「レネットとミラベル 四つの冒険」エリック・ロメール

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エリック・ロメールの映画を映画館で観ることができる幸せを味わうために、東京でちょっとした時間が出来たので、エリック・ロメール監督特集上映『ロメールと女たち』をやっている映画館に駆け込む。

ロメール映画といえば、女の子たちである。等身大の女の子たちをずーっと撮りつづけてきた監督である。その女の子たちの恋や人生のちょっとした悩み、あるいはバカンスでのひととき。それは同じ映画といってもいいのかもしれない。それぐらいロメールの映画には特徴がある。それは日本の「家族」を撮りつづけた小津映画の様式性にも通じる。

フランス映画らしい会話がまずある。女の子たちの会話=ダイアローグは、時に理屈っぽく言い争いになったり、自意識過剰だったり、未来への不安だったり、こだわりだったり、ささやかな衝突が繰り返される。それを決して大袈裟な劇的な展開にしない。自然光を生かしたナチュラルな光、ゆったりと人物を風景とともに収めるカメラ。特別なカット割りや刺激的な映像はない。それでいて、光は美しく、画面は色を意識した衣裳や小道具でバランスが良く、幸福に満ちており、ときにエロティックであったりもする。さらに音の使い方もまた独特である。

この映画では、夜と朝の間の奇跡のような静寂な1分間<青い時間>とミラベルが呼ぶ瞬間のことが語られる。蛙やフクロウの鳴き声がやみ、朝を告げるニワトリや鳥たちが鳴き始める前の<夜と朝の間>の一瞬の静寂。それは自然(世界)が息継ぎして、一瞬息を止めたような瞬間、その美しき静寂に少女ミラベルはこだわる。その静寂を破る無粋なバイクの音が<青い時間>を台無しにしたとき、その瞬間をレネットに聴かせられなかったことで、ミラベルは泣き出してしまう。それは、『緑の光線』と同じようなロメールにとっての自然の美しき奇跡なのだろう。

物語は、自然とともに郊外に暮らす絵を描いている繊細な女の子ミラベルとパリに住む現代っ子レネットの交流である。レネットは両親の別荘にやって来た時に、ミラベルと出会い、自然がいっぱいの光と音の中で二人は過ごす。そして絵のデッサンの勉強のためパリに出てきたミラベルは、レネットとルームシェアをして一緒に暮らす。田舎はすべてが調和しているような静けさがあるのに比べて、パリでは諍いや事件が度々起こる。ミラベルがパリで道を聞くと、行き方をめぐってのケンカが始まり、カフェのギャルソンは小銭を持っていないミラベルを責め立て、態度が横柄でトラブルになる。一方、正義感の強いミラベルは、物乞いに小銭をあげないレネットを責めたてたりもする。あるときレネットは、スーパーの窃盗犯を偶然目撃して、思わず助けてしまう。それをミラベルは「理解できない」とレネットとの間で言い争いが始まる。そんなミラベルも駅で「バッグを失くして困っているからお金をください」という女性にお金を渡して、それが嘘だとわかると、返してくれと詰め寄る。田舎者で正義感が強く融通の利かない頑固者ミラベルと、都会的な世俗に慣れ刺激を求める現代っ子レネット。全く性格が違う二人がパリでぶつかり合う。最後のエピソードは、家賃を払えなくなったミラベルが自分の絵を売りに行く話。ちょっとしたことで喧嘩になって、「明日は一言も話さない」と宣言したミラベルは、絵を売りに行くことになって聾唖者に扮して画廊に行き、それをレネットが助けるというものだ。

ここに描かれているのはささやかな諍いだ。性格の違う二人の女の子が、嘘と見栄と自意識がぶつかり合う。パリという都会では、個人はより個人的になり、互いの違いを意識し合う。美しき自然の中では、同じように耳を澄ませて感じあえたのに。そんな些細な変化を丁寧に掬い取るのがロメール映画なんだと思う。


原題:Quatre aventures de Reinette et Mirabelle
製作年:1986年
製作国:フランス
配給:シネセゾン
上映時間:99分
監督:エリック・ロメール
脚本:エリック・ロメール
撮影:ソフィー・マンティニュー
編集:マリア・ルイサ・ガルシア
音楽:ロナン・ジレジャン=ルイ・バレロ
キャスト:ジョエル・ミケル、ジェシカ・フォルド、フィリップ・ロダンバッシュ、マリー・リビエール、ベアトリス・ロマン、ファブリス・ルキーニ

☆☆☆☆☆5
(レ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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