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「脳はなぜ「心」を作ったのか」前野隆司(ちくま文庫)

サブタイトルに「「私」の謎を解く受動意識仮説」とある。これまで最大の謎とされてきた「心」のあり方について、著者は、心が実に単純なメカニズムでできていて、ロボットに心を作ることすらできると言い切る。前野隆司は、「ロボットの心の作り方(受動意識仮設に基づく基本概念の提案」という論文も学会誌に発表しているロボット工学をはじめ、幸福学、感動学、イノベーション教育、システムデザインなどの研究者だ。

書かれているのは、心の天動説ならぬ地動説。

自分とは、外部環境と連続な、自他不可分な存在。そして、「意識」はすべてを決定する主体的な存在ではなく、脳の中で無意識に行われた自律分散演算の結果を、川の下流で見ているかのように、受動的に受け入れ、自分がやったことと解釈し、エピソード記憶をするためのささやかで無知な存在。さらに、意識の中で最も深遠かつ中心的な位置にあるように思える自己意識のクオリアは、誰もが持つ錯覚に他ならない。

つまり、「心=私」が全てをコントロールしているのではないのだという。「私」たちが主体的に行っていると思っている「思考」という行為は、実は無意識下の小びとたちが行っている自律分散計算だと考えられる。小びととは、実際は、脳のニュートラルネットワーク(神経回路網)が担っており、それぞれが分担していろんな処理を行っている。

「コップを持つ」という動作は、“私”が「コップを持とう」と考えてからコップを持つのではなく、まず、コップを持つという動作のための準備が脳の中で始まってから、「コップを持とう」という意識が生ずるのだという。つまり、”私”が動作をさせているのではなく、動作によって、“私”が生じるということだ。

意識とは、「無意識」の小びとたちの多様な処理を一つにまとめて個人的な体験に変換するために必要十分なもの。「意識」は、エピソード記憶をするためにこそ存在している。「私」は、エピソードを記憶することの必然性から、進化的の生じたものであり、無意識の結果をまとめた受動的体験をあたかも主体的な体験であるかのように錯覚するシステムなのだ。

では、無個性な錯覚が作り出した幻想が<私>だとするなら、個性とか自分らしさとかは何なのだろう。それは「知情意」「記憶と学習」を「私」の陰で担っている小びとたち、にある。小びとたちの最初の人員配置(ニューラルネットワークの初期構造)は遺伝、DNAの設計図による違いがあり、ニューラルネットワークのつながり方や発火のしやすさは、その後の学習によって後天的に変わっていく。どんな環境に身を置き、何を脳の内部に記憶し、どんな思考をするかによって、小びとたちは、より個性的な小びとたちになる。

それから、大切な思い出は、エピソード記憶として大脳の中に格納されている。小びとたちは、必要な時に、その大切な宝物を思い出させてくれる。考え方や生き方の基盤となる意味記憶も大脳の中に格納され、小びとたちが望みの知識を運んでくれる。あなたの意識である「私」は受動的で、そのクオリアである<私>は無個性だけれども、あなたの無意識の中にいる小びとたちは個性的なのだ。

わかるようなわからないような話なのだが、主体的だと思っている「私」は、幻想であり、錯覚であるということだ。意識は、実は無意識の脳のニューラルネットワークの発火やつながりで、発生し、行動している。そしてエピソード記憶が蓄積され、脳内の小びとたちが、それぞれの個性を持ちながら、働いているということだ。

「私」は小びとたちの結果を受け取る受動的な存在であり、心の川の流れに逆らうことはしない。「私」の中心にある<私>は、心の中から知情意や自分らしさや欲望を取り除いた、無個性で無に近い、小さく純粋な存在。そして、外と内、原因と結果、現実と幻想の境界はあいまいであり、「私」や「自分」は世界と不可分な存在だ・・・という考え方。これは、どこか東洋的な世界観とも通じ合う。主体的に何でも成し遂げる強い「個」の幻想から文化を築いてきた西洋的価値観とは、違うような気もする。

これまで、いろいろと考えていた「私」という幻想性について、あらためてつながる科学的な見解だ。福岡伸一の日々細胞が更新し続ける「動的平衡」という考え方、自己複製を行うシステムが生命であり、破壊と生成の「流れ」のなかで、人もまた生きている。「私」もまた確かで、決まりきったものではない。そして、無意識下の脳内ニューロンネットワークが「意識」を生み出すというこの考え方も、世界と不可分なあいまいで受動的な「私」ということを考えさせてくれる。

そして、宮沢賢治の「春と修羅」の序文を思い出す。

 わたくしといふ現象は
 仮定された有機交流電灯の
 ひとつの青い照明です
 (あらゆる透明な幽霊の複合体)
 風景やみんなといっしょに
 せはしくせはしく明滅しながら
 いかにもたしかにともりつづける
 因果交流電灯の
 ひとつの青い照明です




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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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