「さらば、愛の言葉よ」ジャン=リュック・ゴダール

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2回観た。一度目は東京で3Dで。2度目は札幌で2Dで。これから地方で2Dでしか観られない人には申し訳ないのだが、この映画は3Dで観ないと意味がないと断言させてもらおう。あくまでも3Dの視覚的実験作であり、その体験こそが全てだ。2Dだけ観てもいろんな映像がごった煮のように出てくるだけで、ただただワケが分からないだろう。2Dは映画の流れを再確認する程度のものだ。

映画についてラジカルに挑戦し続ける映画監督ゴダール。80歳を越えてもなお新たな実験を繰り返す。今回は誰もやったことがない3D映画を作ってしまった。従来の3D画面の立体的な厚みを見せるためだけの映画ではない。観客に見ることの混乱と刺激と錯乱を呼び起こす3D映画なのだ。

そもそもゴダールは『勝手にしやがれ』のデビュー作から挑戦的な映画を作り続けてきた。スタジオからパリの街角にカメラを持ち出し、同時録音の臨場感溢れる生き生きとした男と女、パリの街そのものを描いた。編集はジャンプカットを多用し、テンポ感溢れる斬新な映画を作り、ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとなった。役者がカメラのレンズを見ながら語りかける場面もゴダールではお馴染みである。映画のツクリモノの世界をとことん解体、脱構築し、「映画とは何か?」を一貫してラディカルに問い続けている。音と映像の関係をズラして混乱させたり、引用やコラージュも多用する。映画は誰のものでもなく、オリジナリティなど信じてはいない。さまざまな引用とともにあり、ましてゴダール自身のものでもない。見られ方だって、限りなく自由であるべきだというのがゴダールの映画だ。暗黙の了解や制度としての映画を徹底して壊し、疑い続けてきたのだ。

さて、物語は情報によると、「ある人妻と独身の男が出会い、愛し合うが、やがて2人の間には諍いが起こる。季節はめぐり、2人は再会するが……」とある。最初観たとき、何人かの男女の関係などまるで分らなかった。分かったのは、同じようなことが繰り返されることである。それで2回観たのだが、正直、2回観てもよく分からない。

以下ネタバレになるのが(観てから読んでね)、詳しく説明すると・・・。

わかるのは、広場で女のところに車でやってきた男が、画面の外側でピストルをぶっ放し、去っていくことである。どうやらこの男が女の元夫であり暴力的な男らしい。そして別の男がやってくる。しかし、この登場人物もしっかり顔を撮っていないので、よくわからない。さらに途中で書物の引用やら昔の戦争映像やら、ヒトラーやらソルジェニーツィンやら、スマホ電話の交換などが行われる。それまでが「1/自然」というチャプターで示され、続いて「2/隠喩」というタイトルで、別の登場人物で同じようなことが繰り返されるのだ。

「1、自然」でも登場した知識人のような男が媒介役となり、別の女(1度目は毛糸の帽子をかぶっていた女は、つばのある帽子の女に代わっている)が登場し、また夫と思われる男が車で現れ、女を画面の右側に連れ出し、ピストルを突き付ける。ここで、本を読む男と諍う男女2人が左右同時にオーバーラップして描かれ、3D画面は混乱する。右目と左目が別々の画面を映し出し、観客は何を観ていいのかよくわからなくなるのだ。そして、女は本を読む男のところの戻り、カメラがパンして二重画面が終わる。最初の女と同じように「どうでもいいわ」とつぶやく。続いて、鉄格子越しの帽子の女の手に、別の男のような手が入ってきて、一度目と同じように「私はあなたに従う」という声が入る。

男女の顔がハッキリ明示されないので、暴力夫から逃れ、新しく出会った2組の男女はよくわからない。続いて室内での裸の男女が描かれるのことなるのだが、これも様々な画面がいろいろ挿入されつつ、同じようなことが別々の男女で2度描かれる。テレビで昔の映像を見ていたり、トイレで男が排便をしながらの二人のやり取り、血のようなものが流されるバスタブなど、少しずつズレながら2度繰り返される。

