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「ひとよ」白石和彌

白石和彌監督は、『凶悪』の暴力性と人間の恐ろしさの描き方、その迫力にビックリし、その暴力性は『孤老の血』でも見事に発揮され、未見だが『日本で一番悪い奴ら』もその延長線上の作品といえるだろう。一方で『牝猫たち』や『彼女がその名を知らない鳥たち』などでは人間ドラマもしっかりと描く。若松孝二監督を師事していたことから『止められるか、俺たちを』を作っているが、残念ながらこれは未見。近作、『麻雀放浪記2020』は名作のリメイクだが、新境地ともいえる作風のようだし、『凪待ち』、そしてこの『ひとよ』と次々と充実した話題作を連発している。今、日本映画界にあって、瀬々敬久とともに重厚な人間ドラマを撮らせたら、まず間違いない作品になるノリに乗っている監督だろう。

この映画は、田中裕子を見たくて行った。予想通りの存在感だ。冒頭の夫を殺した場面、そして再び15年ぶりに家に戻ってきた彼女の圧倒的な力は、映画を支えている。そして、佐藤健、松岡茉優、鈴木亮平とそれぞれのキャラクターの家族の空気感が見事だ。白石組の常連の音尾琢真、筒井真理子、佐々木蔵之介が脇を固めている。これだけの役者たちが揃っていると、ドラマとして見応えがある。

家庭内暴力の家族の話ということだったが、思ったほど暴力シーンは出てこない。回想扱いのみだ。それよりも、暴力夫から子供たちを守った母は聖母なのか、それとも夫殺しの殺人鬼なのかという単純には答えの出ない問いに家族みんなが向き合う物語だ。「子供たちのために殺した母の正義」は、同時に「人殺しの母の子供たち」ということで、世間の目に晒され、母の不在の中でそれぞれが苦しむ地獄とも重なり合う。一つの行為は、一つの意味しかないのではない。幾重にも意味を持ち、それが錯綜し、いくつもの物語が生まれる。普通の人は、気にも留めないなんでもない「夜」は、ある人にとっては特別な意味を持つ「ひと夜」になる。

佐藤健の直接性、鈴木亮平の抑制、松岡茉優の中途半端さ、いずれもそれぞれの苦悩があり、共感できる。それは、15年ぶりに母が戻ってきたことで、それぞれの思いをぶつけあいながら、壊れた家族が「家族」になっていく。佐々木蔵之介や筒井真理子のサブストーリーとも重なりつつ家族は家族になる。

多重性を帯びた役者たちの演技と、そのぶつかり合いを楽しむ映画だと思う。

☆☆☆☆4
(ヒ)


製作年:2019年
製作国:日本
配給:日活
上映時間:123分

監督:白石和彌
脚本:高橋泉
原作:桑原裕子
出演者:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟、佐々木蔵之介、田中裕子

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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            2012年映画ベスト10
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          5、「きっと ここが帰る場所」
          6、「ドライヴ」
          7、「風にそよぐ草」
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