「ゲームの規則」ジャン・ルノアール
歴史的名作を見直す。上流社会の恋のから騒ぎ的群像劇。これだけの人物たちを描写する演出術がお見事。上流社会の狩りの描写や圧巻のお屋敷パーティーとその夜の事件が皮肉を込めて描かれる。なんて人間は愚かで滑稽なのだろうか、と。恋や愛というものが、いかにあやふやで、不確かで、移ろうものであるのかを上流社会の「ゲームの規則」として戯画化している。当時、不道徳でセンセーショナルだったため、上映禁止になったという。
結局、恋に殉教していた冒険パイロット(ローラン・トゥータン)が誤って殺されてしまう皮肉。彼は上流社会の「ゲームの規則」から逸脱してしまったのだ。恋愛をまじめに突きつめてはいけないというルールから。次から次へと愛を告白され、相手を変えてしまう奥方クリスティーヌ(ノラ・グレゴール)こそが、上流社会の象徴だ。夫の浮気に傷つきつつも、誰を愛しているのかさえ自分ではわからない。コートで相手を間違えてしまう思い込みこそが、恋の滑稽さかもしれない。男は女を狩りのように追いかけ、女は逃げながらも男を惹きつけ、戯れていく。「この世で一番恐ろしいのは、誰もがそれぞれ違うことを考えていて、しかも、誰もが正しいってことだ」という名セリフとともに、映画史に残る傑作である。シェイクスピアも、ルイス・ブニュエルもフェリー二もみんな、こういう上流社会の人間たちの滑稽な乱痴気騒ぎとその皮肉で空虚な結末を描いている。
原題 La Regle du Jeu
製作年 1939年
製作国 フランス
配給 フランス映画社
上映時間 106分
監督:ジャン・ルノワール
脚本:ジャン・ルノワール、カール・コッホ
撮影:ジャン・バシュレ
美術:ユージン・ローリー
音楽:ロジェ・デゾルミエール
編集:マルグリット・ルノワール
衣装デザイン:ココ・シャネル
キャスト:マルセル・ダリオ、ノラ・グレゴール、ローラン・トゥータン、ジャン・ルノワール、ミラ・パレリ、オデット・タラザク、ピエール・マニエLe、ピエール・ナイ、ポーレット・デュボスト、ガストン・モド、ジュリアン・カレット
☆☆☆☆☆5
(ケ)
結局、恋に殉教していた冒険パイロット(ローラン・トゥータン)が誤って殺されてしまう皮肉。彼は上流社会の「ゲームの規則」から逸脱してしまったのだ。恋愛をまじめに突きつめてはいけないというルールから。次から次へと愛を告白され、相手を変えてしまう奥方クリスティーヌ(ノラ・グレゴール)こそが、上流社会の象徴だ。夫の浮気に傷つきつつも、誰を愛しているのかさえ自分ではわからない。コートで相手を間違えてしまう思い込みこそが、恋の滑稽さかもしれない。男は女を狩りのように追いかけ、女は逃げながらも男を惹きつけ、戯れていく。「この世で一番恐ろしいのは、誰もがそれぞれ違うことを考えていて、しかも、誰もが正しいってことだ」という名セリフとともに、映画史に残る傑作である。シェイクスピアも、ルイス・ブニュエルもフェリー二もみんな、こういう上流社会の人間たちの滑稽な乱痴気騒ぎとその皮肉で空虚な結末を描いている。
原題 La Regle du Jeu
製作年 1939年
製作国 フランス
配給 フランス映画社
上映時間 106分
監督:ジャン・ルノワール
脚本:ジャン・ルノワール、カール・コッホ
撮影:ジャン・バシュレ
美術:ユージン・ローリー
音楽:ロジェ・デゾルミエール
編集:マルグリット・ルノワール
衣装デザイン:ココ・シャネル
キャスト:マルセル・ダリオ、ノラ・グレゴール、ローラン・トゥータン、ジャン・ルノワール、ミラ・パレリ、オデット・タラザク、ピエール・マニエLe、ピエール・ナイ、ポーレット・デュボスト、ガストン・モド、ジュリアン・カレット
☆☆☆☆☆5
(ケ)
