「断食芸人」足立正生

まったくの期待はずれ。1回だけの上映なのでわざわざ時間を作って観に行ったのだが、残念ながらアナクロ時代錯誤なアングラ映画でしかなかった。足立正生という人物を過大評価していたのかもしれない。

足立正生とは、1960年代、若松孝二と行動をともにし、アングラの旗手として注目され、若松プロでは『胎児が密猟する時』、『犯された白衣』、『天使の恍惚』などの数々の作品の脚本を書き、大島渚の『絞死刑』に出演、『新宿泥棒日記』脚本ほか、自ら『女学生ゲリラ』、永山則夫の『略称・連続射殺魔』などを監督したたが、次第に政治運動に身を投じていった。1971年にはパレスチナに渡り、日本赤軍と合流し、国際指名手配された。赤軍ゲリラと共闘し、彼らの日常を撮った『赤軍-PFLP 世界戦争宣言』を監督。そして、1997年、レバノンで逮捕され、3年間の禁固刑を経て、日本に強制送還された。2007年、田口トモロヲ主演の『幽閉者 テロリスト』(未見)を監督し、以来9年ぶりの新作だ。

僕にとっても足立正生は1960年代の伝説の人でしかなかった。そんな足立正生が今、カフカ原作でどんな映画を撮るのかとても興味があったのだ。しかし、長い間パレスチナ解放闘争で政治運動に没入していた足立は、今の文化的時代感覚から大きくズレたままだった。かつてのアングラ演劇のような道具立てを学芸会のように見せて、哲学的な問題を語ろうとする。それらは空疎な映像でしかなく、とても心に響いてこない。

東日本大震災の津波や爆発する福島第一原発の映像などを冒頭に流し、その後の現在で何を描けるのかという問いを立てる。シャルリー・エブドもイスラム国も出てくれば、「国境なき医師団」をもじった「国境を守る医師団」も登場し、時代を皮肉る精神は健在だ。SNSの拡散やヒステリックなメディアの物語の単純化なども描かれる。

何も語らぬまま断食をする男を描くことで、いったい何を表現しようとしていたのか。断食男を興行として利用し、芸人に仕立て上げ、右翼たちが檻に閉じ込める。メディアやSNSで人々は勝手な物語を仕立てあげ、「ハンガーストライキ?」「何かの抗議活動?」「売名行為だ」など、さまざまな憶測が飛び交う。自傷癖のある自殺志願者たちや断食による宗教的奇跡を見ようと坊さんも集まってくる。何も語らぬ静かな男と騒がしい世間の人々。SM嬢の女医や白装束の死のう団など、まるで60年代のアングラ演劇。カフカ的不条理な設定ながら、それがちっとも面白くないのだ。ラストの断食芸人の最後の一言やその行為もまったく陳腐である。何を言っても空疎な響きでしかない時代の沈黙。「囚われた自由」の時代のなかで、我々は何をしようとしているのかを問う映画なのだろう。最後に自傷癖の少女のアートだけが残される。だけど、映画に何も魅力を感じられず、ただただ疲れた。

音楽は大友良英。とぼけたコミカルな淡々とした音楽は何も語らない断食男をうまく表現していた。それにしても大友良英さんは、いろんな人とつながっているのだなぁ。詩人の吉増剛造が出てくる。


製作年 2015年
製作国 日本
配給 太秦
上映時間 104分
監督:足立正生
原作:フランツ・カフカ
企画・脚本:足立正生
プロデューサー:小野沢稔彦、古川嘉久、坂口一直、大高彰
撮影:山崎裕
美術:黒川通利
照明:山本浩資
音楽:大友良英
ナレーション:田口トモロヲ
スチール:荒木経惟
キャスト:山本浩司、桜井大造、流山児祥、本多章一、伊藤弘子、愛奏、岩間天嗣、井端珠里、宇部田宇観、和田周、川本三吉、吉増剛造

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