「この世界の片隅に」片渕須直

この世界の

主人公のすずの声を演じたのん(元能年玲奈)がいい。すずと一体化したようなほんわかとしたキャラクターが、この戦時下の中で活きている。やや受け身でおっとりしてどんくさい少女すず。見染められて広島から軍港の街、呉へお嫁に来ても、その家の住所すらわからない。それでも前向きに明るく生きるすず。その普通に生きることの尊さをこのアニメは見つめている。

青い空も雲も白波の兎が走る海も、街も、トンボやチョウチョやアリなどの虫たち、シラサギなどの鳥たち…。すべての生き物たちが、普通に生きていること。食糧不足でなにも食べるものがなく、戦争で空襲が激しくなるなかでも、必死に明るく普通に笑って生きようとしていること。そのことを丹念に愛おしく描いている。すずは絵が上手い。そこにいないお母さんやスイカやキャラメルなど手に入らない食べ物を絵に描くことで、人を勇気づける。絵にはそれだけの力がある、アニメにもそれだけの力があることを教えてくれる。

死に遅れた水兵の同級生は、呉に寄港した時すずを訪ねてきて、「すずは普通でいいなぁ」と何度もつぶやくところがせつない。夜の同級生とのシーンや、夫とのやりとりもいい。空襲のさなか、空を飛ぶシラサギに「そっちに行ってはいけん」とすずが走るところはなんだか泣けてくる。

観客は広島の原爆のことをよくわかっているだけに、そのことを直接描かなくても、十分その恐ろしさは伝わる。いや、丹念に日常生活の細部を描き、原爆を直接に描かないことで、余計にその現実の重みが伝わってくる。この映画を観ると、『君の名は』の消えた村をファンタジーで甦らせててしまう安易さ、軽さを感じてしまう。大きな出来事を劇的に描かなくても、細部を丹念に描くことで見えてくる哀しみや愛おしさがある。

戦後、焼け跡の広島で、すずは多くの人に間違って声をかけられる。「みんなが誰かを亡くして、みんなが誰かを探している」とモノローグが入る。そして、広島で周作と再会し、最初の二人の出会いのエピソードが明かされる。周作に「すずさんはそのホクロがあるから、いつでも見つけられる。」と言われる。「この世界の片隅に、うちを見つけてくれてありがとう」と周作に言うすず。人と人との出会いは、奇跡的なものであり、それをかけがえのないものにするかどうかは、その人次第なのかもしれない。


製作年 2016年
製作国 日本
配給 東京テアトル
上映時間 126分
監督:片渕須直
原作:こうの史代
脚本:片渕須直
企画:丸山正雄
プロデューサー:真木太郎
音楽:コトリンゴ
アニメーション制作:MAPPA
声の出演:のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、牛山茂、新谷真弓、小野大輔、岩井七世、潘めぐみ、小山剛志、津田真澄、京田尚子

☆☆☆☆4
(コ)
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tag : アニメ 戦争 ☆☆☆☆4

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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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