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「万引き家族」是枝裕和

万引き
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

やっと観ることができました。カンヌ・パルムドール受賞作、是枝裕和監督の「万引き家族」。是枝監督の原点「誰も知らない」に帰ったようなタッチで、これまでずっと描き続けてきた血のつながらない共同体としての「家族」がテーマであり、是枝監督の集大成ともいえる作品だ。

札幌でもつい先日、98歳の一人暮らしの母親の遺体を約1年5カ月にわたりアパートの部屋に放置し、母の年金を不正受給していた事件があった。「葬儀代が出せなかった」と娘は供述していた。こんな事件は、日常にいっぱいある。現代の弱者たちが寄せ集まったようなボロ家に人々が「家族」のようにして過ごす物語。老婆の年金目当てに集まってきた者たちだ。「親は選べないけれど、選んだ家族の絆は強いのかもしれない」なんていうセリフがあるが、理想郷ではない「家族」の現実の厳しさがラストで示され、その適度な距離感が気持ちいい。そしてそんな家族ごっこのぬくもりから抜け出そうとする少年の成長物語でもある。

なんといっても役者たちの存在感が素晴らしい。皮のままミカンをかぶりつく樹木希林の怪優ぶり。別れた夫の遺族に金をせびりに行くときの表情。あるいは海辺でのラストのボケた感じ。彼女がいなければこの映画は成立しなかっただろう。そして今回は安藤サクラのナチュラルさが際立っている。最後のほうの泣き顔がカンヌでも話題になったらしいが、正面カメラの切り返しによる捜査官の池脇千鶴とのやりとりは、お見事だった。ドキュメンタリーのようなリアリティがありました。そうめんを食べながらリリーフランキーとのスリップ姿でのラブシーンも良かったですね。リリーフランキーは、いつものように飄々と変なおじさんをやっていました。シャワーを浴びる裸のおしりの後ろ姿がなんとも印象的でしたが、子供との距離感が切なく描かれていました。ほんとダメ男をやらせたら絶品ですね。

スーパーの万引き、おまじないのような手の仕草、家での髪切り(「奇跡」でもあった)、抜けた歯を屋根の上へ投げる家族的儀式(「歩いても歩いても」「海街diary」に通じる)、小さな女の子ゆりの大好きな麩のエピソードやカップラーメンの汁につけるコロッケの味、茹でたとうもろこし(家族が知る好きな食べ物「歩いても歩いても」「海街diary」ほか多数)、虐待場面を描かずに声と傷だけで表現したり(お風呂の場面が良かった)、俯瞰カメラのリリーフランキーと少年のふざけあう場面の長廻し、海辺の思い出(「海街diary」)、見えない縁側からの花火(海街diary」の花火)、押し入れの中の少年の秘密(エドワード・ヤン「牯嶺街少年殺人事件」を思い出す)、雪と戯れる思い出(「三度目の殺人」)、バスの窓辺の少年(「奇跡」)とリリーフランキーとの別れの場面、ラストに女の子が口ずさむ数え歌など、是枝的大好きな細部の演出が繰り返され、日常のささやかな「細部にこそ幸福が宿る」ことをしっかりの映像に焼き付けていました。幸福な思い出となると、「海辺」が定番となるのは、古今東西いつも同じワンパターンだけど、人間やっぱり海は故郷に帰ったような気がするのでしょうかね。二つの名前や名前の二重性についても、「嘘と本当」を重ねる今回の映画の小ネタとして機能していました。柄本明の駄菓子屋のおじさんも良かったですね。少年が少しずつ大人になっていくキッカケとして重要なシーンでした。

ただ正直、予想通りの映画でもありました。是枝監督らしい細部の描き方が素晴らしいし、役者たちの芝居も素晴らしい。これまでの是枝監督の集大成であるのは間違いないし、とても見応えのある作品です。だけど、意外性はなかったかな。スリップ姿の安藤サクラと裸のリリーフランキーの夏の場面や松岡茉優の風俗嬢シーンなど、性を描こうとしている是枝監督の挑戦を感じました。


製作年:2018年
製作国:日本
配給:ギャガ
上映時間:120分
映倫区分:PG12
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
製作:石原隆、依田巽、中江康人
プロデューサー:松崎薫、代情明彦、田口聖
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
録音:冨田和彦
美術:三ツ松けいこ
編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣
キャスト:リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林、松岡茉優、池松壮亮、 城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴

☆☆☆☆☆5
(マ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 家族 人生 ☆☆☆☆☆5

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ディテール

監督も何かのインタビューで言ってたように思いましたが、俳優たちが組み合わさり自分の意図を越えるような作品ができちゃったかな、と。
とても正直なコメントに好感が持てました。

onscreenさん、コメントありがとう

すっかり是枝組の常連になった役者たちとともに、新たなメンバーも加わり、映画は見事に是枝的世界を作っていました。小津安二郎のように固定メンバーになりつつあるのは、是枝的世界を作るためには仕方のないことなのかもしれません。そのぐらい、役者たちの存在感をドキュメンタリーのように引き出す力が是枝監督にはあるのだと思います。
プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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