「呪い」の時代から「贈与」の時代へ

これが今年最後のアップになるかな。

いま、内田樹氏の新刊『呪いの時代』を読んでいる。今年は内田樹氏の文章ばかり読んでいた。いまの僕には、彼の文章がとてもシックリくるのだ。

まだ読み始めたばかりなのだけれど、「呪い」は破壊を目指すという。批判的な言説ばかりが最近は目立ち、情理を尽くして語る文化が失われている。他者を否定して切り捨てる。そこには創造がない。破壊はアッという間だが、創造には多くの時間が必要だ。そして「呪い」は自分に返ってくるのだ。

「呪い」が蔓延した背景には、満たされぬ自尊感情がある。自己評価と他者評価の落差が拡大し、「ほんとうの自分はこんなところで、こんな連中と、こんな仕事をしているようなレベルではないのだ」という妄想が大きくなる。そんな妄想から無差別殺人は起きる。特定の誰かではなく、誰でもいい誰か。他者もまた妄想になる。

教育現場では「きみには無限の可能性がある」という言明と、「君には有限の資源しか与えられていない」という言明を同時に告げなければならないはずだ。そこからしか「学び」は発動しない。しかし、「無限の可能性」が現実とのギャップを生む。

人間も世界をすべてコントロールできるという妄想から、過ちが始まった。

内田氏は言う。

だから、僕たちにとって喫緊の課題は、妄想的に構築された「ほんとうの私」に主体の座を明け渡さず、生身の、具体的な生活のうちに深く捉えられた、あまりぱっとしない「正味の自分」をこそ主体としてあくまで維持し続けることなのです。しかし、そのぱっとしない「正味の自分」を現代日本メディアは全力を挙げて拒否し、それを幻想的な「ほんとうの自分」に置き換えよと僕たちに促し続けている。


身体性のある「私」には限界があるが、妄想の「私」の方は際限がない。だから、攻撃的になると怖いのだ。

別のところで、内田氏は「私」というものは、「他者」の要求に応えて初めて「私」が生まれると言う。他者は、孤立し、飢え、渇き、不安のうちにあるもの。そういう「他者からの要請」に基づいて「応答」という形で「私」が出現する。

まず「私」があって「他者」があるのではなく、「他者」の要求に応える形で「私」が生まれるのだ、と。「まず欠如があり、それに反応するかたちで「その欠如を埋めることができるもの」としての私が基礎づけられるのだ。

世界各地に広まる民話にはある法則があるという。まず物語の始まりは、「家族の誰かがいなくなる」ことだ。そして、その家族の誰かを探すために主人公が生まれ、失われた誰かを探す旅に出る。
内田氏によれば・・・

どんな人間的特徴をもち、どんな能力を持っているのか、何も語られない。
語りようがない。だって、存在していないから。主人公は「助けを求める人」の懇請に応じたときに、「助けを求める人の懇請に応じるもの」としてはじめてその存在を基礎づけられる。助力に応じないで、「あ、ちょっとオレ、『自分がやらなければならないこと』や『自分がやりたいこと』があるから」とすたすたと通り過ぎるものは決して「主人公」にはなれない。そういうことです。


そんな風に「他者」との関係において、さまざまな「私」が出現する。それでいいのだ。

レヴィ=ストロースが『構造人類学』で繰り返したように、コミュニケーションとは「言葉の贈り物」なんだそうだ。

自己が強すぎると自尊感情が膨れ上がる。他者を打ち負かすことが、アイデンティティーになる。しかし、本来、「他者」がいて、その「他者」との関係において「私」が出現すると考えると、「私」は他者のために存在する。それは社会のために「私」があるということだ。

そこには「贈与」というコミュニケーションの概念が生まれる。

いま金融市場が世界を動かしている。カジノ資本主義とも言われるらしい。経済成長の幻想から人々は自由になれない。これからの時代、「小商いのすすめ」を主張している人がいる。顔の見えるヒューマン・スケールのコミュニティだ。多くの富を必要としなくても、地域の小さなネットワークで生きていければ、それでいいのではないか?という気もしてくる。経済成長できなくても、そのほうが幸せなのではないか、と。

来年は、「呪い」の時代から「贈与」の時代に移っていくように願いたいものです。

多くの「死」が私たちの前に現出し、大きな災いが起きた今年でしたが、もう一度、「死」を考え、謙虚に「受け入れること」、驕らないこと、感謝すること。そして新たに創造すること。何かを呪わず、人に何かを贈ることが出来る存在でありたいと思います。

みなさま、よいお年を。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
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