港での行き交う色鮮やかなコンテナを運ぶトラックや船の汽笛の音まで、いろいろと作為的映像演出をやっている。
そして際立っている演出は、「暴力について」語り合う学校の教室の場面と、男二人と女一人が女の家で、「本音ゲーム」を始める場面だ。どちらも映画の中で突出しているのだ。長過ぎるし、セリフが過度である。それは、『ハッピーアワー』でのワークショップの場面も同じように突出して長かった。なぜ濵口は、このような映画全体の中で納まりの悪い、過剰な会話劇をやりたがるのだろう。それはナマナマしいとも言えるが、嘘くさいともいえる。生徒たちや登場人物たちが、本音のように感情むき出しで言い合うのだが、そんなことは日常ではあまり起こらない。「暴力は引き受けるしかない」と生徒たちに説くカホ(河井青葉)。ラストでは、「すべては奇跡だ」とも語る。ヒロインであるカホ(河井青葉)は、精神的な存在であり、理知的な存在だ。もう一人のヒロイン、ショートカットのタカコ(占部房子)は、「あまり考えたくない」と言い、性的・肉体的、感覚的な存在である。男たちは、この対極の二人の間で、右往左往する。誰もが迷い、ためらい、等身大でもあるが、いやになるほどハッキリしない。魅力的でないのだ。この人間のダメさ、面倒くささをどう引き受けられるか。濵口竜介は作為的な映像を仕掛け、生々しい芝居のリアリティとフィクションの間で、観客に「居心地の悪さ」を感じさせ、その「あいまいさ」を表現し続ける。
製作年:2008年
製作国:日本
上映時間:115分
監督・脚本:濱口竜介
プロデューサー:藤井智
撮影:湯澤祐一
照明:佐々木靖之
録音:草刈悠子
美術:安宅紀史、岩本浩典
編集:山本良子
キャスト:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦
☆☆☆☆4
(パ)
「寝ても覚めても」濵口竜介

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS
二人の男の間を揺れ動く一人の女。この映画もある意味で三角関係の映画だ。濵口竜介という監督は、どこか不穏な空気を描くのがうまい。恋愛映画なのだけれど、ホラー的要素もある。この映画で、麦(東出昌大)が再び朝子(唐田えりか)の前に現れる場面は、ホラーのようだった。これは現実なのか、幻なのか。スターになったはずの麦が、扉を開けると目の前にいて、朝子は混乱して皿を割ってしまう場面だ。そのあと、亮平(東出昌大の二役)と友人の耕助(瀬戸靖史)とマヤ(山下リオ)がやってくる。現実と過去の亡霊。「この8年は、夢だったのか」という朝子の自問自答があるが、まさに「夢と現実」、「自分ともう一人の自分」、麦と亮平の顔がそっくりな瓜二つの男、その二重性が大きなテーマになっている。
映画の中で、牛腸茂雄の写真展 「SELF AND OTHERS」が、麦と朝子が出会う場面として使われているが、牛腸茂雄の写真もまた「自己と他者」がテーマだ。双子の女の子の写真が出てくる。朝子もまた、二人の同じ顔を持つ男の間で、「自己と他者」、二人の別の女になる。恋愛は、人をこれまでの自分とは別の人間へと変えてしまう。どちらが本当の自分なのかと悩んでも、どちらも本当の自分なのだ。人は他者との関係によって変わっていく。そんな人間の危うい不穏さを、濵口竜介はよくわかっているのだ。
東日本大震災が映画の中で描かれる。震災によって、朝子と亮平の二人の距離が一気に縮まるキッカケにもなる。運命を変えてしまうような大きな力。それは最後のほうで、朝子が麦と再会した場面でも、高い壁の防潮堤と海でも表現される。朝子は防潮堤を上り、海を見つめ、亮平のもとに帰る決断をする。大いなる力が、またしても朝子を動かす。人間は世界に翻弄される。
そして、ラストの川の土手を走る二人の大ロング。川べりの草むらが風に揺れ、小さくなった二人は走り続ける。それが横移動の二人の走るショットにつながり、ラストは川を見つめる二人の顔で終わる。亮平は「汚い川」とつぶやき、朝子は「でも、きれい」とつぶやく。シンクロしない二人の視線。「これからもずっと朝子を信じることはできないだろう」と宣言する亮平と、そのことを受け入れる朝子。分かり合えないことから、二人の生活が再び始まる。汚くも美しくもある川は、人間そのものだ。常に流れ、同じところにとどまらない。人もまた、移ろい続けるしかない。友人の母、田中美佐子は夫とは別の男性との思い出、「新幹線に乗って会い行って、小さなアパートで朝ご飯を食べた幸福」を何度も語る。彼女にとっての過去もまた現在の一部となっている。朝子の麦との過去は、亮平との現在に塗り替えられていく。しかし過去が消えるわけでもなく、過去もまた今とともにあり、それを含んだ形で私もまた変わっていく。
