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「モリのいる場所」沖田修一

モリ
(C)2018「モリのいる場所」製作委員会

伝説の画家・熊谷守一夫妻の姿を映画化。熊谷守一氏は晩年、池袋の自宅の庭でほとんどの時間を過ごし、外に出ることはなかったという。庭は熊谷氏の小宇宙であり、日々地面に寝転がり、空を眺め、植物のなかでちいさな虫たちや鳥や水辺の魚や猫などの生き物たちとともに過ごした。1977年97歳で亡くなった異才の画家であり、書も多数残した芸術家である。

映画が終わってから、ネットで熊谷守一氏の写真を確認すると、仙人のようなヒゲ面を山崎努が忠実に再現している。映画の中に出てくるセリフもまた、熊谷守一氏が実際に語っていた名言が使われている。たとえば、「上手は先が見える。下手はどうなるかわからないのでスケールは大きい」とか、「下手の絵のうち」とか、「これ以上人が来てくれては困る」と文化勲章を辞退したり、仙人と呼ばれるのが一番嫌いだったのも事実らしい。熊谷氏の家には、なぜかいろんな人たちが集まってくる。それが熊谷夫妻が持っていた家庭の空気、温かさなのだろう。

ガーデニングをしながらスローフード的生活を送る老夫婦のドキュメンタリーとして異例のヒットとなった「人生フルーツ」にも通じる部分がある。毎日、庭で過ごす変わり者の芸術家・熊谷守一とそんな彼を見守り、家庭を切り盛りする妻。近所の人々や写真家など、いろんな人々が集まってくるところも「人生フルーツ」の老夫婦と似ている。人が集まってくる家とは、そこに人を惹きつける何かがあるのだろう。

映画は宇宙人まで寄ってくるちょっとシュールな展開も用意されており、ドリフターズ話で天井から盥が落ちてくるギャグなど遊び心の演出もある。ちょっと浮世離れした夫婦の姿と、その世俗性から抜け出した特別な空間がここにはある。まさに現代の寓話だ。小さき虫たちや魚たち、そして光や空や風、生い茂る植物の庭=宇宙と一体化したような熊谷守一。地面に寝ころびながら、何時間もアリの歩く姿を見ている場面や石ころをじっと見つめている場面など象徴的だ。隣にできる高層マンション建設反対と熊谷氏の弟子たちが家の周りに立て看板を設置する。しかし守一氏は、クレームに来た建設会社の人間たちも家に迎えてしまう。敵対関係を仲間にして取り込んでしまう懐の深さ。人間たちの利害関係や世俗的な文化勲章などの評価も、守一氏の書でひと儲けをたくらむ旅館の主人も、すべてこの「モリのいる場所」では無化されてしまう。まさに「無一物」。ただそこにあるだけの宇宙。庭の生き物たちと熊谷守一夫妻や人々がすべてを包み込まれ、一体化して「無一物」となってそこにある。優劣も効率もない。ゆっくりとした時間と満たされた空間がそこにある。そんな魔術的な宇宙こそが「モリのいる場所」なのだ。沖田修一監督らしいとぼけた味わいのある、温もりあふれる映画だ。

製作年:2018年
製作国:日本
配給:日活
上映時間:99分
監督:沖田修一
脚本:沖田修一
エグゼクティブプロデューサー:永山雅也
プロデューサー:吉田憲一:、宇田川寧
撮影:月永雄太
照明::藤井勇
美術:安宅紀史
編集:佐藤崇
音楽:牛尾憲輔
VFXスーパーバイザー:小坂一順
キャスト:山崎努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史

☆☆☆☆4
(モ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 家族 ☆☆☆☆4

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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
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    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
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2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
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<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
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2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
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    6才のボクが、大人になるまで。
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    <日本映画>
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    ニシノユキヒコの恋と冒険
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    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
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    3、ウルトラミラクルラブストーリー
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