「ミーナの行進」小川洋子

コビトカバに乗って小学校に通学する少女ミーナと芦屋の洋館で過ごした幸福な一年間の物語。

誰でも「過去の時間によって守られていると、感じること」があるだろう。そんな幸福な記憶の拠り所があるからこそ、人は頑張ったり、優しくなれたりするのだ。きっと。ミーナが擦るマッチのあたたかい炎のように。そんなぬくもり溢れる優しい物語だ。

少女たちの幸福な時間。コビトカバがいて、双子の姉妹のような家事担当の米田さんやドイツ生まれのローザおばさん、活字の海から誤植を探すのが得意な寡黙な伯母さん、ダンディな社長の伯父さん、そして喘息持ちで身体が弱く空想の物語が大好きな少女ミーナとの贅沢な洋館での暮らし。それにスイスに留学している美形の兄の龍一さん。みんなが揃って、一人も欠けずに集まったら、それはもう幸福そのもの。そこには、それぞれの優しい思いがあるからだ。みんなで夏の海に行った一日が、せつなくて美しい。

小川洋子は、そんな美しく詩的で優しさと思いやり満ちた人たちの物語を描いた。コビトカバの愛くるしい存在は、この洋館の人たちのシンボルだ。それはまるで「猫を抱いて象と泳ぐ」のなかの猫だったり、デパートの屋上から大きくなり過ぎて降りられなくなった象だったりする。

また彼女は美しく詩的に登場人物たちが熱狂するゲームやスポーツを描くのが得意だ。「博士の愛した数式」では、その数学的世界と野球の江夏の投球を。「猫を抱いて象と泳ぐ」では、チェスの世界を描いた。そして、この「ミーナの行進」では、ミュンヘンオリンピックで活躍した日本男子バレーボールを。特にセッターの猫田選手の美しきトスを見事に描写している。

美しき調和とバランス。それぞれがそれぞれの役割を守りながら、互いに敬意と愛を持ちながら保たれる調和。やがて失われるかもしれない美しき王国は、失われたあとも、形を変えて、それぞれの心の片隅に、想い出の木の下に、静かに息づいている。

失われた幸福な記憶を思い出し、優しい気持ちになれる本です。

(み)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
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