「人口減少という希望 コミュニティ経済の生成と地球倫理」広井良典

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デメリットばかり強調される人口減少社会を肯定的にとらえる本。

日本の人口は2004年に1億2784万人をピークに、すでに2005年から人口減少社会に入っている。2060年には9000万人を割って8674万人になると予想されている(人口問題研究所の将来推計より)。しかし、江戸時代後半の日本の人口は3000万人強でほぼ安定していた。明治維新以降、急激に人口増加が起こり、第二次大戦後に7000万人強であった後も急勾配で上昇し続け、人口が1億2784万人まで増えたのだ。明治以降、いかに無理をしてきたかがわかる。欧米列強に追いつくために「富国強兵」し、敗戦後も「経済成長」に目標が変わっただけで、急な坂道を登り続けた。むしろ、人口減少社会は、そうした矛盾の積み重ねから方向転換し、あるいは“上昇への強迫観念”から脱出し、本当に豊かで幸せを感じられる社会を作っていく格好のチャンスあるいは入口と考えられるのではないか…。

また、イギリスやフランス(約6300万人)、イタリアの人口は6000万人強で、日本の半分にすぎない。ドイツは日本とほぼ同じ面積で、人口約8200万人。日本の人口が急激に増えすぎたのであり、多少減った方が、適正な空間的・時間的・精神的ゆとり、環境や資源などでプラスもある。もちろん、出生率は現在の1,39は、大きな問題である。せめて出生率2.0ぐらいまで回復することが望ましく、そうすると2100年には、9000万人程度の定常人口で安定することになるのだ。定常型社会の到来だ。

私たちが迎えつつある定常化の時代においては、一元的な時間軸の尺度(成長・拡大の進化)が背景に退き、「空間」や「地理」が前面に出るようになり、各地域の風土的・歴史的多様性や固有の価値が再発見されていく。成長・拡大期が“地域からの離陸”に時代だったとすれば、定常期は“地域への着陸”の時代なのだ。過去に戻るのではなく、「なつかしい未来」を実現する。それは、身近なローカルな場所や古くからある風景、それらの愛着といったものの中に含まれている。

モノがこれだけあふれる状況の中で人々の需要が飽和し、「成長・拡大」を至上目的とする資本主義が根本的な臨界点に到っている状況。つまり従来型の市場経済が飽和する「定常型社会」への移行において浮上するのが「コミュニティ」経済と呼ぶべき新しい質の経済だ。

コミュニティ経済の特質
①「経済の地域内循環」…ヒト・モノ・カネが地域内で循環する
②「生産コミュニティ」と「生活コミュニティ」…会社と商店街、職住近接のライフスタイル
③経済が本来もっていた「コミュニティ」的(相互扶助的)性格の再評価
④有限性の中での「生産性」概念の再定義…労働生産性から環境生産性へ。
⇒かつては人手が足りず、自然資源が十分あり、「労働生産性」(少ない人手で多くの生産を上げる)が重要だった。今は逆に、人手余り(慢性的失業)、自然資源不足の状態であり、人を積極的に使い、資源の使用を抑制することが重要。
<介護、福祉、農業、自然エネルギーなどと結びついたコミュニティの可能性。>

ローカルからグローバルへの全体構造
①物質的生産、特に食料生産及びケアは出来る限りローカルな地域単位で…ローカル~ナショナル
②工業製品やエネルギーについてはより広範囲の地域単位で…ナショナル~リージョナル
 (ただし自然エネルギーは出来る限りローカルに)
③情報の生産/消費ないし流通についてはもっとも広範囲に…グローバル
④時間の消費(コミュニティや自然などに関わる欲求ないし市場経済を超える領域)はローカルに。

今という時代は、ここ200~300年の間に展開してきた産業化(工業化)文明がある種の根本的な限界あるいは資源・環境制約にと直面しつつあり、言い換えれば私たち人間の歴史の中で、“三度目の定常期”を迎えようとしている。そしてちょうど狩猟採集社会(約5万年前)及び農耕社会の成熟・定常期(紀元前5世紀前後)において、それぞれ「自然信仰」及び「普遍宗教(普遍思想)」が生成したのと同じように、新たな価値原理ないし思想が求められている。それに相当するのが「地球倫理」だと広井は書く。

その「地球倫理」とは個々の普遍宗教の根底にある次元(自然信仰、自然のスピリチュアリティ)を再発見・再評価していくことが、個々の普遍宗教を超えた「地球公共性/地球的スピリチュアリティ」につながる。
「個人」という存在を軸に置きつつ、かつそれを超えていくという志向を持つもので、それは私や他者を含む一人ひとりの根底に、自然のスピリチュアリティ――――生命の内発性あるいは存在そのものといってよいもの―――を見い出していく思想なのだというのだ。


本書の後半のくだりの普遍宗教の対立を超えた「地球倫理」については、やや観念的で理想主義的すぎる感じがするが、広井良典が人類史という歴史的に長い射程から思考を深め、現代こそ、工業化が行き着いた資本主義社会の臨界点であり、需要が飽和状態のなかで「拡大・成長」が望めない転換点に達していると指摘している。労働生産性を追求した果てに、慢性的に人が余り、資源が不足する時代のなかで、人が関わり合う経済コミュニティの再構築の重要性、かつての「地域からの離陸」ではなく、「地域への着陸」の時代であることを本書は主張しているのだ。

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