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「君の名は。」 新海誠

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この映画がなぜこれほどまでに流行っているのか?それを確かめるために観てみた。震災後の物語という意味では、『シン・ゴジラ』と同じだ。「消えてしまった村」とはまさに3.11震災そのものだ。立ち入り禁止の柵と看板。そういう災害が一瞬にして起こりうる時代に我々は生きている。その時代感覚は、誰もが共有しているものだろう。いつまでも、今の時代の繁栄が続くとも思えないし、何が起きるか分からない不安をいつも抱えている。だからこそ、今この瞬間こそ愛おしい。

そしてもう一つは純愛ファンタジーという側面。男女の身体を入れ替わり物語は、大林宣彦が『転校生』という映画で実写で描いた世界だ。思春期特有の男性にも女性にもなりきれない時期。その性的未熟さこそ、今の若い男女に受けるのかもしれない。この映画でもっとも身体的(性的)なものを感じるシーンは、朝起きた時、女の子になった瀧が、自分の胸を触る場面だ。それと、「口噛み酒」の間接キスぐらいか。この二人は直接は出会わない。徹底したプラトニック・ラブだ。すれ違い、なかなか出会えないことが、純愛ドラマの基本だが、今の時代は出会えないことがなかなか設定できない。ケータイでいつでも繋がれる時代だ。だから、SF的時間のズレによって、この映画は出会えない純愛を描いた。運命の片割れという古くから何度も語られているテーマを。

都市と地方が交互に描かれるというのもこの映画の特徴だ。美しき自然と古くからある日本の文化を描いた地方。自然と神道的アニミズム。巫女と神的世界との交流やお供え。そして組み紐に象徴される「結び」や「つながり」。そして都市の美しさも十分に描かれている。電車や駅周辺や歩道橋や階段、そして、ビルや雨に濡れたアスファルト、空。そして天空の星空。情緒豊かに都市も描かれている。都市も地方も、学校も家庭も、日本的美しさに満ちているその心地よさ。

印象的だったのは、電車の扉や引き戸のローアングルのクローズアップだ。場面を転換する場面でよく使っていた。都市と地方、二人の空間を断ち切る意味で多用したのか。つながりかけた時間や運命は、しばしば断ち切られる。

いうまでもなくこれは夢のお告げの話でもある。夢で出会う人。時空を超えて夢でつながること。夢は現実を超えて、何かを起こす。意識を超えた無意識のつながり。それこそ前世の記憶なのか。運命のつながり。

ただ、どうしてもこの映画で納得のいかないところがある。それは、夢のお告げによって死者を甦らせてしまうことだ。夢が死の世界とつながるのはいい。しかし、起きてしまった過去を変えてしまうというのは、掟破りなのではないか。起きてしまったことは、なかったことにはできない。死者と再び会いたいという思いは誰もが抱える夢想だが、それをSFファンタジーという枠組みで、過去を変えてしまい、なかったことにする・・・。これでは、死者の哀しみも痛みも伝わらない。ファンタジーで時間をさかのぼって、現実をやり直す・・・。都合良すぎのファンタジーではないだろうか。それに人々は感動できたのか。私には、死者を冒涜しているようにさえ思える。自分の力ではどうにもならないことが、人生にはある。そのどうにもならない哀しみや無力感を抱えつつ、人は生きていかなければならない。それを描かなければ、出来過ぎのファンタジーでしかない。世界は確かに美しいが、その美しさだけを描いても、深みが描けない。どうしようもない闇や恐怖があり、どうしようもない自分の無力感があり、それでも世界は美しいからせつないのだと思う。この映画は美しすぎる都合の良いファンタジーにしか私には思えなかった。

それほどまでに現実は、過酷で厳しくて夢を持てないということなのか。夢のような美しきファンタジーに思いを仮託しないと、現実の過酷でシンドイ関わりを乗り越えていけないということなのか・・・。


製作年 2016年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 107分
監督・原作・脚本・絵コンテ:新海誠
製作:市川南、川口典孝、大田圭二
企画:川村元気
エグゼクティブプロデューサー:古澤佳寛
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:安藤雅司
音響監督:山田陽
音楽:RADWIMPS
キャスト(声の出演):神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子、成田凌勅、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音

☆☆☆3
(キ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : アニメ ☆☆☆3

「永い言い訳」 西川美和

nagai

自分のことしか考えていない男が、「人生は他者だ」と考えるまでに至る映画。これまで複雑なる人間の嘘と本音、悪意と人間関係の葛藤のようなものを描いてきた西川美和は、今回もちょっとひねくれた男を登場させた。

人気小説家の幸夫の本木雅弘がハマり役だ。ちょっと是枝監督の『そして、父になる』の福山雅治のような役回り。いけ好かない自意識過剰なインテリ。冒頭の美容師である妻・夏子(深津絵里)が彼の髪を切るシーンで、嫌味な部分をすべて出している。自分がどう見られているか、そのことしか考えていない。相手(妻)のことにはまるで無関心。妻の夏子は、それでも寛容に、「私は衣笠幸夫くんって名前、好きよ」とやさしく対応している。夫は「カープの鉄人・衣笠祥雄」と自分が同じ名前であるのがイヤらしいのだ。まるで子供だ。そして、バス事故での妻の突然の死。その時、幸夫は自宅で愛人(黒木華)とベッドを共にしていた最低の男。そこからドラマは始まる。

妻とともに死んだ高校時代からの友人(堀内敬子)の夫であるトラック運転手、大宮陽一(竹原ピストル)が幸夫と対称的な男として登場する。やや単純化し過ぎなキャラクターでもあるが、竹原ピストルの相貌はそのまま人間味を感じさせる。そして、陽一の二人の子供、兄の真平と妹の灯の二人の子役が素晴らしい。母の死で困っている子供たちの面倒を幸夫は見るようになる。最初の嫌味な男から急に優しいいい人に変ってしまうのが、最初は違和感を感じたが、後半、幸夫は酔って再び陽一家族に悪態をつく。このいい人でも悪い人でもない幸夫の複雑さがこの映画の見どころだ。

冒頭の妻への横柄な態度、または愛人との身勝手なセックス、メディアでの取り繕うような訳知り顔のインタビュー、編集者たちとの花見の宴での醜態。一方で、子供たちの面倒を見つつ、妻の死への涙を隠さない陽一への羨望も感じている。陽一のように単純になれない自意識。幸夫は妻の死後、人と出会うことによって少しずつ変わっていく。大宮一家との海辺でのピクニックで、子どもたちと楽しそうに遊ぶ妻の幻影を見たりもする。しかし、マネージャーに「子育ては逃避」であり、「自分のダメさを帳消しにする免罪符」だと言われる。

そんなとき、妻の遺品の携帯で、「もう愛していない、ひとかけらも」という下書きメールを幸夫は見る。これは妻の本当の気持ちなのか、あるいは当てつけのように書いてみただけなのか?それとも夫の自分への気持ちを書いただけなのか・・・。すべては何も分からない。西川監督は、観客に何も示さない。下書きメールは謎のままだ。自分への妻の本音だと感じた幸夫は、バス事故のドキュメンタリー番組でディレクターの細かい指示にイラつき、天国の妻へのメッセージで突然キレて暴れ出す。

そんな幸夫だが、いつまでも奥さんを忘れられず、子どもたちのことをちっとも見ていないと陽一に、もっと子供たちの「今」を見ろよ、とまともなアドバイスもする。それが新たな女性が陽一家族の前に現れ、酔って悪態をついた幸夫は、再び自らの孤独に引きこもる。そんな時、陽一がトラックで事故を起こす。幸夫は慌てて子どもたちのもとを訪れ、真平とともに陽一を迎えに行く。その列車の中で、幸夫は真平に「自分のことを大切に思ってくれる人を、決して手放すな」と強く語りかける。「自分の遺伝子をこの世に残したくない」とさえ思う孤独な男は、妻の死、そして他者とやっと向き合えるようになる。そして、あの下書きメールの意味も考え続けるのだろう。

幸夫が小説で書いたように「人生は他者だ」。他者がいて、初めて「私」は形作られる。他者によって、人生は紡がれていき、「私」も変り続けられる。死者もまた他者だ。他者のことをまるで考えていなかった幸夫は、妻の死とともに、永い永い言い訳をしながら、新たな関係を、新たな「私」を歩んでいくことになる。

