「消えた声が、その名を呼ぶ」ファティ・アキン

xkietakoegasononawoyobu-e1447949561698_jpg_pagespeed_ic_igvQPEVBrN.jpg

タイトルがなんだかネタバレみたいな感じ。ラストシーンはこのまんまなんです。声を奪われた少数民族の男の悲痛な運命の旅です。原題は「THE CUT」。男は喉をナイフで切られ、声を失った。CUTとは、そのナイフのことか。ナイフとは理不尽な暴力そのものである。

『愛より強く』(ベルリン国際映画祭金熊賞)、『そして、私たちは愛に帰る』(カンヌ国際映画祭脚本賞)のドイツのファティ・アキン監督の新作。僕は個人的には『ソウルキッチン』が好きなんです。

公式HPのよると

ファティ・アキン監督は、本作について「良心の探究をテーマにしている」と語り、『愛より強く』、『そして、私たちは愛に帰る』に続く「愛、死、悪に関する三部作」の最終章、<悪>として位置づけている。

悪とは、100年前、オスマン・トルコ国内で起こったアルメニア人虐殺のことである。その犠牲者数は100万人とも150万人とも言われ、ヒトラーがユダヤ人虐殺の手本にしたとも言われている。オスマン帝国の忌まわしくも悪しき歴史。少数民族であるアルメニア人の虐殺を、トルコを出自とするファティ・アキン監督が作ったことに大きな意味がある。

「消えた声」とは、何も物言えぬままに虐殺されたアルメニア人の存在そのものである。少数民族のアルメニア人であるという理由だけで、家族は引き裂かれ、強制労働をさせられ、ナイフで喉を切り裂かれ、殺され、女性や子供たちも次々と餓死や病気で死んでいった。

映画はある家族の父親と双子の娘たちの物語である。双子の娘を学校に迎えに行った鍛冶職人の父親。その帰り道、3人は空を飛ぶ鶴を見る。「あの鳥を見たものは、長い長い旅をする」。そう言われているのだと父は娘たちに語る。「3人で旅をするのかもしれないね」と楽しそうに語らう。そして、その夜、突然アルメニア人の男たちが、トルコ軍に連れ去られ、砂漠での強制労働が始まるのだ。哀しき運命の旅。バラバラにされる家族。女性や子供たちも砂漠に連れ去られ、次々と死んでいくのだ。トルコ軍がイギリス軍に敗北し、やっとアルメニア人も自由の身となる。愛する妻や親戚家族を失った男は、まだ双子の娘たちだけは生きているという情報を得る。そして、娘たちを探す男の旅が始まるのだ。レバノン、キューバ、フロリダ、そしてはるか北アメリカのノースダコタ。地球の裏側まで、船に乗って娘を探して旅をするのだが、なかなか会えない。各地で様々な困難が待ち受けている。そして、「消えたかすれた声で、その名を呼ぶ」せつないラストシーンがあるのだ・・・。

その娘がいる村に行く前、男は空を飛ぶ鳥たちの群れを見る。あの鶴を3人で見たときのように。
なぜ、少数民族は移動をさせられるのか。移民、難民の哀しき歴史。貧しく、迫害され、平和に暮らせない人々は、国境を越え、安住の地を求めて、旅をするしかない。この映画は、そんな民族の哀しみの旅を、ある男と娘の運命を通じて描いている。愛しき妻が寝る前に唄っていたアルメニア人の歌がまたせつない。

「愛より強く」レビュー
「そして、私たちは愛に帰る」レビュー
「ソウル・キッチン」レビュー

原題:The Cut
製作年:2014年
製作国:ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・ポーランド・カナダ・トルコ・ヨルダン合作
配給:ビターズ・エンド
上映時間:138分
監督:ファティ・アキン
製作:ファティ・アキン,カール・バウムガルトナー,ラインハルト・ブルンディヒ
脚本:ファティ・アキン,マーディク・マーティン
撮影:ライナー・クラウスマン
美術:アラン・スタルスキ
編集:アンドリュー・バード
音楽:アレクサンダー・ハッケ
キャスト:タハール・ラヒム、シモン・アブカリアン、マクラム・J・フーリ、モーリッツ・ブライブトロイ、トリーネ・ディアホルム、アルシネ・カンジアン
ケボルク・マリキャン
アキン・ガジ

☆☆☆☆4
(キ)


スポンサーサイト

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 歴史 ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
210位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
98位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター