「裏庭」梨木香歩(新潮文庫)

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梨木香歩さんの本は『家守綺譚』は好きで、以前から興味のある作家だったが、湯本香樹実さんの『ポプラの秋』つながりで、なんとなく児童文学的な<冥界めぐり>の物語を続けて読んでみた。

文庫本の解説で河合隼雄さんが「すべての少女は心の中に『庭』を持っている」と書いていたが、夢想する世界ともいうべき「庭」を持つことで、人はどこか(何か)とつながることができる。

「日本ではねぇ、マーサ。家庭って、家の庭って書くんだよ。フラット暮らしの庭のない家でも、日本の家庭はそれぞれ、その名の中に庭を持っている。さしずめ、その家の主婦が庭師ってことかねぇ」

と、レイチェルという物語の舞台となるバーンズ屋敷の持ち主である姉妹の姉が日本の「家庭」を、英国にいる庭師マーサに説明する。「庭」とは日本人にとっても特別な場所なのかもしれない。

この小説は、あらゆることがセットになっている。レイチェルとレベッカ<姉と妹>、照美と純<姉と弟>、生と死、現世と冥界、前庭と裏庭、日本と西洋、男と女、過去と未来、母と娘…。現実の母親や照美の描写と照美が「裏庭」から入り込んだ幻想(冥界)世界の描写がセットで展開される小説だ。このあたりは村上春樹のパラレルワールドとも似たような構成だ。

「裏庭」での幻想物語のなかの住人コロウブは双子のセットで生まれ、片子(かたこ)は忌み嫌われる特別な存在だ。誰もがセットであり、そのセットの失われた相方を探し求めているようだ。そして、冥界に行ってしまった失われた<片割れ>のことを「傷」として思い続ける。それは愛情を注ぐことができなかった母と娘の関係もまた同じだ。果たせなかった思い=傷。泣くことすらできなかった哀しみ。心の奥底に閉じ込めていた思い。その傷を受け入れ、育てながら、克服し、成長していく物語。

親の愛を感じることができず、孤独な少女の照美が裏庭に鏡を通じて入り込み、<冥界めぐりの冒険>を繰り広げるこの物語は、誰もが身近な死を受け入れ、忘れたふりをしていた傷を自覚し、自らの「庭」の中でその「傷」を育て、「職=役割」を見つけるまでの成長譚でもある。照美は「裏庭」の物語の中で、死んだレベッカとつながり、祖母とつながる。現在と過去が裏庭を通じてつながり、祖母と孫がつながり、孫は母の傷を受け入れられるようになる。

「真実が、確実な一つのものではないということは、真実の価値を少しも損ないはしない。もし、真実が一つしかないとしたら、この世界が、こんなに変容することもないだろう。変容するこの世界の中で、わしらはただわしらの仕事をもくもくと続けるだけじゃ。それがわしらの『職』なのだから。変容する世界に文句をつけるより、その世界で生きることをわしらは選ぶよ」

と「裏庭」の世界の中で、貸衣装屋のソレデはテルミィ(照美)に言う。

変容し続けるこの世界の中で、どんな「庭」を持ち、育て、どんな「職(役割)」を見つけられるかが、人生なのかもしれない。誰もが「庭」(=物語)を持ち、その「庭」を誰かと共有することで、つながりが喜びにつながっていくのだろう。

「家守綺譚」 レビュー
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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