これは一体なんだろう?男女の物語などどうでもよいようだ。初めから物語は解体されている。2組の男女の同じような物語をそれぞれ別のキャストが演じることにどんな意味があるのか?あえて言えば、違う2組の男女のズレを描いているのかもしれない。3D映像とは、左右の視差から生じる映像技術だ。カメラを2台並べてズラして撮影する。この3D画像は、一般的な3Dよりも2つのカメラの距離を広げて、より誇張した撮り方をしているらしい。いわゆる禁じ手を使っているそうだ。だから観る側は、今までにない3D体験をすることになる。タブーと言われる3Dの手持ちカメラも次々と出てくるし、左右別々に二重に映すような実験までやっている。つまり、物語的にも二組の男女を二重に演じさせて、3D的なズレを描いている。ゼロと無限大、セックスと死、ヒア&ゼア、音と映像、二つのカテゴリーの並置が得意なゴダールは、3Dという撮影技法を使って、画面を並置させ、物語も並置させた。見ることを混乱させ、そして、そこには奇妙なズレがある。

映画全体を通じて描かれるのは、いうまでもなく一匹の犬である。ゴダールとパートナーであるアンヌ=マリー・ミエヴィルの飼い犬ロキシーという名の犬らしい。この映画は犬の目線で撮られているとも言える。たしかにローアングルから撮られる木の枝や空もある。動物の目は、言葉を必要としない。人間は言葉を使って、世界を見る。観念的に選別し、解釈しながらモノを見る。映画タイトルになっている「Adieu au langage (言葉よ、さらば)」とは、そんな言葉(観念)で観ることから決別し、動物目線への思いが込められているのかもしれない。

選ぶのではなく、ただただ混乱させる。統一したストーリーはなく、物語は二重化させ、映像はニュースや戦争映像、古い映画や荒い粒子や露出オーバーの自然、自転車レースや車窓など物語とは関係ないさまざまな質の映像が次々と出てくる。投げ出された映像。そこに書物の引用や、街のノイズや動物の鳴き声、自然の音や割れた役者の台詞など、統治のない音が羅列される。音楽は何度も中断し、反復され、観ていてちっとも気持ちよくさせてくれない。物語も音も映像もバラバラと断片化され、イメージを結ばせない。それを3Dで混乱に輪をかけているのだ。本当にゴダールは悪戯好きの子供のようだ。

そして、水が全編を通して描かれる。水たまり、川辺、湖、雨。水は美しく、犬のロキシーに寄り添うようだ。川で流れていくロキシーもある。最初に2度登場する船は、物語を運んでくるものなのか?。車は暴力を運び、アクションを起こす。室内での無造作な裸と陰毛、そしてトイレでの糞尿は、人間を動物のように無防備にさせる。流れる赤い液体は、血を思わせる虚構だ。それと対照的なのは、ロキシーが見詰める湖の美しい水なのだ。最後のカットはロキシーが森で勢いよく走りだし、犬の鳴き声と赤ちゃんの声が聞こえてくる。どう解釈しようと自由だが、私たちはいつもその解釈を疑い続けることの必要性をこの映画は問いかけている。あくまでも、観て体験したことが、映画の全てなのかもしれない。


原題:Adieu au langage 3D
製作年:2014年
せい作国:フランス
配給:コムストック・グループ
上映時間:69分
映倫区分:R15+
上映方式:2D/3D
監督:ジャン=リュック・ゴダール
脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:ファブリス・アラーニョ
編集:ジャン=リュック・ゴダール
キャスト:エロイーズ・ゴデ、カメル・アブデリ、リシャール・シュバリエ、ゾエ・ブリュノー、ジェシカ・エリクソン、クリスチャン・グレゴーリ

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