東出昌大が『予兆 散歩する侵略者』のように、とらえどころのない麦と優しく強い亮平を見事に演じ分けている。オーディションで選ばれた唐田えりかは、演技経験のない佇まいやセリフ回しが、映画にリアリティを与えている。二人のそっくりな男というフィクショナルな物語を、震災の描写や役者たちの演技で地に足の着いた作品に仕上げている。それでいて、ちょっと不穏な不思議な映画でもある。
製作年:2018年
製作国:日本・フランス合作
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
上映時間:119分
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香
脚本:田中幸子、濱口竜介
エグゼクティブプロデューサー:福嶋更一郎
プロデューサー:定井勇二、山本晃久、服部保彦
撮影:佐々木靖之
美術:布部雅人
編集:山崎梓
音楽:tofubeats
キャスト:東出昌(二役)、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子
☆☆☆☆☆5
(ネ)
「きみの鳥はうたえる」三宅唱

(C)HAKODATE CINEMA IRIS
函館出身の作家、芥川賞候補になりながらも41歳で亡くなった佐藤泰志の小説をこれまで3作映画化してきて、これが4作目となる。『海炭市叙景』、『そこのみて光り輝く』、『オーバーフェンス』。そして今回の『きみの鳥はうたえる』(ビールズの"AndYour Bird Can Sing”からのタイトル)。いずれも製作に函館のミニシアター「シネマアイリス」の菅原和博氏が関わっており、函館を舞台にしたみずみずしい秀作と言える作品ばかりだ。特に日本映画界の新進気鋭の旬な監督を起用していることが素晴らしい。熊切和嘉 、呉美保、山下敦弘、そして今回が商業映画デビューとなる札幌出身の三宅唱。この菅原和博氏の企画プロデュース力に敬意を表したい。
「顔」で始まり「顔」で終わる映画だ。それぐらい登場人物3人の顔が印象的だ。三宅唱監督がインタビューで答えているようにカメラは、4人目の仲間の目線のように、3人の登場人物の微妙な空気を捉えようと、そばに寄り添う。被写界深度の浅いレンズで、背景をぼやかして、柄本佑の、石橋静河の、染谷将太の顔を捉える。
僕(柄本佑)と静雄(染谷将太)がルームシェアしながら2人で暮らしているところに、一人の女性、佐知子(石橋静河)が入り込んでくる。「僕」の彼女として。2人から3人へ、そしてその3人の関係が時間とともにまた少しずつ変わっていく。男2人と女性1人の三角関係は、青春物語の永遠のテーマだ。映画でも『冒険者たち』、『突然炎のごとく』、『はなればなれに』・・・。好きな三角関係の映画を挙げたらキリがない。
それでこの映画、3人の顔の切り取り方がいいと書いたが、初めて3人がスーパー(ハセガワストア)に買い物に来る場面のカメラワークなんて、ほんと4人目の仲間が撮っているようで面白いし、部屋でムックリを演奏しあう場面や、ビリヤードやクラブで笑い転げ、踊り、遊び続ける3人の映像がまたいい。一つの傘を3人でふざけあって歩く場面や夜遊びを終えた3人が街を歩く姿、市電で眠りこけている表情など、顔のヨリだけではなく、3人の動きも含めた空気が、街が、そこにある。本当に「愛おしいほどかけがえのない幸福な瞬間」を捉えている。
冒頭、僕の語りで「僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした。9月になっても10月になっても、次の季節はやってこないように思える」というものがあるが、それは同時に「次の季節がやってきてほしくない」という思いの表れでもあるし、「この幸福な3人の瞬間はいつまでも続かない」ということがわかっていることでもある。「3人の幸福なかけがえのない瞬間」は、微妙なバランスの上で成りたっている。だから、佐知子が本屋の店長との別れ話をするとき、僕と佐知子の関係は変わっていき、静雄と佐知子がキャンプに行くことによって、3人は前のような「無邪気に笑いあえる関係」ではなくなっていく。それはそれで仕方のないことだし、季節は移り変わっていくものなのだ。その変わっていく季節と、空気の微妙な変化と、「変わらなければいい、愛おしき瞬間」が確かにあったのだということを、映像に写し取っているところが素晴らしい。
柄本佑の真っすぐで危うい感じ、石橋静河の笑顔、染谷将太の静かに見つめる瞳がいい。石橋静河は去年『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』でブレイクしたが、この映画でもその魅力を存分に発揮している。3人の役者にとっても、かけがえのない瞬間を捉えた映画になったことだろう。そういう意味では、カメラはリアルな瞬間を写し撮る。3人の役者を捉えたドキュメンタリーのようでもあるし、ひと夏のフィクションのなかにしか起きえなかった“奇跡”なのかもしれない。人には誰でも、そんなかけがえのない幸福な瞬間があるものだ。
