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「火口のふたり」荒井晴彦

性愛の世界を描かせたらこの人が一番じゃないかと思う脚本家、荒井晴彦の3本目の監督作品である。オープニング、下田逸郎の曲を歌う女性の声が聴こえてくると、彼の最初の監督作品『身も心も』を思い出す。『身も心も』は、下田逸郎の名曲を石川セリが歌う「セクシィ」を使っていた。私も大好きな曲で、「あぁ、この曲を使ったのか」と、それだけでうれしくなったのを覚えている。

さて、この映画は男と女の愛、そのものの映画である。ピンク映画のように性愛描写がふんだんに出てくる。廣木隆一監督の『彼女の人生は間違いじゃない』でも体当たりで演じていた瀧内公美が、今作でも美しい裸体をさらけ出し、魅力的な女性を演じている。あの映画では、震災後の福島から性風俗の仕事をしに何度も上京する女性を演じてた。震災が人々の人生に大きな影を投げかけている映画だったが、この映画も地震や自然災害が大きな要素になっている。死とエロス。性愛の世界はどこかで死の世界とつながっている。死を間近に感じるからこその生であり、性愛でもある。

結婚する直前の女が、元カレの柄本佑と再会し、身体に正直にかつての愛を取り戻す映画だ。「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」。富士山の火口の写真の目で、疑似的な死を体験した二人。いとこ同志であることに後ろめたさを感じていた男。刺激的なセックスばかりを繰り返し、身体の結びつきを深めていったかつてのふたり。女はいつまでもヘビのような男の身体の感触を覚えていた。女は男の身体に、消えたはずの炎をつけた。「今夜だけ」では済まなくなる二人。

「けんちゃん」と女は何度も男の名を呼ぶ。その呼び方がなんとも愛に満ちている。結婚するために別れる日を決めながら、デートを重ねる二人。その時間がせつない。好きなのに別れを決めている二人。そんな時に地震が起きる。秋田で東北大震災を経験した彼女は、間近で多くの死者たちを見た。生き残った者のうしろめたさ。今を生きるしかないと言う男。いつ何が起きようとも。

大きな震災を経験した我々は、またいつ起きるともわからない災害を近くで感じている。だからこそ、「今」があり、人と人を強く結びつける性愛の強さがある。

誰もが夢中になった「あの頃」を懐かしく思い出す。今このときこそが「愛おしく、せつない、かけがえのない時間であること」を、思い出させてくれる映画だ。二人しかほぼ出てこない映画だけど、決して中だるみもせず、面白く見れたのは、脚本の力と二人の役者の力だろう。若い人に見てほしいな。性愛の結びつきの強さこそ、世界で何が起きようとも、生き抜く力となる。


2019年製作/115分/R18+/日本
配給:ファントム・フィルム
監督:荒井晴彦
原作:白石一文
脚本:荒井晴彦
製作:瀬井哲也 小西啓介 梅川治男
エグゼクティブプロデューサー:岡本東郎 森重晃
プロデューサー:田辺隆史 行実良
企画:寺脇研
撮影:川上皓市
照明:川井稔 渡辺昌
編集:洲崎千恵子
音楽:下田逸郎
キャスト:柄本佑、瀧内公美

☆☆☆☆4
(カ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
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オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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