「ディストラクション・ベイビーズ」真利子哲也

ディストラクション

インディーズで注目され話題だった若き映画監督、真利子哲也の映画を初めて観た。彼の初の商業映画は、台詞が極度に少ない殴り合いの映画だった。

若者たちの青春群像には暴力はつきものだ。昔から様々な若者たちのやり場のない暴力が描かれてきた。この作品もまたその系列に連なるものだ。『理由なき反抗』『タクシードライバー』『時計仕掛けのオレンジ』『トレインスポッティング』『ファイトクラブ』、北野武映画、クエンティン・タランティーノ映画・・・数え上げたらキリがない。若者たちを描くうえで、恋と性と暴力は欠かせないものとしてある。時には社会への反発や苛立ち、あるいは時代の閉塞感、または友との葛藤や学校のいじめ、組織的対立や抗争、権力への抵抗、あるいは性的暴力や心理的トラウマなどなど、暴力の背景には様々な要因が描かれてきた。そんな中にあって、この作品は徹底して暴力そのものをシンプルに描いている。

逆に言うと、全く暴力の背景が描かれていない。なぜ彼が暴力をふるうのか?それがまったく分からない。つまり、暴力を生み出す背景、心理的要因、社会的鬱屈感や親や友人関係など葛藤すら描かれない。柳楽優弥演じる芦原泰良という少年は、両親が早くにいなくなり、近所のオヤジ(でんでん)に育てられ、弟と二人、親族は兄弟だけの境遇のようだ。冒頭、近くの友人たちとの喧嘩が描かれるが、そんな友人たちと確執があったのか、オジサンとの葛藤はあったのか、そんな環境が、彼を暴力に向かわせたのか・・・、それさえもよくわからない。少年は、そのオヤジに愛想をつかされ、一人繁華街をうろつきつつ、片っ端から殴りかかる。そしてメチャクチャ殴られつつも、殴り続ける。台詞もほとんどないままに、殴られ殴り続ける映像が延々と続くのだ。観客は、なぜ彼が殴りかかるのか、殴られても殴られても殴りかかるのか、全くわからない。だから、当然感情移入も出来ない。まるで狂犬だ。殴ることしかできないかのようだ。その暴力のしつこさが不気味だ。

弟はそんな粗暴な兄を慕っているようで、いなくなった兄を探す。柳楽優弥が唯一心を通わせている存在があるとすれば、弟(村上虹郎)の存在だけなんだろう。しかし、映画の中では兄弟は一度も出会えず、会話は描かれない。喧嘩しつづける中で、喧嘩に弱いが強いものに憧れ、何か面白いことがやりたい少年(菅田将暉)と出会う。出会うと言っても、一方的に菅田将暉が、喧嘩に強い柳楽優弥を利用して、ゲームのように暴れまわって面白がるだけなのだが、次第にその暴力はエスカレートし、女の子への無差別暴力も含めた事件へと発展する。

車を強奪する際に乗り合わせたキャバ嬢の小松菜奈も巻き込んでの車での逃走と暴力の旅。一般人への無差別暴力事件としてマスコミにも取り上げられ、ネットでも騒がれる中、警察に捕まったらゲームオーバーだと菅田将暉は騒ぎ出す。そんな車の中の3人の関係が面白い。この3人の展開がもう少しあっても面白かったのにと思うのだ。菅田将暉が小松菜奈へと性的に迫る場面もなぜか中途半端でしっかりと描かれない。女性を殴りたかったという菅田将暉の性暴力はしっかり描くべきだと思ったが、役者への配慮なのか、残念だった。暴力にしか興味のない柳楽優弥は、車の中でも最後まで変わらない。小松菜奈の暴走と菅田将暉にキレるあたりは面白かったのに、そこから先は描かれず、あっさりと終わってしまう。菅田将暉の柳楽優弥に対する一方的な思いは描かれるが、柳楽優弥は菅田将暉の存在を全く認めない。その二人の関係、そして小松菜奈も含めた三人の関係の変化をもう少し描いても良かったのではないか。

ラストの地元の神輿のケンカ祭りが描かれる。祭りの中の暴力性を描くことで、暴力を一般化したようでつまらなかった。弟に連なる暴力性。暴力そのもの、その得体の知れなさが、あの祭りで普遍化されることで、かえって不気味さがなくなる。柳楽優弥の暴力性とは一体なんだったのか?その得体の知れなさ、不気味さを際立たせるべきではなかったか。最後まで心は閉ざしたままでも、三人の関係の中で彼の暴力性を終わらせた方が面白かったように思うのだが・・・。

宮藤官九郎脚本の日テレドラマ『ゆとりですがなにか』で、久々に登場した柳楽優弥は、なかなか面白いチンピラを演じていて存在感を発揮している。この映画もまた柳楽優弥の存在感が映画を支えている。柳楽優弥の鈍重さと菅田将暉の軽さが、もう少し絡まりあうともっと面白い映画になったと思う。

そしてなんといっても、ロックなギター、向井秀徳の音楽も効果的だったことも忘れてはならない。

製作年:2016年
製作国:日本
配給:東京テアトル
上映時間:108分
監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也、喜安浩平
撮影:佐々木靖之
録音:高田伸也
美術:岩本浩典
音楽:向井秀徳
キャスト:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、三浦誠己、でんでん

☆☆☆☆4
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