「メーヌ・オセアン」 ジャック・ロジエ

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「ジャック・ロジエのヴァカンス」というタイトルで今回公開された長編3作品のうちで、最も新しい1985年の作品。まぎれもないジャック・ロジエの作品なのだが、やや上級編といった趣で、ますます統一性を欠いた映画であり、過剰な細部のメチャクチャさである。初めてロジエを、この作品から体験すると「なんじゃこりゃ」であろう。まずは、ヌーヴェル・ヴァーグの傑作「アデュー・フィリピーヌ」を観ることをオススメするし、または、青春の光と影のヴァカンス映画「オルエットの方へ」のどちらかを観ることをオススメする。くれぐれもこの「メーン・オセアン」という奇妙な作品から観ないようにした方がいい。

そのぐらいこの映画は、奇妙でぶっ飛んでいる。まさに行きあたりばったりのような支離滅裂さだ。物語全体の統一性やまとまり感がまるでない。「何が言いたいんだ!?」「何を描きたいんんだ!?」と怒り出す人もいるかもしれない。実際に僕が観ていた時も、途中で退席されたお客もいた。それくらい物語の展開に必然性がない。ひと夏の青春のヴァカンスを描いたという大ざっぱな括りさえない。妙な人たちの出会いと別れしかないのだ。

ロジエにとって物語の必然性は、海へ行くことだけである。今回はささやかな休日を海で過ごすために、人々が集まってくる。国鉄の検札係の男たちが、ブラジルから来たダンサーが、そして、列車の中でのトラブルで出会った女弁護士が、さらにブラジルのダンサーを追いかけてアメリカから胡散臭い興行師までやっ来る。今回も、静かな田舎の漁村の島が舞台だ。決して賑やかなリゾート地ではない。女弁護士が弁護した男、ちょっと乱暴者で声の大きな漁師プチカがいる島だ。

列車の中のトラブルの出会いから始まって、裁判所、島のバー、体育館での演奏、飛行機、船…というように芋づる式に人と人が出会って、つながって、舞台が移っていく。人物もまた次々と現れる。ダンサーと国鉄検札係、女弁護士、さらに漁師、興行師という具合に、物語の主役もまた移っていく。

一種のロードムービーとも言える。ちょっとヴィム・ヴェンダースの「さすらい」や「ゴールキーパーの不安」などのとりとめのない<さすらい旅>を思い出した。でもこの映画はもっと、統一感がなく、人物たちもまったくバラバラだ。そのバラバラな、出会う必然性もないようなそれぞれの人物の違いが、この映画の特徴でもある。

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国籍や言葉の違い、日常と裁判所での言葉の違い、そして規則を守る国鉄と喧嘩っ早い漁師、さらにペテン師まがいの興行師などなど、共通項などまるでない人たちが、島の体育館で集まり、一夜限りのセッションで騒ぐ。ピアノにギター、ダンスも加わり、楽しげに盛り上がる。まさにヴァカンスのような盛り上がりだ。そしてロジエのこれまでの映画のように、ヴァカンスが終わると、それぞれはバラバラに帰ってく。「アデュー・フィリピーヌ」では青年は兵役に旅立ち、「オルエットの方へ」では、海辺の別荘の戸締りをして、みんな寂しくパリへと戻る。そして、この映画でも飛行機と船で、それぞれがナントに戻る。バラバラになって日常に戻って行く。祭りの後のような寂しさがロジエの映画ではいつも最後につきまとうのだ。端役であった検札係が、歌手になれると騙され、はかない夢破れて、船を乗り継ぎ、砂浜をロングショットで一人歩く。国鉄検札係の仕事に戻るために…。これを船からの移動ショットで捉えたシーンは、なんだか身につまされる。それは、ヴァカンスが終わった後の、私たちの孤独な日常そのもののようだ。

ロジエの特権的空間は海辺である。そしていつも乗り物が重要だ。車、ヨット、馬…。この映画では、列車と車、船に飛行機だ。特に海辺を移動する船は、喜びと落胆の両義性がある。「アデュー・フィリピーヌ」ではラストの別れで使われ、「オルエットの方へ」ではヨットが興奮や刺激や恋心を高める場となり、亀裂を生じさせる場ともなった。そして、この「メーヌ・オセアン」は、列車でトラブルと出会いがあり、飛行機で裏切りがあり、ラストの船で友情と困難と停滞と孤独が描かれていた。

最後にジャック・ロジエの特異な演出方法に触れておこう。彼の映画に登場するのは、プロの役者ではく、どちらかというと素人のような非職業俳優たちだ。芝居を台本通りに演じさせるのではなく、自由に演じさせてそれを撮影する演出法は、あらかじめ計算されたカメラ位置、カット割り、光の設計で撮影するのではない。そこには監督すら予測を超えた役者の自由度があるのだ。いやその自由さも監督の演出でもあるのだが、それらの自由な動きをカメラに収めるのだ。だから登場人物が生き生きとしている。身体が輝いている。彼の映画でダンスシーンが多いのも必然的だ。フィルムから溢れ出てくるような闊達さと軽やかさがある。この作品は、とても長廻しが多い。それだけ個性的な演出をしている。ジャック・ロジエの「計算された即興演出」は、より意図的で戦略的になってきた。物語の全体像よりも、人物と人物の関係の変化、その細部にこだわるロジエの映画の自由さは、物語の呪縛からいつだって逸脱してしまうのだ。


1985年/フランス/135分/35mm/カラー/1:1.66 (1986年 ジャン・ヴィゴ賞)
監督:ジャック・ロジエ
脚本・台詞:ジャック・ロジエ/リディア・フェルド
撮影:アカシオ・ド・アルメイダ
録音:ニコラ・ルフェーヴル
編集:ジャック・ロジエ/マルティーヌ・ブラン
音楽:シコ・ブアルキ/フランシス・ハイミ
製作:パウロ・ブランコ
出演:ベルナール・メネズ(検札長)、ルイス・レゴ(リュシアン)、
イヴ・アフォンゾ(プチガ)、リディア・フェルド(女弁護士)、
ロザ=マリア・ゴメス(デジャニラ)

☆☆☆☆☆5
(メ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
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    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
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番外
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    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
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    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
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