ドラマ「カルテット」最終話

サンキュー!パセリ ありがとう!カルテット・ドーナツホール!

そんな風に言いたくなる幸福なドラマのエンディングだった。謎で始まり、謎に満ちた展開が続いたドラマは、最後まで謎を残したまま、「あとはお好きに想像してください」と言わんばかりに、カルテットの4人が道に迷いつつ演奏へと向かって行った。カルテット・ドーナツホールのワゴン車で、エンディングテーマの「大人の掟」を登場人物たちが幸せに満ちた表情で歌い、たとえガス欠で目的地にたどり着けなかったとしても、彼らは楽しそうだった。幸せそうだった。
 
唐揚げの横にいてスルーされる<パセリ>であろうと、3流音楽家たちの<煙>のような意味のない演奏だろうと、「私はここにいる」と主張すること、そして、誰に何を思われようとも、強い「思いは誰かに届く」と信じること、そんな人生肯定のドラマだった。

ドーナツの比喩的に使う小説家といえば村上春樹だ。彼の『羊をめぐる冒険』では、

「ドーナツの穴を空白として捉えるか、あるいは存在として捉えるかはあくまで形而上的な問題であって、それでドーナツの味が少しなりとも変わるわけではないのだ。」

という文章がある。

空白としてのドーナツホール(謎=嘘)を抱えた4人のメンバー。結局最後まで、彼女たちは謎のままだった。マキさんの義父殺しは、最後まで謎のままだったし、あの手紙の主も明かされないままドラマは終わった。それが「スッキリしない」という意見もあるが、そもそも「白黒ハッキリさせることにどれだけ意味がるのか?」を問い続けたドラマでもあったのだから、謎が謎のまま終わってもなんらおかしくないのだ。「自由を手にした僕らはグレー」なのだから。

そして、マキさんは「謎の美人ヴァイオリニスト」であることを逆に利用して、コンサートまで開いてしまった。疑惑の女として、メディアに叩かれようが、晒し者にされようが、彼女は「誰かに何かを届けたい」と思った。その強さはカルテット・ドーナツホールというメンバーと巡りあえたから。4人はその思いを響かせ合った。たとえ「煙」と酷評されようが、三流と言われようが、コンサートステージに空き缶が飛んでこようが、途中で客たちが帰えろうが、自らを信じて演奏し続けること。それこそが生きていくということだ。

冒頭は、第1話のマキさんがワゴン車に乗り込み、軽井沢の別荘にやってくるまでの一連のやりとりが、別の女性ヴァイオリニストで繰り返される。家森さんは女性とキスをするのではなく、犬とじゃれ合いつつ車に乗り込み、すずめちゃんは机の下で寝転がり、驚かれる。しかし、動物の衣装を着て演奏をすることになって、「第一ヴァイオリンはマキさんじゃなくてはならない」ことを3人は再確認する。繰り返される仮装。そして、マキさんを誘い出すために繰り返される路上演奏。繰り返される服の「ボーダーかぶり」。そして、ラストもまた「唐揚げとレモン」が繰り返される。大きな輪を描くように、「カルテット」はぐるっと元に戻った。しかし、一回りしたメンバーのつながりは、他者では代用のきかない「なくてはならない関係」になった。空白としてのドーナツの穴は、どうでもいいものになった。いや、4人を結びつける必要なつながりになった。

とてもレベルの高い素晴らしいドラマだった。視聴者がいろんなことを考え、自由に語りあえる余白がいっぱいあった。ありがとう。楽しい火曜の夜の時間でした。

<追記>
「死と乙女」をコンサートの一曲目にしたことをすずめちゃんに問われて、「こぼれたのかな」「内緒ね」と意味ありげに口紅をひきながら語ったマキさんのことをあらためて考えてみると、彼女の義父殺し(あるいは殺意)がハッキリしてきた。義父に虐待されて死神と格闘し、死の淵をさまよったマキさん。だからこそ、第1話のイッセー尾形の「余命9カ月のピアニスト」という嘘は許せなかった。あのマキさんの密告に、あの時ギョッとしたけれど、彼女の生きざまの強さは、ここからきていたのだと納得。だからこそ、すずめちゃんに、彼女が最後まで許せなかった父のいる「病院へ行かなくていい」と宣言できたのだろうし、何を言われようともコンサートを開催することが出来たのだ。その「おとなの秘密」(罪)をすずめちゃんと共有する物語でもあるのだ。どん底の哀しみを経験した者のみが持つ「強さ」。あのメイクルームでの二人の地獄を見てきた女性の目くばせと笑顔は、このドラマの中で最も恐ろしい場面かも知れない。そんな過去の罪=嘘をも前向きに肯定する物語でもあるのだ。
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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