TBS系ドラマ「カルテット」(第1話~第3話) 坂元裕二脚本/土井裕泰、金子文紀ほか演出

TBS系火曜のドラマ『カルテット』が面白い。『逃げるが恥だが役に立つ』もテンポも良く、今の時代をよく映した素晴らしいドラマだったが、この『カルテット』は久々にレビューを書きたくなる内容の濃いドラマだ。なんといっても坂元裕二の脚本が素晴らしい。憎たらしいほど面白いセンスの良い台詞が満載なのだ。衣装から小道具まで脚本家の策略と演出家の心配りが隅々まで行き届いたドラマである。

このドラマはカルテットとして音楽を奏でる4人のそれぞれの嘘と秘密をめぐるラブサスペンスである。

第1話は、都会の街頭でチェロの演奏をしているすずめ(満島ひかり)から始まる。彼女のもとに「この女性と友だちになってください」という怪しげな仕事をおばあさん(もたいまさこ)から依頼される。その女性=巻真紀さん(松たか子)とカラオケで偶然一緒になったように装う3人。世吹すずめ(満島ひかり)と、別府司(松田龍平)、家森諭髙(高橋一生)。それぞれの訳あり4人が、軽井沢の別荘でカルテットとして弦楽四重奏を演奏しながら暮らし始める。別府はどうやら有名な音楽一家で、軽井沢に別荘を持ち、彼だけがプロになれなかったらしい。

毎回ゲストが登場し、第1話では「余命9カ月のピアニスト」ベンジャミン瀧田(イッセー尾形)が出てくる。洒落たお店でピアノ演奏をしているのだが、そのベンジャミン瀧田の「余命9ヶ月」という嘘をめぐる物語。ベンジャミンは「音楽とはドーナツの穴のようなものだ。何かが欠けている奴が奏でるから音楽になるんだよね」と言っていた。嘘は人生を豊かにするのか。

4人のカルテットの名前は「カルテット ドーナツホール」。それぞれがドーナツのように何かを欠いている。このベンジャミンもまた嘘で人生を語り、妻や子供と別れ、何かが欠けた人間だ。別府も家森も、年老いたベンジャミンに未来の自分たちを重ねる。「好きなことで生きていける人になれなかった」自分たち。「チラシを画鋲で刺せない」ように、嘘でもつきながら人生を渡っていくしかないのか。

そんなベンジャミンの嘘を告発し、仕事を奪い取ったのは巻さんだ。それはまるで第2話に登場するカーリングのようだ。穴を埋めていた石が別の石で埋めらる。

不在の夫。巻さんの秘密と闇。唐揚げにレモンをかけたら元には戻らない。優しさなのか気配りなのか。夫の些細な嘘は妻を傷つけた。不可逆性の人生。「人生に絶対なんかない。人生には3つの坂がある。上り坂と下り坂。そして、まさか」。最初に車の中で言いかけて中断された巻さんの言葉は、繰り返される。「夫婦って何ですか?」という別府の質問に答える巻さんの言葉も、通り過ぎるバスの音で遮断される。これも再び繰り返され、「夫婦とは、別れられる家族だ」と彼女は言い切る。

第3話で、すずめちゃんの詐欺師の父(高橋源一郎)が登場する。嘘つき魔女と呼ばれ続けて、孤独を笑顔でつくろいながら生きてきたすずめちゃんは、父の死ぬ間際まで、父を許せなかった。そんなすずめちゃんに、死んだ父がいる病院に「行かなくていい。帰ろう。」とすずめちゃんを自分たちの居場所へ呼び戻すのは巻さんだ。憎しみが消えない父と娘も別れられるのか。家族よりも血のつながらない仲間。何かを欠いたドーナツのような4人。泣きながらかつ丼を食べるすずめちゃんに、「泣きながらご飯を食べたことがある人は、生きていけます」と力強く巻さんが言う。こじれて憎しみ合った家族の難しさは、坂元裕二は『Woman』でも描いていた。田中裕子と満島ひかり、そして二階堂ふみ。家族の関係は、愛憎が絡むだけに他人よりも難しい。

第2話は、二つの間を揺れ動く別府司(松田龍平)の物語だ。「右手で惹きつけて、左手で騙す」とすずめに囁く老女の言葉は、嘘と本当の二つの間、言葉と態度や表情のズレ、言ったそばからその言葉を態度が裏切っていくという「ズレ」や「行間」にこそ真実があるというテーマが繰り返される。巻は何度も「演奏できない」と言いながら、次の場面では演奏しているし、「目が笑っていない」元地下アイドルの行間を家森は読もうとする。それはカラオケで歌われる「White Love」とXJAPANの「紅」という白と赤の間でもある。白と赤は巻さんとすずめの衣装でも表現される。または「遠くのオシャレなカフェ」と「近くのチェーン店」。別府にとっては、憧れの巻さんと近くにいて気を遣わない同僚の菊池亜希子。

夜明けのベランダで菊池亜希子が別府くん(松田龍平)に、「寒い朝、ベランダでサッポロ一番食べたら美味しかった。それが君とのクライマックスでいいんじゃない。」と語るシーンはせつなくて素晴らしい。第1話の帽子が風で吹き飛ばされたベンジャミン(イッセー尾形)の後ろ姿とともに、忘れがたい。

巻さんのテーマ「アヴェマリア」から、菊池亜希子とのテーマ「White Love」へと演奏が移る結婚式の場面も素晴らしい。二つの間にこそ、本音が垣間見える。

第2話は、4人のテーマであるドーナツが、カーリングのストーン、タイヤ、XJAPANのコルセットと「円」つながりで出てくる。すべては真中が空いた円。それぞれの不在と欠落。それは、家森⇒すずめ⇒別府⇒巻という片想いの円にもつながっていくようだ。

第3話では、共同生活による衣装かぶり(ボーダー)、一緒の洗濯(パンツ)、シャンプーの匂いかぶりのテーマが出てくる。第2話では、赤のすずめちゃん、白の巻さんだったのが、第3話では、白のすずめちゃん、赤の巻さんとなって衣装の色が入れ替わる。または緑の巻さんも登場する。ドーナツの円は、ぐるぐると一緒になる。悲しみと笑顔、父と娘の埋められない距離は、ぐるぐるのドーナツですずめちゃんの帰る場所となる。ペットボトル一つの距離で見つめ合う男と女の恋、すずめちゃんの不可視のWi-Fiはつながり、彼女の鍵は二つ(母と父の骨壺)に増えた。いつか父を許せる時が来るのかもしれない。

さて、次回はガムテープでぐるぐる巻き(これも円)にされた家森(高橋一生)の欠落の物語だ。楽しみ。

「音楽とはドーナツの穴のようなものだ。何かが欠けている奴が奏でるから音楽になるんだよね」(第1話)
「寒い朝、ベランダでサッポロ一番食べたら美味しかった。それが君とのクライマックスでいいんじゃない。」(第2話)
「泣きながらご飯を食べたことがある人は、生きていけます」(第3話)

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