「葛城事件」赤堀雅秋

210479.jpg

救いのない映画である。家庭崩壊からの死。暴力的父権性の圧力。比較される兄弟。優秀な兄への弟のコンプレックス。優等生を演じながらも何も本心を語れなくなった兄。ただただ傍観するばかりで何もできない母。引きこもりの弟を甘やかすだけで、弟の孫への暴力さえ止めることができない。マイホームを建てたころの幸せのそうな家族の回想場面がある。友人たちを呼んでのパーティー、庭に植えたみかんの木のエピソード。子供たちの成長とささやかな幸せを父親も願っていただけなのに、何が狂ってしまったのか。

映画は引きこもりの弟がすでに犯罪を犯してしまった後からスタートしており、家の落書きなど世間の非難の暴力に耐える父親が描かれる。一度攻撃対象になってからのバッシングの嵐は、今の時代の特徴でもある。そして、死刑を宣告された犯罪者である弟と結婚しようとする死刑反対論者の女性(田中麗奈)が現れ、物語に風を起こす。ろくに知りもしない死刑囚と結婚しようとする奇妙な女、死刑反対にための正義ズラした偽善者を赤堀監督は設定した。この女が敗残者でしかない父親、三浦友和に弟(若葉竜也)のことを知ろうとしつこく付きまとう。異常な事件が起きた後の異常な事態に異常な女が現れるのだ。

暴力的で専制的な父親を演じる三浦友和がいい。長年家族で通っている中華料理店で「味が変わった。支配人を呼んで来い」と文句をつける男。「お父さんもういいよ」となだめる長男(新井浩文)の言うことなどまるで聞かない。困り果てる長男の嫁家族。母親の南果歩はおろおろするばかり。なぜ好きでもないこの男とここまで来てしまったのかと呆然とする。そして少しづつ狂っていく。リストラされても妻に何も言えない長男。次男と家を出る母。そして長男の自殺・・・。物語を説明すると、本当に救いがない。見ていてつらくなる場面ばかりだ。

赤堀雅秋監督は、演劇畑の人であるが、容赦なく人間の弱さや悪、暴力、毒を描き続ける。その歪んだ姿にどこか共感してしまうのは、それだけリアリティがあるからだろう。ちょっとしたズレが膨らんでいって、どうしようもない溝や不信感やコンプレックスや悪意、憎悪に変わっていってしまう恐ろしさ。それはちょっと間違えば、誰にでもある姿であるし、どこにでもいる家族なのかもしれないと思う。

赤堀監督は、前作『その夜の侍』が面白かったので、これも観た。父の不在が言われて久しい現代だが、あえて父権性の暴力を描いたところにどんな意図があったのか。時代を超えて内向きな暴力はどこでもある。三浦友和がなぜ内向きな暴力へと向かっていたのか、説明する必要もないのだろうが、やや描き方に物足りなさを感じた。


 
製作年:2016年
製作国:日本
配給:ファントム・フィルム
上映時間;120分
監督:赤堀雅秋
原案:赤堀雅秋
脚本:赤堀雅秋
エグゼクティブプロデューサー:小西啓介
プロデューサー:藤村恵子
撮影:月永雄太
照明:藤井勇
美術:林千奈
音楽:窪田ミナ
キャスト:三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈

☆☆☆☆4
(カ)

スポンサーサイト

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
園子温
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
244位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
116位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2016年
2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター