「恋恋風塵」ホウ・シャオシェン(候孝賢)

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ホウ・シャオシェン(候孝賢)の傑作『恋恋風塵』をやっとデジタル・リマスター版で映画館で観た。台湾に地方都市、十分に住む若い男女のみずみずしい青春物語。カメラは地方都市の豊かな自然と都会の台北に働きに出てきた青年と少女の姿を寄り添うように見つめ続ける。決してドラマチックな展開があるわけではなく、様々な思いを抱えながら生きていく姿を淡々と描き続けるのだ。カメラは神の視点から二人を描写するのではない。モノローグのように、あくまでも彼らのそばにいるかのように、撮りつづける。だから、男の子ワンの姿と一方で女の子ホンは・・・というような同時進行でそれぞれを描くやり方はしない。描写は時に省略され、時間は飛躍する。だから、ストーリーが分かりにくかったりする。あくまでも観客の方で、描かれなかった部分は想像しながら見ることを要求されるのだ。カメラの長回しも多く、それだけに画面の隅々から伝わってくる映画的想像性が豊かであり、映画は物語を語るためにあるのではなく、そこに生きている人物を空間そのものとして捉えるものであり、そんな映画的魅力に満ちている。

たとえば、台北でワンの仕事のバイクを盗まれたあとの顛末(賠償金のことなど)は詳しく描かれず、列車の二人とホームでの別れる場面、一人故郷の十分に帰るホンと故郷に帰らず海辺でボーっとしているワンが描かれるだけだ。重要な場面である映画の後半、ワンの兵役で別れ別れになった二人も同時には描かない。台北に残された女の子ホンがワンのことをどう思い、何があって、郵便配達人の男と結婚することになったかは一切描かれないのだ。ホンからの手紙を待ち、兵役仲間たちの誘いを断り、遊びにも行かない兵役中のワンの孤独のみが描写される。だからこそ、フラれたワンの哀しみが観客の心に沁み、ラストの故郷の十分の美しき風景が感動的なのだ。

そして、なんといっても風景や空間を捉えるカメラが素晴らしい。冒頭のトンネルの闇と光、青々とした山々の豊かな緑と風、そして電車内の若い二人、さらに駅を降りて線路沿いを歩く十分の田舎の風景、野外映画のスクリーン、夕景の山々と田舎の集落など・・・幼なじみの二人を描写する素晴らしいオープニンゲである。また、都会の台北と故郷の十分とを繋ぐ列車、駅が効果的に何度も描かれる。二人が台北の駅で再会する場面で、故郷からのお土産をホンが盗られそうになり、ワンが取り返す長いロングショット、駅のホームでの何度かの別れのシーン等々。駅のホームと列車は、二人の空間的な距離と接近を効果的に描いている。さらに映画館の看板が描かれている2階や、ホンが勤めている裁縫所の覗き窓のような階段のある外の世界との接点、ホンが働く印刷工場にしても配達所にしても、故郷の家々にしても、常に空間は外とつながっており、その境界に人物がいることが多い。密室の空間は兵役中のワンの描写ぐらいで、いつも二人は外の世界=街とともにいる。空間はいつも開かれているため、町の空気や賑わい、あるいは故郷の豊かな自然がいつも画面から伝わってくるのだ。この時代は、田舎も都会も空間は個別の密室ではなく、外に開かれていた。だからこそ人と人との風通しが良かったのかもしれない。そんなふうにも思えた。

そして光と影が美しい。二年目の夏、二人でお盆の時期に故郷に帰った時の野外映画上映会、そしてホンが手作りしたシャツをワンが着て、少し大きいと言う恋人たちの心が交錯する場面の光と影の美しさ。戸外と室内との接点である空間を描くことで、つねに光と影が効果的に描かれている。1950年代~60年代頃の日本の田舎と都会のような懐かしき風景がここ台湾にある。これはどこの国や地域でも通過した懐かしき時代であり、そんな時代の男の子と女の子の普遍的な姿なのだ。だからこそ、誰にでも懐かしく感じるし、共感できるのだろう。

ラストのじいさんの言葉、今年は台風のためにイモが不作だと、ただただ山々を見上げながら嘆いている。どうしようもないものはどうしようもないのだ・・・と孫に語りかける言葉はとても優しい。


原題 戀戀風塵 Dust in the Wind
製作年 1987年
製作国 台湾
配給 熱帯美術館
日本初公開 1989年11月11日
監督:ホウ・シャオシェン
脚本:ウー・ニェンツェン、チュー・ティエンウェン
撮影:リー・ピンビン
美術:リュウ・チーホァ
音楽:チェン・ミンジャン
キャスト:ワン・ジンウェン、シン・シューフェン、リー・ティエンルー、チェン・シュウファン、リン・ヤン、メイ・ファン

☆☆☆☆☆5
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
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