「忍びの国」和田竜 (新潮文庫)

忍びの国


『のぼうの城』、『村上海賊の娘』など時代劇の活劇描写が上手い和田竜。大野智主演で映画化されることが決まっているので、読んでみた。

なるほど、楽しめる。忍者と言えば、白戸三平の『忍者武芸帳 影丸伝』『サスケ』『カムイ伝』などが思い出され、特にTVアニメの『サスケ』には、その忍者の変幻自在ぶりに子供心ながらワクワクしたものだ。忍者とスパイは子供にとっては憧れの存在だった。

和田竜の小説は、映像が目に浮かぶような描写なのだ。とても活劇的で映画的。だから映画化がすぐ思い浮かぶ。それぞれの登場人物たちのキャラクター造型と構成がうまいのだ。

この小説は、4人の騎馬武者が、伊勢の国の支配者、北畠具教の暗殺に向かう場面から始まる。織田信長の次男、信雄とその家臣、日置大膳、長野左京亮、柘植三郎佐衛門。しかも、日置大膳、長野左京亮は、殺しに行く北畠具教の元家臣。敵と味方が時代の変化とともに入れ替わる戦国時代の複雑さ、それぞれの思惑が絡まり合う中で戦いが展開されていく。そして、織田信長が登場して、次男の信雄を黙殺する場面で、偉大なる父親を持つ次男のコンプレックスなども描かれる。

物語は、天下統一を推し進める信長が「安易に攻め入るな」と忠告した忍びの国である伊賀の国へ、自らの誇りと意地をかけて伊賀征伐を目論む織田信雄率いる織田軍と、無頼な地侍たち、忍びの者たちの戦いの物語である。忍びの世界の極悪非道ぶりを、「あいつらは人間ではない」と見限って、織田軍に加わった元伊賀忍者、柘植三郎佐衛門や下山平兵衛の恨みも描かれ、戦いは因縁めいてくる。伊賀の国では、忍びの技が冴えわたる天下無敵の忍者、無門、その無門が想いを寄せる女・お国、さらに後の石川五右衛門となる文吾など、忍びの者たちが山々や森や土の中や木々の上、そして城の天井裏や屋敷を駆け巡るのだ。

忍者がいかに情け容赦なく残酷で個人主義的で、掟などない無法者たちであることがこの小説では強調される。武士とは一線を画した秘術の数々。武士たちはならず者の忍びを見下している。騙すことが忍者の技に通じるため、武士道的な主従関係など無視。己の技のため、そして銭のために活躍するのが忍者なのだ。今の時代で言えば、共同体に属するのではなく、グローバル自由主義的個人主義者だ。自己利益のみ追求し、損得勘定だけで動く金銭至上主義者。義理や人情など一切関係ない。人を騙しながら技を磨き、生き延びて報酬を得る。そんな情け無用な男が、ある女性を好きになることで守るべき存在が生まれる。忍びの世界の無頼者の魅力が描かれる一方で、守るべき存在がいるという共同性の価値も描かれている。主従関係の忠義を重んじる武士の世界と、そんな縦割りのしがらみから自由に動き回る忍者たち。どちらにも美徳はあり、どちらにも醜悪さがある。

「天正伊賀の乱」の史実を参考にして描かれたエンタメ忍者時代劇。さてさて、この小説がどんな風に映画化されるのかも楽しみなところだ。
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