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「皆殺しの天使」ルイス・ブニュエル

皆殺し
(C)1991 Video Mercury Films

1962年のメキシコ時代の作品。久しぶりに観なおしたのだが、過激で危険な映画史上に残る不条理映画だ。ブニュエルの晩年の『ブルジョワジーの密かな愉しみ』をもう一度観たくなった。ジャン・ルノアールの『ゲームの規則』やフェリーニの『甘い生活』など上流階級の人々の享楽のパーティーを描いた数多くの傑作があるが、これは屋敷という場所=空間にこだわった映画である。

原案は『プロビデンシア(神 意 =節理)通りの遭難者たち』というものであったらしい。そう、彼らは遭難者なのだ。迷える羊たち。幻想の囚われ人たち。

ある夜、お屋敷で晩餐会が開かれるが、使用人たちが次々と屋敷を去っていく。理由ははっきりしない。料理人たちも料理は出来ているからと言って、お客さんたちが次々と訪れている隙間に屋敷を逃げ出す。まるで、その夜何かが起きることを予感するかのように。

屋敷の主人が、お客さんのコートを預かるために、何度も使用人の名を呼ぶが、誰も出てこない。その描写が2度繰り返される。やがて、晩餐が始まり、主人の乾杯の挨拶もあるが、これもなぜか2度繰り返される。2回目の挨拶は誰も聞いていない。食事が終わって、お客たちはピアノのある部屋に移り、ピアノの演奏を聴いている。その演奏が終わって、そろそろお開きにしようかという頃になっても、誰も帰ろうとしない。みんながそれぞれにソファや絨毯で眠りにつく。しだいに、誰もその部屋から出られないことがわかってくる。なんの物理的障害などないのに、なぜか一歩も部屋の外に出られない。やがて、何日も同じ状態が続き、髪や衣服も乱れ、水も食べ物も何もない状態が続き、病気の者が死んだりもする。あるいは、クローゼットで心中する二人も出てくる。空腹で紙を食べたり、花瓶の水を飲もうとしたり、幻覚で切り離された手を見たり、誰かが夜這いをしたと騒ぎが起きたり、いろいろと騒動が起きてくる。壁の中の水道管を壊して、直接、水を飲み、部屋に入ってきた羊を殺して、家具の端材で火を起こして、肉を焼いて食べたりもする。まさに上流階級の紳士淑女たちのサバイバルだ。屋敷の外では、帰って来ない家族たちが集まり、警察などが屋敷を取り囲み中の様子を探ろうとしている。しかし、なぜか誰も屋敷の中には入れない。まさに不条理な設定。理由は何も示されない。屋敷の中で飼われていたクマも登場するが、クマは屋敷から出ていけるのだった。

ラストは同じ動作が同じシチュエーションでみんなが再現・反復することによって、なぜか屋敷から出られないという呪縛が解ける。しかし、生き残った客たちが教会で感謝のミサをしたあとで、再び教会に閉じ込められる呪縛が暗示される。教会の外では鐘が鳴り響き、銃声と悲鳴が聞こえ、町では騒乱が起きている。そして羊の群れが教会に入っていく場面で映画は終わるのだ。

解釈はなんとでもできるだろう。ブルジョワ階級への皮肉や批判、共通の幻想の呪縛、宗教への懐疑、スペインのフランコ体制へ批判。日常の反復。性と聖と暴力。シュルレアリスト、ルイス・ブニュエルの撹乱と悪意とユーモア。人々はかくも愚かであり、迷いに満ち、何かに呪われて囚われの身となる。なんとも不思議な挑発的な映画である。ルイス・ブニュエルの異才ぶりは、映画史に燦然と輝き続ける。



原題 El angel exterminador
製作年 1962年
製作国 メキシコ
配給 アイ・ヴィー・シー
日本初公開 1981年8月1日
上映時間 95分
監督:ルイス・ブニュエル
製作:グスタボ・アラトリステ
原案:ルイス・ブニュエル、ルイス・アルコリサ
脚本:ルイス・ブニュエル
撮影:ガブリエル・フィゲロア
美術:ヘスス・ブラーチョ
音楽:ラウル・ラビスタ
キャスト:シルビア・ピナル、エンリケ・ランバル、ジャクリーヌ・アンデーレ、ホセ・バビエラ、アウグスト・ベネディ、ルイス・ベリスタイン、アントニオ・ブラボ、クラウディオ・ブルック、セサル・デル・カンポ、ロサ・エレナ・ドゥルヘル、ルーシー・ガラルドー、エンリケ・ガルシア・アルバレス

☆☆☆☆☆5
(ミ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 幻想 ミステリー ☆☆☆☆☆5

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非公開コメント

やはりこれは傑作!

ブニュエルのベスト、ですね。

なんと

今月末、この映画のオペラ版が劇場で公開されます。

さて、どうでしょ、ね?

onscreenさん、コメントありがとう

ブニュエルのベストかもしれませんし、他の作品もあらためてもう一度見たくなるほど、味わい深い作品です。

オペラはどうなんでしょう?興味はありますが。
プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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    3、「演劇1&2」
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    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
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    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
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    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
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    8、ずっとあなたを愛してる
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    10、シルビアのいる街で
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    3、川の底からこんにちは
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