製作年:2018年
製作国:日本
配給:コピアポア・フィルム
上映時間:106分
監督:三宅唱
原作:佐藤泰志
脚本:三宅唱
企画・製作・プロデゥース:菅原和博
プロデューサー:松井宏
撮影:四宮秀俊
照明:秋山恵二郎
美術:井上心平
音楽:Hi'Spec
キャスト:柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、柴田貴哉、 渡辺真起子、萩原聖人
☆☆☆☆☆5
(キ)
「菊とギロチン」瀬々敬久

(C)2018「菊とギロチン」合同製作舎
『ヘブンズ・ストーリー』が4時間38分の長尺だったが、この映画も3時間9分と長い。この長さに瀬々敬久の本気度がうかがえる。『アントキノイノチ』、『64‐ロクヨン‐』、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』などメジャーな娯楽映画を撮れる監督だが、瀬々敬久の真骨頂はこっちのマイナーな映画にある。物語の見やすさや俳優のキャラクーよりも、人間をじっくりと掘り下げて描写することに重きをおく。しかも、登場する人物たちにスター主義的な序列はない。どの登場人物もドラマの深みを描こうとするあまり、どうしても上映時間が長くなる。
この映画もまたギロチン社の中心メンバーの中濱鐵(東出昌大)と古田大次郎(寛一郎)が十勝川(韓英恵)とともに逃げ出したあたりで終わるのかと思いきや、朝鮮に渡っての活動まで描かれ、中濱が逮捕されたあたりでも終わらず、再び古田大次郎(寛一郎)が花菊(木竜麻生)と出会い、時代が暗く息苦しいものに変化していくまでが描かれる。
女相撲は明治13年からすでに行われていた。土俵は神聖なもの、女性は上がれないという騒動があったが、昔から女相撲はあった。山形の石山兵四郎が本格的な興行女相撲として創業し、そこから分派、独立していった興行団体が幾つか生まれ、ハワイや満州まで興行に行ったらしい。昭和31年、東京浅草公園劇場の興行を最後に「石山女相撲」の幕を下ろしたということだ。しかし、田畑が干ばつで飢饉の際に、女相撲の興行を呼んで、「神様の怒りをかって雨を降らす」というエピソードも披露される。そういうところは変わっていない。
この映画は、女相撲の女力士たちとアナキスト集団を描きながら、女性や朝鮮人への暴力や差別、貧富の差、国家や警察、在郷軍人たちの暴力などがテーマとして描かれている。しかし、それがメインではない。女相撲の女力士たちも、ギロチン社のアナキストたちも、誰もが滑稽で愚かで弱く、したたかに打算的でいじましい。「革命」や「天皇陛下万歳」というかけ声も、自らを奮い立たせるための呪文のような方便でしかなく、滑稽でさえある。誰もカッコよくない。それでも「好きな女さえ守れなくて、何が革命だ」と中濱鐵(東出昌大)も古田大次郎(寛一郎)も、暴力に立ち向かって突進する。
アナキスト集団のギロチン社というのも実在したらしい。大正11年に結成されたテロ集団だった。大杉栄が殺された話も登場し、当時の時代の空気を描いている。閉塞しつつある中でも、満州で自由と平等の国を作る中濱鐵の夢も語られる。中濱鐵が獄中で書いた詩集も実在したようだ。
大正モダニズムの革命ロマンと挫折、そんな空気を描いた映画として神代辰巳の『宵町草』という私の大好きな映画があるが、そのアナーキーな夢や青春、そして閉塞していく時代の空気との軋轢が同じように面白い。
朝鮮人の元娼婦の十勝川を演じた韓英恵がいい。愚かで純情なアナキストを演じた東出昌大、この人もいろいろな役ができて面白い。まさにそれぞれの人物ドラマとして見応えがある。瀬々敬久は、こういう馬鹿で愚かな半端モンたちへのシンパシーがきっとあるんだろうな。
製作年:2018年
製作国:日本
配給:トランスフォーマー
上映時間:189分
映倫区分:R15+
監督:瀬々敬久
脚本:相澤虎之助、瀬々敬久
プロデューサー:坂口一直、石毛栄典、浅野博貴、藤川佳三
撮影:鍋島淳裕
照明:かげつよし
美術監修:磯見俊裕、馬場正男
美術:露木恵美子
編集:早野亮
音楽:安川午朗
ナレーション:永瀬正敏
キャスト:木竜麻生、韓英恵、東出昌大、寛 一 郎、嘉門洋子、前原麻希、仁科あい、田代友紀、持田加奈子、播田美保、山田真歩、大西礼芳、和田光沙、背乃じゅん、原田夏帆、嶺豪一、渋川清彦、荒巻全紀、池田良、木村知貴、飯田芳、小林竜樹、小水たいが、伊島空、東龍之介、小木戸利光、山中崇、井浦新、大西信満、 大森立嗣、篠原篤 、菅田俊、嶋田久作 、宇野祥平
☆☆☆☆4
(キ)