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「オン・ザ・ミルキー・ロード」エミール・クストリッツァ

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今年は、是枝裕和、黒沢清、ジム・ジャームッシュの新作が次々と観れて、9年ぶりのエミール・クストリッツァの新作まで観れるなんて、なんと幸福な年だろう。

とにかく、観ているだけで楽しい。

ハヤブサ、ガチョウの群れ、豚、ロバ、蛇、蝶、そして羊の群れ・・・。動物たちが主役なのか?とでも言えそうなほど次々と画面を横切り、占拠する。エミール・クストリッツァにおいて、動物たちは大事な大事な脇役である。登場人物たちとともにいつもあり、時に運命のように彼を助ける。それは、人はいつも自然=世界とともにあるという彼の世界観でもある。さらに望遠鏡のレンズの目線もクストリッツァのいつもの道具立てだ。人の好奇心は、遠くを覗き見ることから始まる。美女の行動や蛇がミルクを飲む場面を。線路やトンネルなどもいつものように登場するが、描かれるのは、戦争という究極の暴力とそのなかで発揮される生へのエネルギーとだ。

さらに、クストリッツァお得意の上下運動が躍動的に展開される。今回は殺人時計の振り子の上下運動から始まり、井戸に隠れて落下と上昇で逃亡し、大きな木から空へと幻想的に飛翔する。そして、水の中への潜水、滝での落下の逃避行。最後は地雷によって空に浮きあがり、彼女は天空から彼が運んだ敷き詰められた石を見守る。羊の群れの場面といい、ラストの石を敷き詰めた俯瞰の視線といい、天上や鳥の目線は彼の映画の時空を超えたスケール感だ。戦火の銃弾をロバとともに掻い潜り、将軍の特殊部隊、黒服の追手から二人で逃げ続ける横への移動を、上下の運動に転換することで、生と死のダイナミズムが生まれる。エミール・クストリッツァの圧倒的なエネルギーは、そうした登場人物たちの運動によって生まれ、賑やかなバルカン半島の音楽とともに歌い踊り、人間の躍動との賛歌は描かれる。

エミール・クストリッツァ(62歳)自身が演じている戦火の中のミルク配達人の略歴はハッキリ描かれない。精神病院にも入っていたこともある、銃弾も気にせずロバで移動するちょっとおかしな男。そのミルク配達人が謎めいた美女と恋に落ちる。ローマからセルビア人の父を捜しに来て戦争に巻き込まれ、今は多国籍軍の将校に見染められて追われ、逃げている絶世の美女にモニカ・ベルッチ。彼女も52歳だという。人生の苦労や厳しさを乗り越えて年齢を重ねた二人が恋をする。彼を慕うもう一人の女、スロボダ・ミチャロヴィッチの豊満なる姿態や若さも美しいが、映画は歳を重ねた二人の圧倒的な逃避行と究極のラブストーリーへと昇華していく。戦争からへ。人間はどこまでも逞しく自由だ。そして強く美しい。エミール・クストリッツァの映画はそんな力を私たちに与えてくれる。

原題 On the Milky Road
製作年 2016年
製作国 セルビア・イギリス・アメリカ合作
配給 ファントム・フィルム
上映時間 125分
監督:エミール・クストリッツァ
脚本:エミール・クストリッツァ
撮影:ゴラン・ボラレビッチ、マルタン・セク
編集:スベトリク・ミカ・ザイッチ
音楽:ストリボール・クストリッツァ
キャスト:エミール・クストリッツァ、モニカ・ベルッチ、プレグラグ・ミキ・マノジョロビッチ、スロボダ・ミチャロビッチ

☆☆☆☆4
(オ)

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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 戦争 ファンタジー ☆☆☆☆4

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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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