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「汚れた血」レオス・カラックス

美しい映画だ。色、光。とにかくジュリエット・ビノシュが若くて美しい。赤やブルーの衣装をまとい、口で髪に息を吹きかけ、白い肌と澄んだ瞳。この映画は彼女のための映画だ。レオス・カラックスの分身ドニ・ラバンの若き野獣性も魅力的だ。バイクで疾走する女神、金髪の少女ジュリー・デルピーも天使のようだ。色彩豊かなゴダールの犯罪映画のようでもあり、ドニ・ラバンの腹話術は「アルファヴィル」のようでもある。ストーリーなどどうでもいい。光と影、クローズアップ、そして美しい色。風、森、バイク。疾走する愛。ささやく愛の声。詩的な映画だ。
デビッド・ボウイの“Modern Love”でパリの街角を駆け抜けるアレックスの場面は、先日観た映画『フランシス・ハ』にそっくり同じシーンがあった。あれはこの映画へのオマージュだったのね。
原題:Mauvais Sang
製作年:1986年
製作国:フランス
監督:レオス・カラックス
製作:アラン・ダーンフィリップ・ディアス
キャスト:ドニ・ラバン、ジュリエット・ビノシュ、ミシェル・ピッコリ、ジュリー・デルピー
☆☆☆☆4
(ヨ)
「クスクス粒の秘密」アブデラティフ・ケシシュ

カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「アデル、ブルーは熱い色」(2013)のアブデラティフ・ケシシュ監督の2007年作品。チュニジア系フランス人家族が船上レストラン開店に向け四苦八苦する話。そのレストランの目玉料理がクスクス。クスクスとはチュニジアの伝統料理でアラブ系社会ではよく食べられているもの。この主人公スリマール(アビブ・ブファール)の家族たちが集まって、母の手料理クスクスを「うまい!うまい!」と食べるシーンがある。それぞれの顔をアップで多用し、時にはカメラを振り回してパンしたり、リアルな家族たちの食事風景が描かれている。それはまるで、カサヴェテスの映画のようだ。ドキュメンタリー的手法とも言うべきワンカメによる撮影。カメラ位置を変えて何度もリハーサル重ねて撮影するお芝居とは違うリアリティある臨場感が映像から感じられる。
この映画はフランスの港湾労働者のアラブ系移民家族の物語だ。35年も働いてきたスリマールは、労働時間を極端に減らされ、人件費削減のため首切り同然の仕打ちを受ける。そんな男が元妻の得意料理クスクスを目玉に、アラブ移民が集まる船上レストランを作ろうと動き出す。そんなスリマールに協力するのは、現在の恋人の娘リム。銀行や市役所、保健所などをまわるが、なかなか相手にされない。最後に、町の有力者を集めて船上パーティーを開くのだが、そこで思わぬトラブルが起きる。完成したクスクスの鍋が、どこかへ消えてしまったのだ・・・。
映画のテンポはまったりとしている。テンポよく場面が展開して、物語が進んでいくのではなく、カメラの撮り方同様、場面転換もドキュメンタリー的だ。家族の会話も、料理の準備も、鍋がなくなるところも、その時間を埋めるためにリムがお客の前でベリーダンスを踊る場面も、実時間に近いように長く延々とその場面が描かれる。テンポの良い編集、場面転換で、困難な状況を描くのではなく、じっくりとリムはお客の前で腰をふり、セクシーに体をくねらせ、延々と踊り、延々と音楽隊の演奏が続けられる。客たちには酒が配られ続け、いつまでも給仕されないクスクス料理の待つ時間が長々と描かれる。鍋を探しに行ったスリマールは、今度は町の不良少年たちにバイクを盗まれ、無駄に走りまわる羽目になる始末。何も問題は解決しないまま、ズルズルと時間ばかりが過ぎていくのだ。そして映画はそのまま終わってしまう。何も解決されないまま。
そのマッタリ感がこの映画の特徴だ。物語が展開しないのだ。停滞し続ける。それがなんだかドキドキする。アブデラティフ・ケシシュ監督の策略が見事に奇妙な凝縮した時間を描くことに成功している。そしてままならぬ人生の停滞の時間が描かれるのだ。何も解決されぬままに。
アラブ系移民の特徴なのか、女性がイライラと激しく、ヒステリックに描かれている。「言われているだけじゃダメよ。言い返さないと…」という感じで戦闘的なのだ。スリマールの元妻とその娘たちと、今の恋人とその娘との女たち同士の確執が描かれるが、なかなか激しいのだ。そして主人公であるスリマールは、あまり何も言わない。女たちはさらに文句が増していく。さらに、息子たちはいやらしい目で、恋人の娘リムのことを見つめ、普段から浮気性でロクでもない。妻たちはいつも不満を募らせ、男たちがパッとしないのだ。そんな男女の描写が印象的だ。
原題:La graine et le mulet
製作年:2007年
製作国:フランス
上映時間:135分
監督:アブデラティフ・ケシシュ
キャスト:アビブ・ブファール、アフシア・エルジ、ファリダ・バンケタッシュ
☆☆☆☆4
(ク)
「挑戦」 ビクトル・エリセ ほか

2組の男女の関係という共通の設定による3つのオムニバス。必ずアメリカ人がよそ者としてやってくる。第3章はビクトル・エリセ監督の幻のデビュー作である。
第1章は、裕福そうな生活をしているスペインのプール付きの家にアメリカの軍人が娘に会いにやってくる。再会していちゃつくアメリカ男と娘、そして不機嫌な父親、さらにその母親もアメリカ男と密かに親密な関係に…。そして衝撃のラスト。3作品ともラストに悲劇が起きるお約束事になっているようだ。
第2章は、スペインの牧場のある田舎にやってきたアメリカ人カップルが、牛と闘牛ごっこをやっているうちに牧場主の家に連れて行かれ、その家の夫婦とよそ者の若いカップルの関係を描いた作品。旅のアメリカ男が牧場主の男に一緒に来た女を金で買わないかと持ちかけ、牧場主と女は馬で出かけ、家に残された男と妻は…。性と暴力と嫉妬。そして悲劇のラスト…。アメリカ人の男がスペインの夫婦の関係を掻き回すという構図は同じだ。
第3章がビクトル・エリセ監督作品。性と男女の閉鎖的関係をモチーフにしたユニークな前2作だが、もっともユニークなのがこの第3章。誰もいない荒野の町にやってきた2組のカップル。アメリカ人の男チャーリーは双眼鏡で小高い岩山の上から入浴中の女と戯れる男を覗く。どうやら一緒に来たもう一組のカップルのようだ。そしてそれを見ているもう一人の女。男と女の視線が交錯する。さらにチンパンジーまで登場し、2組のカップルは揺れ動く微妙な関係であるのがわかる。開かない無人の家のドアに裸で突進するアメリカ男チャーリーとそれを見守る3人。そして、女二人はそんな果敢な男の行為をたたえるかのように、チャーリーと親密になり、関係は3対1となる。そんな中でも張り合う二人の男たち。チャーリー GO!HOME!(アメリカへ)帰れ!と壁に落書きする男。恋愛自由主義の演説をするチャーリー、ふざけながら楽しく盛り上がる二組のカップル。音楽にダンス、草原を走り回り、抱き合う男女。それが後半、チャーリーの性的不能が告白された後では、関係は逆転し1対3となり、アメリカ男チャーリーが語らう友はチンパンジーだけとなる。そして再び悲劇のラスト。チャーリーが仕掛けたダイナマイトで家が爆発し4人は爆死。チンパンジーだけが町から去っていくという奇妙なラスト。かなり唐突なラストだが、これは一体何の隠喩なのか。ただ単純な男女の嫉妬の諍いの構図にしていないところが、エリセらしい。クローズアップやロングショット、そして双眼鏡やストップモーションや音楽の使い方やチンパンジーなど演出の工夫が随所にあり、物語に深みを与えている。
『挑戦』 (1969年、スペイン)
第1章 監督・脚本:クラウディオ・ゲリン
