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「立ち去った女」ラブ・ディアス

フィリピンの鬼才ラブ・ディアス監督作品を初めて見る。第73回ベネチア国際映画祭で金獅子賞ほか各映画祭などでも評価の高いラブ・ディアス監督の映画はとにかく長い。9時間を超える映画もあるそうで、3時間48分のこの映画は短いほうだとか。しかし、映画館で観たい映画だ。ロングショットを多用した長回し。単調な物語。家のテレビ画面で見るには、かなりの集中力を必要とする。深夜とかに見ると睡魔と戦うことになる。体調がいい時を選んで覚悟して見始めた。

白黒の固定カメラ映像が圧倒的で美しい。光と影。カット数は少ない。長回しでアップはほとんどない。人物は風景の一部となっている。顔の表情などよくわからない。影だったりもする。時々、そこに人物がいるのかさえ分からない。動き出して初めて存在がわかったりする。風景に溶け混んでいるのだ。人物中心の映画ではない。あくまでも登場人物はフィリピンの街の一部であり、風景のなかで生きているにすぎない。人物を描くために映像があるのではなく、あくまでもフィルピンの現実を切り取った映像があり、そこに人物が佇んでいるという感じだ。すべてのカットは美しく、決まっている。ラブ・ディアス監督自らカメラを担当しているので、サイズや画角も全部決めているのだろう。フィルピンの緑が美しいだろうとカラーも想像するが、その白黒映像の光と影の美しさは完璧だ。「ROMA」というメキシコ映画の白黒映像も美しかったが、ラブ・ディアスのカメラの映像も素晴らしい。女装したゲイが夜、坂の上で横からの光に浮き上がり、スカートを翻しステップを踏みダンスをする映像は、まるで天使が舞い降りたような美しいカットだ。

物語はいたって単純。30年間冤罪で女性刑務所に入れられていた主人公の復讐の物語。同じ刑務所の中の友人に殺しの罪を着せられ、その殺しの黒幕である元恋人への復讐を考え、出所後にその男に近づく。島の有力者になった男を暗闇の中で待つ女。物乞いの女や卵売りの男や女装したゲイ、さらに貧困層の子供たちなどが登場し、女はそんな貧しき最下層の人たちに慈悲の心で優しく接する。その一方でピストルを手に入れ、男を殺そうと準備する。その殺人を実行するつもりだった前夜、傷だらけになったゲイが彼女の家を訪れ、運命が変わっていく。

1997年のフィリピンの時代設定。中国系フィリピン人の富裕層の子供たちを狙った誘拐事件が多発し、香港の中国返還やマザー・テレサの死のニュースがラジオから流れてくる。卵売りがうろうろする夜の路上シーンが多い。物乞いやバラックで暮らす貧困家庭が映し出される。女装したゲイは日本にも働きに行ったが人生に絶望し、死に場所を求めてこの島に来た。そんな人々周辺の人生がフィリピンの路地とともに浮かび上がってくる。立派な住宅や教会に集う島の有力者たちとの格差。自らの邪悪な心と向き合い、神の存在を神父に問う復讐される男の場面もあるが、その矛盾に満ちた存在そのものを肯定も否定もせずに、そのまま画面に映し出す。主役の女性も冤罪の怒りに駆られているわけではない。30年の間に最愛の夫を亡くし、息子は行方不明という人生の不条理を抱えたまま、人に優しくし、復讐の思いも心に秘める。その矛盾そのものが人生であり、この社会である。その善悪を超えた複雑さそのものを、丸ごとカメラに収めているような映画だ。


2016年製作/228分/フィリピン
原題:Ang babaeng humayo
配給:マジックアワー
監督・脚本・撮影・編集:ラブ・ディアス
製作総指揮:ロナルド・アーグエイエス
キャスト:チャロ・サントス・コンシオ、ジョン・ロイド・クルズ、マイケル・デ・メサ、シャマイン・センテネラ・ブエンカミノ、ノニー・ブエンカミノ、マージ・ロリコ、メイエン・エスタネロ、ロメリン・セイル、ラオ・ロドリゲス、ジーン・ジュディス・ハビエル

☆☆☆☆4
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 人生 社会派 ☆☆☆☆4

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ヒデヨシ

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