「クリーピー 偽りの隣人」黒沢清

クリーピー


黒沢清は、こういう血もゾンビも出てこないけれど、ゾクゾクする不気味なコワい映画が本当に巧い。激しいことは起こらないけれど、日常にさりげなく忍び込んでくる不気味な空気を描き出すのが得意なのだ。

この作品では、不気味な隣人が住む西野(香川照之)の家が不在で、竹内結子が帰った後に映し出される庭の植物たちが揺れる風、あるいは竹内結子の心が乱れていくときの室内の白いカーテンの揺れ。さらには照明(光)の変化(西島秀俊が勤める大学の事務室で、川口春菜が過去の事件を証言する場面で照明が微妙に変化する)、あるいは映像の突然の変化、ドローンを使ったカメラが上昇する家の俯瞰、あるいは香川照之と竹内裕子が接近するタイトな2ショット。またはエキストラが異様に多かったり(大学の事務室の窓外の学生たち)、電車の中の子供たちの歓声や動き。さらには役者の配置。香川照之の娘だと思っていた澪(藤野涼子)が、「あの人、お父さんじゃありません」と西島秀俊に告白する場面の最初の後ろ姿。香川と竹内のガード下の逆光を使った身体の重なりと接触などなど、奇妙で不気味で不自然なカットがあちこちにあるのだ。最後の西野(香川照之)ともども高倉家族(西島・竹内・犬のマックス)が引っ越しする場面の車の中のSF映画のような不自然なスタジオ映像。さらに西野家の家の中の妖しげな空間。古びた廊下や監禁される倉庫のようなセットや数々の不気味な装飾や小道具。死体を真空パックする妙な装置もある。

隣人である香川照之が最初から怪しい男だとわかっていながら、なぜだか怖いサスペンスになっている。それは香川照之の独特の存在感や緩急のある変幻自在の演技によるところも大きいのだが、やはり黒沢清の映像感覚の不気味さ、演出が見事だ。

やや強引でもの足りないと思われたのは、竹内結子の変化への予兆だ。引っ越して新しくやり直そうとする夫婦のちょっとした隙間に忍び込んでくる西野(香川)の不気味さ、マインドコントロールする能力や薬の注射などがあったとしても、やはりあそこまで妻が西野に取り込まれてしまう彼女の変化に無理を感じた。感じが悪くて不気味な男だと思っていた隣人に、心をほどき、マインドコントロールされるとはどういうことなのか?娘と思われた澪の存在があるにしても、急接近して(「俺とご主人とどっちが魅力的か?」など聞くあたりから)の展開はあえて描いていない。いつの間にか彼女は西野に取り込まれ、薬も打たれている。その変化をあえて省略したのだろうが、飛躍にやや強引さを感じた。

日野市の未解決事件の家と西野(香川照之)が住む家のちょっと奥まった配置にある不自然な構造の相似形がそのまま事件の相似にとつながる。最後の引っ越し先で香川が双眼鏡で物色するのも、やはり不自然に奥まった配置にある家なのだ。日常に潜むちょっとした歪んだ空間にこそに、恐怖の源泉を見い出す黒沢清の空間感覚が見事に表れている。


製作年 2016年
製作国 日本
配給 松竹、アスミック・エース
上映時間 130分
監督:黒沢清
原作:前川裕
脚本:黒沢清、池田千尋
製作総指揮:大角正
エグゼクティブプロデューサー:黒田康太
プロデューサー:深澤宏、住田節子、赤城聡、石田聡子
撮影:芦澤明子
美術:安宅紀史
照明:永田英則
音楽:羽深由理
キャスト:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之、藤野涼子、戸田昌宏、馬場徹、最所美咲、笹野高史

☆☆☆☆☆5
(ク)
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ジャンル : 映画

tag : サスペンス ☆☆☆☆☆5

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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