深津絵里の短いながらも存在感が素晴らしい。そして、子どもたちの好演。これまでの西川美和の人間洞察の怖さという意味では少し物足りない気もしたが、「人にはいろいろな面」があり、他者との関係とともに人生が進んでいくことを描いたいい映画であると思う。


製作年 2016年
製作国 日本
配給 アスミック・エース
上映時間 124分
監督:西川美和
原作:西川美和
脚本:西川美和
製作:川城和実、中江康人、太田哲夫、長澤修一、松井清人、岩村卓
プロデューサー:西川朝子、代情明彦
撮影:山崎裕
照明:山本浩資
美術:三ツ松けいこ
編集:宮島竜治
挿入歌:手嶌葵
キャスト:本木雅弘、竹原ピストル、深津絵里、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、戸次重幸

☆☆☆☆4
(ナ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族 ☆☆☆☆4

「怒り」李相日

怒り

今年は評判のいい日本映画が多い。この作品もその1本である。役者陣が素晴らしい。よくここまでのメンバーをキャスティングできたと思う。現在、テレビ・映画でひっぱりだこの役者たちだ。

さて、この映画だが『悪人』と同じ原作・監督ということで期待して観た。だが、やや仕掛けに凝り過ぎで、犯人は誰?のミステリーを引っ張り過ぎの強引な展開で、観終わって物足りなさが残った。なんといっても犯人の「怒り」の背景が弱すぎるのではないか。あれじゃぁ、ちょっとイカれた変な奴でしかない。

吉田修一という作家は、『パレード』という原作(行定勲監督で映画化もされた)でも、共同生活をする男女を描いた犯人探しのミステリーがあって、これもミステリーに主眼を置いて、犯人像が弱かった記憶がある。この『怒り』では、綾野剛、森山未來、松山ケンイチという3人の怪しい男をそれぞれ描きつつ、誰が犯人かをミステリー仕立てにして、素性の分からぬ男をどこまで信じられるかがテーマとなっている。

なんといっても宮崎あおいがいい。ちょっと知的障害もある女の子という設定で、父親演じる渡辺謙は「娘は幸せになれるはずがない」と不憫に思っている親子関係と素性の分からぬ男、松山ケンイチの描かれ方が一番力が入っており、時間も使われ演出されている。妻夫木聡と綾野剛の同性愛カップルも、それなりに丹念に描かれている。特に綾野剛はそれらしい雰囲気を出している。しかし、妻夫木聡に女性と一緒にいるところを見られ、疑われるとすぐ行方不明になる設定は、ややご都合主義的ではないか。一緒に墓に入ることまで話しておきながら、あの結末はなんとも拍子抜けだ。そして沖縄の描かれ方もやや定型的であり、物足りない。森山未来の変化も唐突感は否めず、不十分な感じがした。

冒頭の住宅街の夫婦殺傷事件のことにしても、犯人と同じ現場で日雇い労働者で働いていた男の証言にしても、犯人像が浮き彫りになるにはあまりにも描写に時間が使われていない。犯人ミステリーとそれぞれの男たちの今にほとんどの時間が割かれ、事件を起こした犯人の内なる鬱屈について、原作との違いがわからないが、映画では物足りないものになっている。だから、ラストがちっとも沁みこてこない。犯人の思いにちっとも共感できないのだ。それぞれの力量のある役者の見どころは十分あるが、『悪人』の面白さのレベルにはまったく達していない。

製作年 2016年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 142分
監督:李相日
原作:吉田修一
脚本:李相日
製作:市川南
エグゼクティブプロデューサー:山内章弘
企画・プロデュース:川村元気
プロデューサー:臼井真之介
撮影:笠松則通
照明:中村裕樹
美術:都築雄二、坂原文子
編集:今井剛
音楽:坂本龍一
キャスト:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、ピエール瀧、三浦貴大、佐久本宝、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡

☆☆☆3
(イ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : サスペンス ☆☆☆3

「SCOOP!」大根仁

スクープ

予想外に良かった。地べたを這いずりまわってるゴキブリたちのエンタメ・ムービー。ろくでなしに愛を。

1985年に製作された原田眞人監督・脚本の映画「盗写 1/250秒」が原作だという。それを『モテキ』『バクマン。』とヒット作連発で絶好調の大根仁監督が脚本を書き、監督した。

久しぶりにこういう町のゴミのような存在の奴らの真情を描いた映画を観た。昔は、テレビドラマ『傷だらけの天使』のショーケンと水谷豊のような町のチンピラを描いた映画が多くあった。いつの間にか、こういうチンピラ映画がなくなった。若者たちは、賢くなり、無駄なことはせず、自宅に引きこもり、草食化し、オタク化していったせいか、やんちゃで無鉄砲なバカはいなくなった。今回は、チンピラではなく、芸能人のケツばかり追いかけているパパラッチカメラマンだ。社会のクズのような存在ながら、それなりに必死で生きている。無謀とも言えるバカなことをするロクデナシだ。今は普通の若者たちにこのようなパワーはないが、こういうやさぐれ稼業に、まだこういう男もいるかもしれない・・・と思わせる。誰もが、小賢しく、無駄なことはしなくなると、世の中面白くない。

福山雅治は基本的にあまり好きではなかった。是枝監督の『そして、父になる』を観たときも、なんだかいけ好かない嫌味な男を演じていて、ハマっていたが、やっぱり好きにはなれなかった。しかし、この『SCOOP!』の福山雅治はいい。彼のテレビドラマもあまり見てないが、この作品が一番だろう。

冒頭、女のあえぎ声から始まる。この映画がゲスな奴の下世話な映画だと宣言しているようだ。車の中の慌ただしいセックス。もっぱら女好きのチンピラ・カメラマンとして都城静(福山雅治)は登場する。どうやら昔は数々の事件ネタのスクープを副編集長(吉田羊)と組んで連発していたらしいが、今はゲスな芸能人のパパラッチカメラマンである。そんな男と組むことになった新人の野火(二階堂ふみ)。赤い口紅とキャップをかぶった蓮っ葉な女は記者としては全くの素人。そんな彼女が都城カメラマンと組んで、仕事に目覚めていく前半部は、テンポよく小気味いい。芸能人のスクープを二人のコンビで次々とモノにし、発行部数を伸ばしていく。

中盤は、芸能グラビア班と事件班が衝突する中、レイプ殺人鬼の顔写真をモノにするエピソードで、編集部のチームの結束力が描かれる。ここでは滝藤賢一がいい味を出している。発行部数の落ち込みで、やさぐれていた芸能スクープ雑誌記者たちの心意気だ。スクープをものにした打ち上げ場面で、物語はピークに達する。

そしてラストの衝撃の事件。最近、いろいろな映画でバイプレイヤーとしてやたらと出まくっているリリー・フランキー。彼の圧倒的な存在感とともに物語は急降下する。リリー・フランキーの演技にやられた。福山雅治とリリー・フランキーの腐れ縁的な友情に二階堂ふみが絡んでいく。破綻寸前のダメダメ男たちの腐れ縁的な友情。定番と言えば定番だけど、アメリカン・ニューシネマの「真夜中のカーボーイ」や「スケアクロウ」を思い出す。 いい感じだ。

パパラッチ・カメラマンがかつてロバート・キャパに憧れていた話やライカのカメラの最後の写真、1万円の賭けなど、ベタと言えばベタな展開ながら、役者たちの存在感が見事に演出されているため、けっして軽い映画にはなっていない。ちゃんとロクデナシ達のせつない映画になっているのだ。今年のあっぱれなエンタメ・ムービーだ。快作!


製作年 2016年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 120分
監督:大根仁
脚本:大根仁
原作:映画原田眞人
撮影:小林元
照明:堀直之
美術:平井亘
編集:大関泰幸
音楽:川辺ヒロシ
主題歌:TOKYO No.1 SOUL SET feat.福山雅治 on guitar
キャスト:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー

☆☆☆☆☆5
(ス)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 ☆☆☆☆☆5

「淵に立つ」深田晃司

淵


まさにタイトルどおり、崖っぷちに立って、闇を覗きこむようなおそろしい映画だ。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞したことで、気になっていた。深田晃司監督は、平田オリザ主宰の劇団「青年団」の演出部に所属し、映画を撮り始めた経歴の持ち主。二階堂ふみ主演の『ほとりの朔子』だけは見ていて、夏休みの何も起きないとても魅力的な映画なんだけど、そのほか『歓待』、人間とアンドロイド共演映画『さようなら』など話題作を発表し続けていて、それらは未見だ。

小さな金属加工の町工場を営む男(古舘寛治)は、妻(筒井真理子)、そして一人娘、蛍(篠川桃音)とひっそりと暮らしていた。あまり父と母娘の会話はない。そこへ旧友である男(浅野忠信)がやってくる。刑務所から出たばかりらしいこの男は、白いワイシャツと黒のパンツ姿で、礼儀正しく、言葉遣いも丁寧で、知識も豊富だ。とても刑務所帰りには見えない。この男に「頼みがある」と言われ、3週間ほど仕事をしながら家族は共同生活をすることになる。最初、突然のことで不信感を持っていた妻だが、娘に男がオルガンを教えてくれるようになると、次第に警戒を解いていく。映画は、この突然の男の出現で、家族がバラバラになり、不信感が渦巻き、地獄へと堕ちていく様子が静かに淡々と描かれる。

浅野忠信が抜群の存在感でこわい。まさにハマり役だ。教会に母と娘と一緒に行き、信仰の話などをしつつ、自分の罪を告白し、妻の関心を引き寄せていく。妻である筒井真理子が次第に男に好意を持ち始める微妙な変化を見事に演じている。男が教会でバザーの荷物を運ぶのを待つときの女の横顔を捉えた長い間。そして、喫茶店で向き合って男の罪の告白を聞く場面。さらに、夫に「見くびらないで」と流しの汚れを拭く場面。どれも見事だ。そして河原のピクニックと二人で見る赤い花。映画のラストでも繰り返される4人の河原で寝転がった写真を撮る場面。

また、古舘寛治が浅野忠信に河原で「どこまで話したんだ?」と心配で尋ねると、突然、「気の小さい野郎だな」と浅野忠信が口調を変える場面がある。浅野忠信演じる男の本性が一瞬垣間見え、ドキリとさせられる。古舘寛治が、働きに来ている青年(大賀)が、男の息子であるとわかったとき、突然、青年の頬を張る。呆気にとられる青年。あるいは、男(浅野忠信)が警察で口を割らずに仲間をかばっていたことを妻が夫に告げると、「その仲間っていうのは俺だ」と古舘寛治が足の爪を切りながら、さり気なく言う場面。どの場面も見事だ。

そんなゾクゾクするシーンの連続なのだ。激しいアクションや言葉の応酬もないが、恐ろしいことが静かに進行し、人間の魔や闇が一瞬垣間見えてしまうその描き方が素晴らしい。あの男と娘が弾いていたオルガンの曲がリフレインされ、男の姿が何度も幻影で浮かび上がる。白いワイシャツや白い作業着姿の物静ずかな男と、赤いTシャツになって暴力をふるう男の二面性。

おそらくこの男二人のかつての事件とは、全共闘運動が盛んなころの内ゲバとかリンチとかの殺人事件なのだろう。男のインテリぶりから、単なる窃盗的殺人ではないことがわかる。自分の「正しさ」を疑わず、仲間との約束を守り、法を犯し、仲間の秘密を守り、人生を失った男。そんな男に負い目を感じつつも、ささやかな家庭を築き生きていた男が、かつての仲間の出現で妻を奪われ、娘まで男の暴力にさらされる。そのことで逆に過去の負い目から救われた男。そして、宗教的信仰と男への母性的愛と性的魅力との葛藤に溺れていく女。娘の介護は自らの犯した罪への償いなのか。誰もが、自分の中の闇を抱えており、その闇と向き合わざるを得なくなってしまう苦しさ。それは会ったこともない父の暴力性の闇を自分でも抱え続けなければならない息子も同じだ。

誰もが自らの闇と向き合わなければならない。過去からも自由になれない。忘れたふりをしても、忘れられない。すべてを抱えつつ、受け入れて生きてゆくしかないのだ。

今年は興味深い力作が多い日本映画だが、なかでも人間の闇をとことん見据えたこの家族映画は、すごい力を持った作品だ。


製作年 2016年
製作国 日本・フランス合作
配給 エレファントハウス
上映時間 119分
監督:深田晃司
脚本:深田晃司
プロデューサー:新村裕、澤田正道
撮影:根岸憲一
美術:鈴木健介
音楽:小野川浩幸
主題歌:HARUHI
キャスト:浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治、太賀、篠川桃音、三浦貴大、真広佳奈

☆☆☆☆☆☆6
(フ)

