「君の名は。」 新海誠

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この映画がなぜこれほどまでに流行っているのか?それを確かめるために観てみた。震災後の物語という意味では、『シン・ゴジラ』と同じだ。「消えてしまった村」とはまさに3.11震災そのものだ。立ち入り禁止の柵と看板。そういう災害が一瞬にして起こりうる時代に我々は生きている。その時代感覚は、誰もが共有しているものだろう。いつまでも、今の時代の繁栄が続くとも思えないし、何が起きるか分からない不安をいつも抱えている。だからこそ、今この瞬間こそ愛おしい。

そしてもう一つは純愛ファンタジーという側面。男女の身体を入れ替わり物語は、大林宣彦が『転校生』という映画で実写で描いた世界だ。思春期特有の男性にも女性にもなりきれない時期。その性的未熟さこそ、今の若い男女に受けるのかもしれない。この映画でもっとも身体的(性的)なものを感じるシーンは、朝起きた時、女の子になった瀧が、自分の胸を触る場面だ。それと、「口噛み酒」の間接キスぐらいか。この二人は直接は出会わない。徹底したプラトニック・ラブだ。すれ違い、なかなか出会えないことが、純愛ドラマの基本だが、今の時代は出会えないことがなかなか設定できない。ケータイでいつでも繋がれる時代だ。だから、SF的時間のズレによって、この映画は出会えない純愛を描いた。運命の片割れという古くから何度も語られているテーマを。

都市と地方が交互に描かれるというのもこの映画の特徴だ。美しき自然と古くからある日本の文化を描いた地方。自然と神道的アニミズム。巫女と神的世界との交流やお供え。そして組み紐に象徴される「結び」や「つながり」。そして都市の美しさも十分に描かれている。電車や駅周辺や歩道橋や階段、そして、ビルや雨に濡れたアスファルト、空。そして天空の星空。情緒豊かに都市も描かれている。都市も地方も、学校も家庭も、日本的美しさに満ちているその心地よさ。

印象的だったのは、電車の扉や引き戸のローアングルのクローズアップだ。場面を転換する場面でよく使っていた。都市と地方、二人の空間を断ち切る意味で多用したのか。つながりかけた時間や運命は、しばしば断ち切られる。

いうまでもなくこれは夢のお告げの話でもある。夢で出会う人。時空を超えて夢でつながること。夢は現実を超えて、何かを起こす。意識を超えた無意識のつながり。それこそ前世の記憶なのか。運命のつながり。

ただ、どうしてもこの映画で納得のいかないところがある。それは、夢のお告げによって死者を甦らせてしまうことだ。夢が死の世界とつながるのはいい。しかし、起きてしまった過去を変えてしまうというのは、掟破りなのではないか。起きてしまったことは、なかったことにはできない。死者と再び会いたいという思いは誰もが抱える夢想だが、それをSFファンタジーという枠組みで、過去を変えてしまい、なかったことにする・・・。これでは、死者の哀しみも痛みも伝わらない。ファンタジーで時間をさかのぼって、現実をやり直す・・・。都合良すぎのファンタジーではないだろうか。それに人々は感動できたのか。私には、死者を冒涜しているようにさえ思える。自分の力ではどうにもならないことが、人生にはある。そのどうにもならない哀しみや無力感を抱えつつ、人は生きていかなければならない。それを描かなければ、出来過ぎのファンタジーでしかない。世界は確かに美しいが、その美しさだけを描いても、深みが描けない。どうしようもない闇や恐怖があり、どうしようもない自分の無力感があり、それでも世界は美しいからせつないのだと思う。この映画は美しすぎる都合の良いファンタジーにしか私には思えなかった。

それほどまでに現実は、過酷で厳しくて夢を持てないということなのか。夢のような美しきファンタジーに思いを仮託しないと、現実の過酷でシンドイ関わりを乗り越えていけないということなのか・・・。


製作年 2016年
製作国 日本
配給 東宝
上映時間 107分
監督・原作・脚本・絵コンテ:新海誠
製作:市川南、川口典孝、大田圭二
企画:川村元気
エグゼクティブプロデューサー:古澤佳寛
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:安藤雅司
音響監督:山田陽
音楽:RADWIMPS
キャスト(声の出演):神木隆之介、上白石萌音、長澤まさみ、市原悦子、成田凌勅、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音

☆☆☆3
(キ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : アニメ ☆☆☆3

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No title

実は僕も本作のあまりの人気ぶりが理解できない一人です。物語を構成するモチーフは過去に出尽くしており、それをうまく「リフォーム」した作品としか思えませんでした。ただ。「停滞」「どんより」「生きづらい」現在、映画館に行って「重い」「暗い」「辛い」作品を鑑賞できる人は、強く、たくましく、楽観的な特性を持った一部の人達だけなのではないか?と思えるのです。一般ピープルは、映画に安直な安らぎや安心感を求めているのかもしれません。参考までに僕の映画レビューです。http://ameblo.jp/yukitoamamiya/entry-12207855664.html

いつもコメントありがとうございます。

>アマミヤユキトさま
アマミヤさまのレビューを拝読いたしました。過去の似たような題材の指摘はお見事です。大林宣彦「転校生」や平安時代の「とりかえばや物語」などの男女入れ替りにはじまり、宮崎駿アニメのアニミズム、手塚治虫・松本零士などの宇宙アニメ、筒井康隆「時をかける少女」の時間空間の瞬間移動、古のニッポン・・・などなど。まさに「出尽くしたモチーフ」というご意見は同感です。「RADWINPS」の音楽も過剰すぎると感じましたが、若い人たちには気持ち良かったのでしょう。映画で音楽は大きな役割を担っていましたね。ちなみに、アマミヤユキトさんのプロフィールを読むと、私と全く同世代でした。

「映画に安直な安らぎや安心感を求めている」というのも、その通りなのでしょう。映画の出来(表現)としては、決して飛び抜けたものではないし、映像はきれいで丁寧だったとしても、それほど騒がれるレベルでもない。「誰そ彼」時の日本的存在の曖昧さ、「もののあはれ」「人のあはれ」を表した日本的価値観と映像と音楽が気持ち良かくマッチしたのでしょうね。

でも、死者や消えてしまった村をもう一度SF的の甦らせてしまうファンタジーにはやはり納得できません。あの世とこの世の境界の曖昧さ、死の世界がこの世に遍在しているという価値観は納得できても、それが普通にもう一度やり直せて、現世で出会えてしまうことに違和感があります。まるで宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のカンパネルラを生き返らせてしまうような違和感です。


プロフィール

Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

Author:Yasuo K  ( ヒデヨシ)
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

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