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「甘き人生」マルコ・ベロッキオ

甘き人生

イタリア人にとって母親の存在は大きい。フェリーニの女性崇拝も、ある種のマザコンであり、そのマザコンであることを隠そうともせずに、男性たちはマンマを追い求め、女性のなかにマンマ像を探す。カトリックの聖母マリア信仰のせいなのか、男性には誰でもその傾向があるが、イタリアは文化として母親第一主義である。たぶん。

それでこの映画であるが、息子が小さい頃に亡くした母を追い求める話である。母親との甘美な想い出だけを大切に抱えつつ、母親がなぜ突然、自分の前からいなくなったのか少年には理解できない。「死んだ」と父親から説明されても信じない。家で葬儀も行われるのだが、棺桶の中には母はいないと訴える。少年にとって、母の不在を埋めるために助けを求めたのは、テレビの恐怖ドラマで母と一緒に見たベルファゴールという怪人である。幻のベルファゴールだけを心の支えとし、少年は孤独に生きる。父親からは、母の死は心筋梗塞だったと伝えられ、なんとか受け入れようとするが、友達には母はニューヨークにいると嘘をついたりする。そして少年は友達の母にも母の幻を求める。そんな少年がいつしか大人になり、心を閉ざしながら孤独に生き、やがてパートナーを見つける。父が死に、かつて住んでいた家を整理することになって、母のアルバムをめくりつつ、伯母に母の死の真相を聞くという物語だ。

落下という垂直運動が映画の大きなモチーフになっている。水泳の高跳び込みをテレビで見て少年が真似をし、最後の方でパートナーがプールで高飛び込みをするのをただ見つめる場面がある。あるいは科学の重力の教科書を読んでいて、父のナポレオンの胸像をアパートの上から落としてしまう場面。「人を殺す気か」と父から怒られるが、母の不在とともに少年の孤独は癒されぬままだ。そんな落下のモチーフが最後に母の死の真相とともに明らかにされる。

少年が立ち直るきっかけになったのは、父に連れて行ってもらった目の前のスタジアムで行われていた地元のトリノのサッカーチームの応援だった。少年はサッカーに夢中になり、いつしか母の死を心の底に閉じ込めていく。サッカージャーナリストから新聞記者になった少年は、「母親の憎み、母なんていなければいいのに」という新聞の人生相談の投書に回答する文章を書く。今まで閉ざしていた母への思い、を素直に書いたその文章が世間で大きな話題なる。母への思いこそが、人生のすべてであるかのような。

母の死についての真相も、ミステリアスな展開なので、もっと複雑なものなのかと思ったら、単純なものだった。それではなぜ母は少年を見捨てたのか、今ひとつ腑に落ちない。母が何を考えていたか、その悩みの深さは描かれない。あくまでも、少年の目を通した母像だ。橋の上から花束を落とす母。バスの窓の外をぼーっと見続けていた母。家の中でかくれんぼをして、見つからなくて不安になり、隠れていた段ボール箱の中に一緒に入った甘美な思い出。少年の一方通行的な美しき母への思いを、ヨーロッパ的な陰影ある光と影の映像で綴った映画。


原題 Fai bei sogni
製作年 2016年
製作国 イタリア
配給 彩プロ
上映時間 130分
監督:マルコ・ベロッキオ
原作:マッシモ・グラメッリーニ
脚本:バリア・サンテッラ、エドゥアルド・アルビナティ、マルコ・ベロッキオ
撮影:ダニエーレ・チプリ
美術:マルコ・デンティチ
音楽:カルロ・クリベッリ
キャスト:バレリオ・マスタンドレア、ベレニス・ベジョ、バルバラ・ロンキ、グイド・カプリーノ、ニコロ・カブラスマッシモ、ダリオ・デル・ペーロ、ロベルト・ヘルリッカ、ファブリツィオ・ジフーニ、エマニュエル・ドゥボス

☆☆☆3
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 家族 ☆☆☆3

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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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