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「正しい日 間違えた日」ホン・サンス

正しい
(C)2015 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

ホン・サンス4作品日本公開上映というなかで、『クレアのカメラ』とこの『正しい日 間違えた日』しか観られなかった。『それから』と『夜の浜辺でひとり』は残念ながら、別の機会になる。特に最新作『それから』が観たかった。残念・・・。

ホン・サンスの反復性とズームイン&アウト、パンなどのワンカットで会話劇を撮ろうとする映像表現の抑制については、『クレアのカメラ』のレビューでも書いたが、そこに表現されるのは「時間性」ということだ。この映画は、同じ一日が別の表現で反復される。言うまでもなく、人生は一度きりであり、時間は刻々と流れていく。映画はその時間と空間をカメラで切り取り、編集して、もう一つの時空間として表現する。この映画では、二人の関係や言葉のやりとり、あるいはタイミングや態度や振る舞いの変化によって、変わっていく関係を反復することで描いている。恋の正しい分岐点と間違った分岐点があるわけではない。現実の変化は些細なことで変わるということ。現実はいかに流動的で、あやふやなのか。関係もまたちょっとした一言や間合いや振る舞いで変わってくるのだ。

ホン・サンスは『3人のアンヌ』ですでに、同じ海辺の空間と同じ女優(イザベル・ユペール)を使って3人のアンヌの物語を作った。同じ空間の別の物語。それぞれの物語がズレながら重なり合う。そしてこの作品は、同じ空間と同じ役者たちによる同じ設定の別の物語だ。まるで、あらゆることが同じ舞台で起こるし、あらゆる可能性が現実にはあることを示しているようではないか。ちょっとしたタイミングや身振り一つで、現実は変わり、関係も変わる。その関係の変化を持続するワンカットのカメラで、描こうとする。あるいは、同じようなカット割りで。

ホン・サンスはその現実の曖昧さ、危うさを、カメラで凝視し続ける。不器用なカメラのズーム&アウト。二人の会話をパンしても表情がわからない横顔ばかり。繰り返される後ろ姿。顔のアップはほとんどない。状況を示すカメラの中で、演じ分けられる些細な変化。それを観客は読み取ろうとする。

逆に言えば、人間は同じことを繰り返せない。同じことを繰り返しても、1回1回違う。言葉や身振りの1回限りの身体性こそが、その人のすべてなのだ。それは、変わらぬものではなく、複雑に変化しうる可能性を秘めている。この映画監督役、チョン・ジェヨンの演技は、同じセリフでも微妙に言い方が違うし、表情や身振りも違う。間合いやタイミングも違うことで、相手の印象も変わってくる。

ホン・サンス映画にあって女性との恋を演じる男性をしばしば映画監督に仕立て、自らのダメ男ぶりをを自虐的に表現しているようなところがあるが、この作品でも、「ちょっとどうなの?」と思いたくなるようなダメ男ぶり満載である。女を口説きたい一心で、褒めまくったり、逆に自ら結婚していることを語り、結婚できないことを嘆き、泣き出したりする場面も、「なんだかなぁ」と失笑してしまう。この映画は、マッチョ的権威主義的監督よりも、本音主義的正直な泣き面、酒に酔ってパンツまで下ろしてしまう変態監督のほうが、女性の許しと共感を得ることになる。この男性の描き方に、自虐的になりつつも、やや自己憐憫的な図々しさも感じる。『クレアのカメラ』の映画監督のカンヌでの勝手な説教よりもマシだけれど。

ホン・サンス映画にあって、酒を飲み酔う場面がしばしば描かれるような気がする。そこに自意識を失った滑稽さ、人間の弱さ、愚かさを好んで描く。タバコを吸うシーンも多い。当然そこには、韓国の文化的な背景もあるのだろうが、人間の弱さへの自虐的なまなざしを感じる。この映画をキッカケに、キム・ミニとのロマンスが始まったそうだ。まさにこの映画監督は、ホン・サンスそのものという訳か。ただ、この映画のキム・ミニは可い。まるでゴダールがミューズ、アンナ・カリーナを描いたように。

原題:Right Now, Wrong Then
製作年:2015年
製作国:韓国
配給:クレストインターナショナル
上映時間:121分
監督:ホン・サンス
製作:キム・ギョンヒ
脚本:ホン・サンス
撮影:パク・ホンヨル
編集:ハム・ソンウォン
音楽:チョン・ヨンジン
キャスト:チョン・ジェヨン、キム・ミニ、コ・アソン、チェ・ファジョン、ソ・ヨンファ、キ・ジュボン、ユン・ヨジョン、ユン・ヨジョン

☆☆☆☆☆5
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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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