「世界史の極意」佐藤優 (NHK出版新書)

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世界史は複数ある。国ごとに歴史はあり、それは一つではない。歴史には複数の見方があるのだ。それぞれの立場からその歴史の物語を読み解かないと、世界の混乱と戦争は終わらない。これまでの歴史からアナロジーを駆使して物事を考えるべきだと著者は説く。だが、本書はかなり駆け足で世界史を解説しているため、やや雑駁な印象がある。それでも勉強になる部分はいろいろとあった。

1914年以来、戦争の時代が継続している。世界史の中で、1870年代から第一次世界大戦までを「帝国主義の時代」と呼び、この時期に、欧米列強が軍備を拡大させ、世界各地を植民地化してきた。それは資本主義のグローバル化とともに必然的なプロセスだった。そして第一次世界大戦後の共産主義の出現は、資本主義のブレーキ役となったが、1991年のソ連崩壊によって、再び資本主義は加速し、新・帝国主義の時代が訪れている。

帝国主義の時代では、資本主義のグローバル化とともに、国内では貧困や格差拡大が進み、富や権力の偏在がもたらす社会不安や精神の空洞化は、社会的な紐帯を解体し、砂粒のような個人の孤立化をもたらす。そこで国家は、ナショナリズムによって人々の統合を図ることになる。

それと同時に、帝国内の少数民族は、程度の差こそあれ民族自立へと動き出す。上からの公定ナショナリズムや排外主義的なナショナリズムのほか、スコットランドや沖縄のような自身の民族意識の高まりが生まれている。

一方、民族的なナショナリズムとは別の形でグローバル危機を乗り越えようとしているのが、宗教的な理念だ。イスラム原理主義の特徴は、単一のカリフ(皇帝)が支配する世界帝国の樹立を目指す点だ。人間の労働力も商品化され、人間と人間の関係性から生み出される商品もすべてカネに換算され、そのカネの増殖することが自己目的化するのが資本主義経済だ。その「見える世界」のモダン思考から、「見えない世界」のプレモダンの思考を取り戻すことで乗り越えようとする。その超越性への安直なショートカットこそが宗教的原理主義だ。

イスラム教の開祖、ムハンマドの没後、4代目のカリフとなったアリーは、ムハンマドの従弟であり、アリーとその子孫こそが血統的に紳の後継者とするのが「シーア派」。シ―ア派の中でも、12人目の最高指導者イマームを救世主とするのがイランで権力を握っている十二イマーム派。

イスラム過激派のほとんどは「スンニ派」のハンバリー学派に属する。なかでも18世紀の中ごろのワッハーブによって創始されたワッハーブ派は、極端な原始イスラム教への回帰を唱え、過激化していった。

16世紀、西はオスマン帝国、東はムガル帝国、いずれもスンニ派のイスラムに挟まれる形でイランに誕生したのが、シーア派十二イマーム派のサファイィー朝が成立した。それは、イラン人の遥か昔の輝かしいペルシャ帝国の記憶が、ペルシャ・アイデンティティとなってシーア派と結びついた。戦後のイランは、親米のパーレビ国王の近代化政策で白色革命で成長したが、格差拡大の不満によって、シーア派指導者ホメイニによって、1979年イラン革命が成功した。現代のイランは、十二イマーム派のイスラム原理主義とペルシャ帝国主義の二側面がある。だから、シーア派のイランが、スンニ派原理主義であるパレスチナのハマス政権と良好な関係を築いているのは、ペルシャ帝国主義的な側面。対イスラエル、対キリスト教ということで、シーア派とスンニ派は団結する。

著者はイスラム原理主義の暴走を食い止めるには、ネイションの元になるエトニの議論だという。イスラムへの帰属意識よりも民族意識を強化し、ネイションを対置すること。

19世紀末に生まれた帝国主義は、二つの大戦による大量殺人と大量破壊まで行き着いた。ヨーロッパが殺し合いをしなくなったのは、あまりにも大きすぎる犠牲を払ったから。一方、現代の新・帝国主義は、第三次世界大戦には至っていない。しかし、ウクライナ、パレスチナ、イラク、シリアなどで、核を使わない戦争が続いている。こうした戦争や紛争を解決するには、もうこれ以上殺し合いをしたくないと双方が思うこと。そのために、著者は啓蒙に回帰すること、人権、生命の尊厳、愛、信頼といった手垢のついた概念に対し、不可能だと知りながらも、語っていくこと。それはバルトの言う「不可能の可能性」を求めていくことだ。

国民国家や資本主義のシステムはそう簡単には壊れない。近代の枠組みの中で戦争を止めるには、近代の力=啓蒙主義をリサイクルさせること。もうひとつは、「見えない世界」へのセンスを磨くことだと著者はいう。合理主義の限界から、イギリスの実念論のような「見えない世界」へのセンスを磨き、国際社会の水面下で起こっていることを見極めることだと説く。プレモダンの精神をもって、モダンをリサイクルすることだというのだ。

なんだか正直、よくわからない。「手垢のついた啓蒙主義」のリサイクル、プレモダンの精神「見えない世界」へのセンスを磨くことで、過激な宗教的原理主義をどう乗り越えていけるのか?複数ある歴史をアナロジカルに読み解こうとするのは、とても大切な視点だ。絶対的な一つの価値観ではなく、相対的に今起きている出来事をあらゆる側面から見ること、それを続けていくしかないのだろう。
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