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「聖なる鹿殺し」ヨルゴス・ランティモス

鹿
(C)2017 EP Sacred Deer Limited, Channel Four Television Corporation, New Sparta Films Limited


なんとも救いのない重苦しい映画だ。罪と罰。生け贄。古代ギリシャ悲劇『アウリスのイピゲネイア』を下敷きにしていると言われている。このギリシャ悲劇は、トロイア戦争のころ、ギリシャ軍の大将アガメムノンが、女神アルテミスが大事にしていた鹿を射殺してしまい、アルテミスの怒りをしずめるために、アガメムノンは、娘のイピゲネイアを生け贄として捧げる・・・という話だ。「聖なる鹿」はその逸話から取られているようで、映画の中で鹿は登場しない。

冒頭は手術中の心臓のアップ。脈打っている心臓が不気味だ。最初は、男性と少年がカフェで話しているところから始まる。少年は遅れてやってきて、ハンバーガーを注文して食べる。そして、この男性は医者であることがわかり、少年に腕時計をプレゼントする場面が描かれる。まず、この二人の関係が観客にわからない。親子ではなさそうで、隠し子?とか思いながら見ていると、自宅に少年を招待したりもする。裕福で、幸福そうな家庭。美しい姉と弟。姉は合唱団に参加しており、弟は長い髪をなかなか切らず反抗期でもあるようだ。どこにでもある裕福な医者一家の風景。そこにこの少年が絡んでくる。

不気味で不穏な空気が次第に濃くなり、物語はサスペンスへと展開する。しかもまったく不条理なサスペンスだ。医者一家の弟の足が突然、動かなくなり、下半身麻痺と摂食障害で入院する。そして、その奇病を姉も発症し、原因不明のまま二人が父の病院に入院することになる。一家に何が起きたのか?少年と父親の関係は・・・という謎を引っ張りつつ、物語がますます不穏で恐ろしくなっていく。まさにホラー映画だ。

不気味な存在の少年マーティンを演じるのが、バリー・コーガン。彼が本当に素晴らしい。悪魔か神の使いなのか?彼が子供たちに呪いをかけたのか?映画は何も明らかにしない。彼が、妻役のニコール・キッドマンの前で、パスタを食べる場面は本当にゾッとする。映像がスタイリッシュで、弟が病院で倒れる場面の俯瞰映像など、随所に不穏な空気を演出している。姉キム(ラフィー・キャシディ)の不安定な歌声や、マーティンとキムのデート場面など、観ていてドキドキする。後半はさらに暴力が加速し、生け贄を誰にするかで、様々な変化があり、ますます恐ろしさは増していく。母の発言や行動、そして自ら犠牲になろうとする姉。そして、ラスト・・・。ネタバレになるので書くのはやめておく。

とにかく、いや~な気分になる映画である。なぜ生け贄を捧げなければならなかったのか?心臓外科医であるスティーブン(コリン・ファレル)の奢りや傲慢さ、過ちというものは、映画では描かれない。そういう男だという話がなされるだけだ。なぜ家族が生け贄を差し出さないと救われないと思うのか。映画の中で、コリン・ファレルは寡黙で、罪悪感を抱えつつ、マーティンに追いつめられていくだけだ。過ちはあったのだろうが、ここまで家庭を破壊されなければいけないのか。

因果応報というにはあまりにも理不尽でスッキリしない。マーティンという少年の不気味さと、不条理な奇病に苦しむ家族の崩壊が恐ろしいだけだ。映像センスと不穏な空気の演出には監督の力を感じるが、映画としてあまり楽しめなかった。


原題 The Killing of a Sacred Deer
製作年 2017年
製作国 イギリス・アイルランド合作
配給 ファインフィルムズ
上映時間 121分
映倫区分 PG12
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
撮影:ティミオス・バカタキス
美術:ジェイド・ヒーリー
衣装:ナンシー・スタイナー
編集:ヨルゴス・モブロプサリディス
キャスト:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン、ラフィー・キャシディ、サニー・スリッチ、アリシア・シルバーストーン、ビル・キャンプ

☆☆☆3
(セ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族 サスペンス ☆☆☆☆4

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