第2章 監督・脚本:ホセ・ルイス・エレア
第3章 監督・脚本:ビクトル・エリセ
監督:クラウディオ・ゲリン、ホセ・ルイス・エヘア、ビクトル・エリセ
脚本:クラウディオ・ゲリン, ホセ・ルイス・エヘア, ビクトル・エリセ
製作:エリアス・ケレヘタ
音楽:ルイス・デ・パブロ
撮影:ルイス・クアドラド
出演:フランシスコ・ラバル、アルフレード・メイヨ, ディーン・セルミア, デイジー・グラナドス
☆☆☆☆4
(チ)
「映画に愛をこめて アメリカの夜」フランソワ・トリュフォー

「アメリカの夜」とは、カメラレンズにフィルターをかけて、夜のシーンを昼間に撮影すること。映画の嘘と魔術を愛をこめてトリュフォーが描いた映画。園子温が映画についての映画を撮っていたので、久しぶりにトリュフォーの映画についての映画を見たくなったのだ。
トリュフォー自身が監督役で出演しており、フランス・ニースのスタジオ“ラ・ビクトワール”を舞台に、「パメラを紹介します」という映画の撮影を行っているスタッフ・キャストたちの群像劇である。
トリュフォーの分身とも言われるジャン=ピエール・レオがわがままで女好きの子供みたいに未熟な俳優として出演している。映画ロケ中にいろんなことが起きる。ジャン=ピエール・レオの恋人がロケ中にスタントマンと失踪し、失意のままロケを逃げ出そうとする。そんな彼を引き止めようと彼と関係を持ってしまう相手役の女優ジャクリーン・ビセット。彼女自身も精神に不安を抱えており、この件で精神科医の夫とトラブルになる。そのほか台詞を覚えらない老女優(ヴァレンティナ・コルテーゼ)、小道具係と衣裳係がロケ中に男女の仲になったり、妊娠がばれちゃう新人女優などなど。ラストシーンは、役者が交通事故に会い、撮影が不可能になる。代役を使ってラストを変更しなければいけなくなるのだ。まさにトラブルの連続。それが映画だ。
クレーンの移動撮影で長いカットが何度も繰り返される。地下鉄の出口から上がってくるジャン=ピエール・レオと大勢のエキストラの微妙な動き、そしてバスや車のタイミング。それらのわずかな動きのズレで何度も撮影が繰り返される。映画を撮ることのスケール感の大きさが分かるシーンだ。あるいは、2階の窓越しの会話を撮影するための窓枠だけの美術セット。映画を作ることの大掛かりな嘘が愛情をこめて描かれている。スタッフや俳優たちの人物関係のドラマは、付け足しに過ぎない。スタッフと俳優が総がかりで巨大な嘘(虚構)を作り上げる面白さこそをトリュフォーは観客に見せたかったのだ。「ほら、映画作りって、嘘がいっぱいでしょ。そして、大人たちが悩みながら、みんなでその嘘を作り上げているんだよ。それが楽しいでしょ」って。そんな映画への愛は、何度かイメージが出てくるモノクロ映像に表れている。トリュフォー自身の子供時代、映画のスチル写真(『市民ケーン』)を深夜こっそり盗む場面だ。
多くの監督が映画の舞台裏を映画にしている。その描き方は様々だが、どれも映画愛に満ちている。この映画もそんな映画の嘘と魔術を愛している作品だ。
原題 La nuit americaine (Day for Night)
製作年 1973年
製作国 フランス・イタリア合作
上映時間 115分
製作:マルセル・ベルベール
監督・脚本:フランソワ・トリュフォー
脚本:シュザンヌ・シフマン、ジャン=ルイ・リシャール
撮影:ピエール=ウィリアム・グレン
美術:ダミアン・ランフランキ
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
キャスト:ジャクリーン・ビセット、ヴァレンティナ・コルテーゼ、ジャン=ピエール・レオ、ナタリー・バイ、フランソワ・トリュフォー、ニケ・アリギ、ジャン=ピエール・オーモン
☆☆☆☆4
(ア)