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族 人生 ☆☆☆☆☆☆6

プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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映画ベスト10 2009~2017年
2019年ベスト5
    「ジョーカー」
      「よこがお」
        「真実」
          「バーニング」
            「ブルーアワーにぶっ飛ばす」
              次点、「さよなら くちびる」

            2018年ベスト10
            <洋画>
              「スリー・ビルボード」
              「正しい日、間違えた日」(2015)
              「希望のかなた」
              「顔たち、ところどころ」
              「ラブレス」

            <日本映画>
              「万引き家族」
              「寝ても覚めても」
              「きみの鳥はうたえる」
              「モリがいる場所」
              「カメラを止めるな」


            2017年ベスト10
            <洋画>
              「パターソン」
              「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
              「誰のせいでもない」
              「ありがとう、トニー・エルドマン」
              「オン・ザ・ミルキー・ロード」
              「パーソナル・ショッパー」
              「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
              「マリアンヌ」
              「婚約者の友人」
              「セールスマン」

            <日本映画>
              「散歩する侵略者
            /予兆 散歩する侵略者」
            「三度目の殺人」
            「南瓜とマヨネーズ」
            「光(大森立嗣)」
            「息の跡」
            次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
            次点「幼な子われらに生まれ」
            次点「バンコクナイツ」


          2016年ベスト10
          <洋画>
            ダゲレオタイプの女
            マイ・ファニー・レディ
            キャロル
            シング・ストリート 未来へのうた
            リザとキツネと恋する死者たち
            グッバイ・サマー
            サウルの息子
            マジカル・ガール
            ブリッジ・オブ・スパイ
            手紙は憶えている
          <日本映画>
            淵に立つ
            クリーピー 偽りの隣人
            海よりもまだ深く
            ふきげんな過去
            SCOOP!
            永い言い訳
            オーバー・フェンス
            ディストラクション・ベイビーズ
            葛城事件
            湯を沸かすほどに熱い愛
            次点この世界の片隅に


          2015年ベスト10
          <洋画>
            やさしい女
            さよなら人類
            さらば、愛の言葉よ
            毛皮にヴィーナス
            雪の轍
            愛して飲んで歌って
            サンドラの週末
            サイの季節
            インヒアレント・ヴァイス
            ソニはご機嫌ななめ

          <日本映画>
            海街dairy
            岸辺の旅
            FOUJITA
            百円の恋
            この国の空


          2014年ベスト10
          <洋画>
            エレニの帰郷
            グランド・ブタペスト・ホテル
            罪の手ざわり
            ウルフ・オブ・ウォールストリート
            ジャージー・ボーイズ
            インサイド・ルーウィン・デイヴィス
            6才のボクが、大人になるまで。
            フランシス・ハ
            ウォールフラワー
            ある過去の行方

            <日本映画>
            そこのみにて光輝く
            ニシノユキヒコの恋と冒険
            紙の月
            Sventh Code
            私の男


              2013年映画ベスト5
          <洋画>
            1、「愛、アムール」
            2、「ホーリー・モーターズ」
            3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
            4、「いとしきエブリデイ」
            5、「ムーンライズ・キングダム」
            ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

            <日本映画>
            1、「共喰い」
            2、「さよなら渓谷」
            3、「恋の渦」
            4、「リアル 完全なる首長竜の日」
            5、「Playback」(2012年)


            2012年映画ベスト10
          <洋画>
          2、「少年と自転車」
          3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
          4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
          5、「きっと ここが帰る場所」
          6、「ドライヴ」
          7、「風にそよぐ草」
          8、「恋のロンドン狂騒曲」
          9、「おとなのけんか」
          10、「別離」
          次点 「裏切りのサーカス」
        番外
          「永遠の僕たち」
          「J・エドガー」
          「家族の庭」

        2、「かぞくのくに」
        3、「演劇1&2」
        4、「夢売るふたり」
        5、「アウトレイジビヨンド」
        番外 「ヒミズ」


      2011年映画ベスト10
      2,「愛の勝利を」
      3,「ブルーバレンタイン」
      4,「愛する人」
      5,「クリスマス・ストーリー」
      6,「トゥルー・グリット」
      7,「SOMEWHERE」
      8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
      9,「エリックを探して」
      10,「シリアスマン」
      次点,「エッセンシャル・キリング」

    2,「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」
    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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