「その夜の侍」赤堀雅秋

侍

これは、今年の日本映画の大きな収穫の一つと言える作品だ。とても台詞がいい。舞台で練り上げられてきたのだろう。赤堀雅秋という演劇人の才能が見事にこの映画にも結実している。

そして、なんといっても役者がいい。山田孝之はいい役者になった。「何も考えず、ただ生きている」現代の不気味な男を見事に演じている。主演男優賞ものだ。芸達者の堺雅人は、いつもの器用さとはまた違った抑えた演技がいいし、脇を固める役者たちがどれも素晴らしい。最近、一時期の光石研のようにひっぱりだこの新井浩文、谷村美月もいい。安藤サクラはワンシーンながら存在感抜群だし、ちょっとしか出てこないけれど久々に見た三谷昇も素晴らしい。繰り返される坂井真紀の留守録の声、でんでんに田口トモロヲと脇役がとにかく生きている。

2007年に初演された劇団「THE SHAMPOO HAT」の同名戯曲を映画化だ。舞台で作・演出・出演の赤堀雅秋が、岸田國士戯曲賞にノミネートされた同戯曲を映画用に自ら脚色し、監督した。

「たわいもない話」ができる関係こそが、幸福ということなのかもしれない。キャッチボールのような何気ないおしゃべり。昨日のテレビの話題や好きな季節のことや好みの異性のタイプなど、日常の無意味な会話ができる関係にこそ、ささやかな幸福がある。この映画は、そんなキャッチボールさえできなくなってしまった男たちの物語だ。いや、寂しく孤独な女性たちも出てくる。関係を失ってしまった者たち。沈黙や怨恨、不安や孤独などを考えないですむような気晴らしの遊びや暴力。そんな深い深い現代の行き詰まり感がしっかりと伝わってくる映画だ。

雨と傘の使い方、留守録の声、ポケットのブラジャー、公園のキャッチポール、ホテトル嬢とのやり取り、スナックでの奇妙なお見合い、警備員の女、暴力男につき従う男たち、読み上げられる食事メニュー、そして泥まみれの格闘とラストの車の女とのやりとり。メインの復讐物語とは別の脇の物語がいいのだ。脇の人物たちの背景は描かれなくても、それぞれのシーンがとても何かを感じさせてくれる。

物語の始まりとして起きる突然の事故の描き方が凄い。こんなリアルで唐突な交通事故の描写が今まであっただろうか。そして、事故を起こした男がつぶやく一言。「サバ味噌の匂いがする。今日どっかの家、サバ味噌だな。」こんな台詞がどうして書けるだろう。そんなリアルでいいセリフがあちこちに散りばめられている。

いい映画です。ちょっと重いですけど、誰かと「たわいもない話」がしたくなります。おススメです。
UAの『星影の小径』がまたいい。


製作年 2012年
製作国 日本
配給 ファントム・フィルム
上映時間 119分
監督:赤堀雅秋
プロデューサー:藤村恵子
原作:赤堀雅秋
脚本:赤堀雅秋
撮影:月永雄太
照明:高坂俊秀
美術:鈴木千奈
音楽:窪田ミナ
主題歌:UA
キャスト:堺雅人、山田孝之、綾野剛、谷村美月、高橋努、山田キヌヲ、坂井真紀、安藤サクラ、田口トモロヲ、
新井浩文、でんでん、木南晴夏、三谷昇

☆☆☆☆☆5
(ソ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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映画にまつわる雑文です。
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