「慨世の遠吠え 強い国になりたい症候群」内田樹 対論 鈴木邦男

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「慨世」なんて言葉知らなかったので調べてみると、「世の中のありさまについて不満をもち、憤慨する こと」とある。先日、札幌の時計台ホールで鈴木邦男と内田樹の対談講演があったので聴きに行った。初めて目にした内田樹氏は、武道家らしい堂々とした体躯と溌剌とした顔色、そして饒舌で淀みのない口調で楽しそうに話していた。右翼の論客として有名な鈴木邦男氏は、思っていた以上に穏やかな紳士で聞き役に徹していた。その講演会場で思わず買ってしまった本がコレである。会場と同じように本の中でも鈴木邦男氏は内田樹氏に敬意を払いつつ、聞き役にまわっている。鈴木邦男の最近の文章を読んでいると、とても真っ当で寛容なナショナリストであることがわかる。決して排外主義的で偏狭な右翼ではない。全く逆である。ある意味で左翼よりも柔軟だ。最近、一水会「脱右翼宣言」というのをされているが、右翼からも「お前なんか右翼じゃない」と言われている柔軟で果敢で面白い人物である。内田樹が「おわりに」で書いているように、「身体を張って」覚悟をもって書いている「親身な人」というイメージだった。
内田は、「自分の拳に担わせることのできないような思想は語るな」という吉本隆明の信条を大事にしていると語る。

日の丸の国旗掲揚の義務化やヘイトスピーチの法規制に対して、鈴木も内田も反対している。ヘイトスピーチは下劣であるけれども、「どんなへんちきな主張であっても、政治的な主張を法律で規制するのはよくない」と語る内田。「下劣なふるまいは法律で規制するものではなくて、常識で規制するべきもの」。「バカなことをやめろと叱り飛ばすことができる大人たちが出てくるというのがことの筋」だと語る。そこには規制することの息苦しさ、社会の多様性と寛容さこそ大切だとする考えがある。

内田:日本にはくだらないものもいっぱいあるけれど、それを「くだらない」と批判できることと、「それにはアクセスできない」と禁止するのは、全くちがうことなんです。
         (中略)
鈴木:・・・「おれは独裁者になりたい」なんて言ってくれたらみんなヘンだなとわかってくれるけど、愛が大切なんです。正義が大切なんです、平和が大切なんですと、だれも反対できないかたちで押し付けていくのが、一番いやですね。

内田:そういうのが一番いやですね。


こういう二人のやり取りで対談は終わっているのだが、左翼や右翼や宗教も含めて、一つの価値観の押しつけの怖さを二人は共通に感じている。

ドイツはナチスにすべての悪を押し付けて、残りのドイツ人を免罪するという物語を作った。だから対独協力者のことを批判を押さえて語ることすらできなくなった。フランスもヴィシー政権に加担した人はすべて隠蔽された。そうやって、フランスやドイツは国家イメージを作って戦前のフランスやドイツと決別して、戦後の国家を再建した。戦後日本の出発点はその点、グズグズだった。国民が共有している「お話」がない。それが日本の最大の弱みであると同時に、言論の点では「タブーがない」とも言える。そんな日本が今、北朝鮮化しようとしている。単一原理に収斂しようとすることこそ、もっとも危険な道である。

(以下、内容のメモです。)

<第1章 日本の政治と外交>
鈴木:福田恒存も「保守という言葉は嫌いだ」「保守というのは心の持ちようだ。生活だ。だから、保守主義というものがイデオロギーになったら、単なる反動になる」と主張していた。

内田:集団的自衛権は、要するにアメリカの海外派兵に自衛隊がついて行って、その「下働き」をするということでしかない。アメリカが民間警備会社の傭兵たちに高い金を払ってやってもらっていた警備や検問の仕事も、自衛隊がただで請け負ってくれる。

安倍さんは憲法改正を政権獲得時に公言していたけれど、2013年の五月に改憲プランを引っ込めた。これはアメリカが改憲に反対だから。4月に「村山談話をそのまま継承しているわけではない」と発言したのに、3週間後の「継承します」と発言を撤回したのもアメリカの圧力。でも誰も口に出せない。外交政策について自己決定できないアメリカ従属国。「中韓から思いがけない反発があった」と最初から想定出来るバカみたいな言い訳に終始した。

橋本徹大阪市長が沖縄の米軍指揮官に「もっと性的サービスを活用するよう助言した」と言ってアメリカ政府の憤激を買った。改憲派の盟友である安倍首相がアメリカの圧力で改憲しないと知った市長が、悔し紛れに「捨て台詞」を投げつけた。これに対して。「ニューヨークタイムズ」は「このような政治家にはいかなる政治的未来もない」と筆誅をくわえ、サキ大統領補佐官も「非道かつ侮辱的」と発言し、姉妹都市サンフランシスコ市長から表敬訪問を拒否された。橋本市長は、その後慌てて、オスプレイの沖縄配備に反対運動があることを受けて、地元の了解を得ないまま大阪府の八尾空港に受け入れてもいいと発言したのは、「『アメリカにとって都合の良い政治家』ですから、暴言はご容赦ください」というアメリカへの必死のメッセージだった。

靖国を参拝するということは東京裁判史観を否定すること。戦後レジームとは、東京裁判史観・サンフランシスコ講和条約史観そのもの。防衛省も、外務省も、経済産業省も対米自立路線の政治家は集中攻撃する。メディアもそう。そうすればドメスティックな格付けが上がる仕組みになっている。グローバル資本主義とナショナリズムが馴染がいいのは、彼らが本質的に無国籍企業であるにもかかわらず、「日本の企業」を名乗っているから。「日本の企業として、中国や台湾や韓国の企業と経済戦争を闘っている」という「お話」を官僚やメディアは垂れ流している。しかし、現実はグローバル資本主義が日本の国民資源を食い潰そうとしている。

<第3章 合気道について>
内田樹にとって、合気道は生きていく上での基本スタンスなのである。もしかしたら闘わないでいられる思想を合気道を通じて実践しているのかもしれない。それは「生き物としての力を高めること」でもあるのだろう。

内田:相手の敵愾心を一瞬で武装解除できる人こそ武道的には「天才」。「他人と共生する能力」こそ、人間が生き延びるうちで最大のものであり、人間の身体はそのための資源が豊かに蔵されていて、開発を待っている。「他者との共生」は倫理や道徳の課題ではなく、身体的経験であり、身体実感から始まるもの。その実感は質の高いチームスポーツや武道の形稽古を通じて習得できる。今の学校教育の体育は、そういう能力を時間をかけて開発するよりも、勝敗優劣を優先させるのが問題。

内田:トラブルに遭遇しないように暮らすことこそ武道的なふるまい。いるべき場所で、なすべきことをするという生き方をしていれば、うまくすれば一生だれともいさかいを起こさずにすむ。

内田:(武道は)生き物としての力を高めること。例えば、生き物としてのレベルで見た場合、国民国家同士で小さな領土やプライドをかけて戦争するなんていうのは、きわめて反生物的なこと。70億人が地球という資源の有限な環境にひしめいているわけですから、生物としての力の発揮のしどころは、どうやってこの70億が平和で快適に共生できるか、そのための仕組みを工夫することでしょう。それが生物としての知恵の使いどころだと思う。でも、人間は自分たちが生きにくくするためにばかりろくでもない知恵を使っている。「同化的に」。心も体も、敵対的にではなく同化的に使う。強弱勝敗を論じてはならないというのが、武道の一番最初の教えなんです。

<第4章 「仁義なき戦い」を鑑賞して>
内田:「鉄人28号」の28号は大戦末期に作られた最終秘密兵器。操縦している金田少年は戦後民主主義の申し子。つまり、戦後民主主義の無垢な魂が大日本帝国の軍事力を平和利用する。悪い人間が操縦すると悪をなす兵器も、心の清らかな戦後民主主義の少年が操作すると正義の力を発揮する。そういう物語なんです。それは『鉄腕アトム』も同じ。戦前仕様の兵器に、戦後民主主義のたましいがインストールされている。これは、大日本帝国の軍事力からイデオロギー色を拭い去って、武力を「中立化」したうえで、それを戦後の民主日本につなごうとする敗戦国民の「再軍備構想」を無意識的に映し出している。それは巨大ロボットが在日米軍で、それを制御する無垢な少年が日本という構図でもある。米軍という巨大な暴力を日本の美しい魂が効果的に制御することで世界に平和をもたらすという耳に快い物語でもあった。

<第5章 戦後の相貌>
鈴木:赤坂真理の指摘、三島由紀夫事件と連合赤軍事件は「内向きの暴力」であり、それは大日本帝国の玉砕と特攻を引きずったものという意見に驚いた。僕は対極に位置するものと考えていたので。

内田:さきの大戦における日本の闘い方は正規軍の闘い方じゃなった。一種のマスヒステリーですよね。中世以降、国家間の戦争は、随分とクールかつ計量的に行われてきたが、近代のある段階から、国民国家が成立してから後は非常にヒステリックなものになった。

内田:自分が深く愛していたものがあって、その愛の対象がいきなり消えてしまうと、何かそれに代わるものを必死になって探すことは誰にでもあること。(敗戦で)天皇制に依存していた人たちが今度は対米依存に切り替わった。本物のナショナリストならば、当然反基地運動を展開するはずなのに、日本のナショナリストは、中国や韓国はぼろくそに批判するのに、アメリカは批判しない。天皇制依存からアメリカ依存に「居抜き」で移行しちゃったから、アメリカを批判するロジックがない。

鈴木:すると、(日本人の)玉砕思考は戦後も続いていて、三島だとか、連合赤軍だとかと、こう姿を噴出するわけですね。

内田:今の安倍晋三もそうですよ。あの人の中にあるのは玉砕精神でしょ。あの人を駆り立てているのは、自己処罰と破滅願望じゃないですか。

安倍晋三に破滅願望があるのかどうかはよくわからない。ナショナリストであるにもかかわらず、対米自立をどうやって勝ち取ろうとしているのか、その戦略がよくわからない。世界に貢献できる一流国とは対米追随協力で国連の常任理事国入りすることなのか。独自の文化と価値観で新たな道を日本は世界に示すことができないのか、考え続けなければならない。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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映画にまつわる雑文です。
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    5、「きっと ここが帰る場所」
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    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
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2011年映画ベスト10
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