「未来よ こんにちは」ミア・ハンセン=ラブ

未来

『あの夏の子供たち』がとても良かったので、フランスの若き女性監督ミア・ハンセン=ラブの新作を観に行った。『EDEN エデン』『グッバイ・ファースト・ラブ』は未見である。この作品で、2016年・第66回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞。

フランス人らしい女性哲学教師を演じるのがイザベル・ユペール。「40を過ぎると女なんて生ゴミよ」などという過激なセリフも出てくるが、男女ともに自立心の強いフランスらしい映画だ。ミア・ハンセン=ラブ監督自身の両親も哲学者だったらしいが、この映画の登場人物は、哲学の先生の夫婦、そして優秀な教え子など哲学談議が盛んに出てくる。イザベル・ユペール演じるナタリーは、高校でジャン=ジャック・ルソーなどを教えており、「自分の頭で考えることをできる」若者を育てようとしている。高校では、失業を増やす政策に反対する学内ストが行われたりしているが、ナタリーは政治的に無関心。かつての五月革命に夢中になった熱さはない。夫のハインツ(アンドレ・マルコン)は、カントやショウペンハウエルなどを研究しているらしく、どこかわが道をゆく風情。そしてナタリーの一番のお気に入りの教え子ファビアン(ロマン・コリンカ)は、アナーキストの仲間たちとともに現実を変革する哲学を志向しているらしい。

冒頭、ブルターニュのシャトーブリアンの海が見える墓に家族で参り、バカンスを過ごす場面が描かれる。哲学者夫婦の家族は仲睦まじく見える。ナタリーは、パリで日々、母(エディット・スコブ)の介護と哲学の授業に追われ、忙しき日常が描かれる。しかし、25年間連れ添った夫に突然、「好きな女性が出来た。離婚したい」と切り出される。「死ぬまで一緒にいると思っていた」ナタリー。映画は、そんなナタリーの日常を淡々と追いかける。

夫と離婚して一人になったナタリー。夫の実家のあるバカンスをいつも過ごしていたブルゴーニュの海辺の庭を思い、ふと涙をする。夫とその相手の女性が歩くところをバスの窓から見つけたりする。認知症が進んだ母を施設に入れ、教え子のファビアンが仲間と過ごすフレンチ・アルプス近くのヴェルコール山の別荘にも行く。そして母は孤独のうちに死に、娘には子どもが産まれ、孫ができる。死と新しい命の誕生。

高校の授業は、パリの緑豊かな公園で行われ、海辺のブルゴーニュの青い海や、フレンチ・アルプスの山あいの美しき森など自然はふんだんに描かれる。50代女性の人生の孤独と輝く美しきフランスの自然。夫との突然の離婚、母の介護と死、若者たちとの哲学授業、教え子との淡い恋心と距離をとりつつ過ごす時間。そして孫の誕生と、新たに形を変えていく家族。そこに劇的なドラマは何一つない。夫との関係も、家族の関係も、母との確執も、教え子とのアバンチュールもない。何もドラマは起きない。淡々と時間が過ぎていくだけだ。悲劇も喜劇もない過ぎゆく時間。ゆっくりと老いが進み、死が近づく。自立した50代の女性は、未来を思い、静かに草原の中で佇む。母とともに過ごしてきた黒猫のパンドラのように、一人で孤独で、気丈で、誰も頼らず、どこまでも自由だ。


原題:L'avenir
製作年:2016年
製作国:フランス・ドイツ合作
配給:クレストインターナショナル
上映時間:102分
監督:ミア・ハンセン=ラブ
製作:シャルル・ジリベール
脚本:ミア・ハンセン=ラブ、サラ・ル・ピカール、ソラル・フォルト
撮影:ドニ・ルノワール
美術:アンナ・ファルゲール
衣装:ラシェール・ラウー
編集:マリオン・モニエ
キャスト:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ、サラ・ル・ピカール、ソラル・フォルト、エリーズ・ロモー、リオネル・ドレー、グレゴワール・モンタナ=アロシュ、リナ・ベンゼルティ

☆☆☆☆4
(ミ)
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Yasuo  K   ( ヒデヨシ)

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