「無伴奏」矢崎仁司

無伴奏

なんと書けばいいのだろう。あの時代・・・1969年から1970年代、仙台の名曲喫茶「無伴奏」での出会いから始まるこの若者たちの青春物語。なんだか恥ずかしくなるような微妙な映画だった。青春って、そもそも恥ずかしい。カッコいいものでもステキなものでもない。自意識過剰で、強がって尖がって、攻撃的で、不安で、どうしていいのかわからなくて、自分を持て余している時代。そんな恥かしさに溢れている微妙な映画だ。

1969年、私はまだ小学生だった。私が10代の終りの青春時代(1970年代後半)になると、学生運動は内ゲバの果てに沈静化に向かい、それでもまだ70年代前後の残り香が漂っていた。まさにあの時代から遅れた世代であった。それぐらいあの時代は強烈な力を放ち、後の時代に影響を与えた。政治運動だけではなく、演劇も映画も音楽も文学も美術も、あらゆる文化・芸術活動は70年代前後のカウンタカルチャーの影響を受けていた。だから、この時代への嫉妬にも似た憧れや思いは、私の中にも強くある。

だからこの時代を描いたものには興味があるが、何を見てもどうもしっくりこない。当時の大島渚の『新宿泥棒日記』や『日本春歌考』や若松孝ニの『天使の恍惚』などの諸作品に当時の空気を感じることが出来る。だが、あとからあの時代を再現した作品、『マイ・バック・ページ』(川本三郎の自伝的原作)や『ノルウェイの森』などがあるが、少し滑稽で不自然な感じにどうしてもなってしまう。映画というものは、細部が映りこんでしまうので、なかなか中途半端な時代の再現は難しい。そして、この『無伴奏』は、真っ向からあの時代の空気を伝えようとしている。

恥ずかしくて、いたたまれないあのとき。誰もが経験する若かりし頃の悩み、自意識と将来への不安と愛と性と死への誘惑。そんな青春期特有の青臭さ。あの時代は、政治的意識が高まり、「革命」「反体制」を叫んで背伸びする若者たちが多くいた。しかし、実際にはマルクスも資本論も吉本隆明もよくわからない。ある種のブームに乗っているだけのような周辺の若者たち。原作者の小池真理子もそんな一人だったのだろう。その幼稚さがなんとも青臭い。

この映画の冒頭で、野間響子(成海璃子)が高校の教室で制服を脱ぎながら宣言する「制服廃止闘争委員会」なる運動も、時代の空気に乗っかっただけの高校生たちのマネっこ。闘争は、いつしか愛とセックスへと興味は移り、密室的な世界へと溺れていく。
それにしても池松壮亮というなんだかハッキリしない役者は、こういう受け身の愛を演じる役が多い。『愛の渦』、『海を感じる時』、『紙の月』。成海璃子は体当たりで頑張っている。そしてあの時代の「蕾のような硬さ」もうまく演じている。色気満点の男優、斎藤工もハマり役といえよう。

パッヘルベルの「カノン」が何度も流れるなか、名曲喫茶でそれぞれが物思いにふけっている4人の顔アップのパン。物憂げな自意識。タバコをふかすシーンがやたらと多い。『MOZU』という映画も、西島秀俊のタバコシーンが多すぎてゲンナリしたが、この映画も手持ち無沙汰になるとすぐタバコを吸う。確かにそんな感じだったのかもしれないが、あまりにもそのシーンが多いと演出放棄のようにも思えてくる。それに名曲喫茶でお喋りするシーンも違和感があった。名曲喫茶は、音楽を聴きながら一人一人が本を読んだりしながら、自己と向き合う場所だ。会話をする場所ではない。

そして、あの時代は<自殺=死>が大きなテーマとして身近にあった。その行き詰まり感は現代にも通じるのかもしれない。政治、恋愛、人間関係の行き詰まり、それは未来への不安と閉塞感でもあったのだろう。しかし、その描かれ方もなんだか幼稚に思え、甘えた内向にしか見えない。

ラスト、野間響子は東京に旅立つ前に名曲喫茶「無伴奏」に立ち寄る。パッヘルベルの「カノン」が流れ、彼女が店を後にすると、その店にさっきまでいたはずの客が誰もいなくなる。無人の空間としての名曲喫茶が、時代を象徴する「場所」になる。

当時を意識した衣裳などは楽しめた。


製作年:2015年
製作国:日本
配給:アークエンタテインメント
上映時間:132分
監督:矢崎仁司
原作:小池真理子
脚本:武田知愛、朝西真砂
製作:重村博文、川村英己、西田宣善
プロデューサー:登山里紗。山口幸彦、楠智晴
撮影:石井勲
照明:大坂章夫
録音:吉田憲義
美術:井上心平
編集:目見田健
音楽:田中拓人
主題歌:Drop's
キャスト:成海璃子、池松壮亮、斎藤工、遠藤新菜、松本若菜、酒井波湖、仁村紗和、斉藤とも子、藤田朋子、光石研

☆☆☆3
(ム)
スポンサーサイト

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 青春 ☆☆☆3

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
194位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
86位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター