FC2ブログ

「港町」想田和弘

港町
(C)Laboratory X, Inc

ナレーションも音楽もテロップ(字幕)も使わないドキュメンタリーを自ら「観察映画」と呼ぶ想田和弘監督。カメラを持って、時には話しかけ、ひたすら対象を追いかける観察映画、第7弾。『選挙』(2007)、『精神』(2008)、『Peace』(2010)、『演劇1』(2012)、『演劇2』(2012)、『選挙2』(2013)、『牡蠣工場』(2015)。そしてこの『港町』。次回作は、アメリカまで乗り込んでいって「アメリカ」そのものを撮ったという『ザ・ビッグハウス THE BIG HOUSE』(観察映画第8弾)が公開予定だ。そちらも楽しみ。

前作『牡蠣工場』は残念ながら未見だが、その撮影中に岡山の港町・牛窓の港町にカメラを向け、住民と出会い、完成させた作品。想田和弘は、SNSなどで政治的な発言をけっこうしている。だが、映画はいたって寡黙だ。余計な装飾はしない。ナレーションを入れないドキュメンタリーということは、説明を一切しないということだ。対象者の声のみで映画を作るということ。つまり、撮影対象が魅力的か興味深いかのどちらかでないと、ドキュメンタリーは成立しない。

日本の特殊な選挙活動を描いた『選挙』や精神科診療所に集う人々を描いた『精神』、演劇人・平田オリザに密着した『演劇』などと比べると、なんの変哲もない日本の田舎町の人々を描いた『牡蠣工場』や『港町』は、対象者が刺激的ではない。面白味に欠ける。しかし、それでも面白く見てしまうのは、想田和弘のカメラの眼差しが、人々そのものの普遍的な暮らしを見つめているからだ。そこには現代の日本の諸課題が凝縮されているし、世界に共通する人間そのものの普遍性がある。

映像は美しい白黒画面で、どこかフィルム的な虚構性が感じられる。現実の日常を「物語」にしてしまう映像のチカラがある。カメラはまず瀬戸内海の美しい海で働く老漁師を捉える。耳がちょっと遠い老人は、小さな船で一人沖へ向かい、網を入れ、魚を網から外していく。日常のいつもの作業を丁寧にカメラは追い続ける。続いて、その魚を捌く魚屋さんの作業の一つ一つをカメラは捉える。さらに、軽トラックで家々を回り、魚を販売する姿を追いかける。カメラマンは「一緒についていっていいですか」と撮影許可を得る場面も映し出される。カメラの撮影に戸惑う住民たちの姿もそのまま描かれる。「どこからきたの?」という問いかけに、「アメリカから」とカメラマンは答え、「ドキュメンタリーを撮っているんです」と自らの身分を明かす。カメラマンと住民たちとの関係がそのままリアルに映し出される。

やがて、魚屋に来る客で、売り物にならない魚を分けてもらう夫婦を追いかけ、彼女が家の前の猫たちに餌をあげる場面などが撮影される。その撮影場面で、花を持って通り過ぎる住民がいる。今度はその住民の山の上の墓参りの場面へとつながる。先祖代々の墓の掃除。昔からのここでの暮らしを語る。自然から贈与される収穫物を追いかけることで、食を通じた人々のつながりが映し出される。漁師⇒流通⇒販売⇒消費者⇒住民。港町の住民たちは、カメラの前でそれぞれの日常や暮らしの細々としたこと、あるいは人生を語り出す。

この映画のクライマックスは、海辺にいるよく喋る老婆の語りだ。坂の上のある新しく出来た病院を、その老婆が案内するうちに、突然、彼女が自分の人生を語り出すのだ。どうにもならなかった過去の怒りや理不尽さ、その不満をカメラにぶつける。カメラは、ただただその老婆の話を聞く。話すうちに興奮してきた老婆の話を。おしゃべり好きで、世話好きで、近所の住民の噂話が大好きな、どこにでもいる老婆である。自分で作った干し魚を近所の人に分けてあげようと、行ったり来たりする場面をカメラは追いかける。人と人との関係はつながっている。都会とは別のつながり。一方で、「いつ死んでもいい」という老人の孤独。自然からの贈与も、流通・販売という小さな社会のつながりも、お裾分けや猫への提供、そして、噂話でつながる地域コミュニティ。あるいは壊れつつある家族のコミュニティ。港町は空き家だらけで、過疎が進む。ここには、つながりと孤独がある。わかりあえることとわかりあえないこと。幸福と不幸がある。それでも、同じように日常を繰り返し、噂話に花を咲かせ、人々は暮らし続ける。どこにでもある日本の地方の姿があり、大切な何かも、諸課題もまたある。


製作年 2018年
製作国 日本・アメリカ合作
配給 東風、gnome
上映時間 122分
監督:想田和弘
製作:想田和弘、柏木規与子
撮影:想田和弘
編集:想田和弘

☆☆☆☆4
(ミ)
スポンサーサイト

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : ドキュメンタリー ☆☆☆☆4

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


twitter 719hideyosi

最新記事
お気に入り度
テレビドラマ「カルテット」
映画あいうえお順
カテゴリ
映画ジャンル&☆ランク
映画監督別
アキ・カウリスマキ
アラン・レネ
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
アルフレッド・ヒッチコック
アンドレイ・タルコフスキー
イエジー・スコリモフスキ
イザベル・コイシェ
ウェス・アンダーソン
ウディ・アレン
ヴィム・ヴェンダース
エドワード・ヤン
エミール・クストリッツァ
エリック・ロメール
オーソン・ウェルズ
ガス・ヴァン・サント
ギジェルモ・アリアガ
クエンティン・タランティーノ
クリント・イーストウッド
グザヴィエ・ドラン
コーエン兄弟
サム・ペキンパー
シドニー・ルメット
ジム・ジャームッシュ
ジャック・ロジエ
ジャン=リュック・ゴダール
ジョン・カサヴェテス
タヴィアーニ兄弟
ダルデンヌ兄弟
テオ・アンゲロプロス
テリー・ギリアム
ニキータ・ミハルコフ
ニコラス・レイ
パトリス・ル・コント
ハワード・ホークス
ビリー・ワイルダー
フェデリコ・フェリーニ
ファティ・アキン
フランソワ・オゾン
フランソワ・トリュフォー
ペドロ・アルモドバル
ポール・トーマス・アンダーソン
ホン・サンス
マイケル・ウィンターボトム
ミヒャエル・ハネケ
ラース・フォン・トリアー
ロバート・アルトマン
ロベール・ブレッソン
ロマン・ポランスキー

青山真治
今村昌平
犬童一心
石井裕也
大森立嗣
小津安二郎
北野武
宮藤官九郎
熊切和嘉
神代辰巳
黒沢清
是枝裕和
鈴木清順
瀬々敬久
園子温
冨永昌敬
成瀬巳喜男
西川美和
濱口竜介
深田晃司
藤田敏八
前田司郎
三木聡
山下敦弘
吉田喜重
読書感想・作家別
月別アーカイブ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
157位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
71位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
検索フォーム
ブックマーク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
FC2カウンター