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「菊とギロチン」瀬々敬久

ギロチン
(C)2018「菊とギロチン」合同製作舎

『ヘブンズ・ストーリー』が4時間38分の長尺だったが、この映画も3時間9分と長い。この長さに瀬々敬久の本気度がうかがえる。『アントキノイノチ』、『64‐ロクヨン‐』、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』などメジャーな娯楽映画を撮れる監督だが、瀬々敬久の真骨頂はこっちのマイナーな映画にある。物語の見やすさや俳優のキャラクーよりも、人間をじっくりと掘り下げて描写することに重きをおく。しかも、登場する人物たちにスター主義的な序列はない。どの登場人物もドラマの深みを描こうとするあまり、どうしても上映時間が長くなる。

この映画もまたギロチン社の中心メンバーの中濱鐵(東出昌大)と古田大次郎(寛一郎)が十勝川(韓英恵)とともに逃げ出したあたりで終わるのかと思いきや、朝鮮に渡っての活動まで描かれ、中濱が逮捕されたあたりでも終わらず、再び古田大次郎(寛一郎)が花菊(木竜麻生)と出会い、時代が暗く息苦しいものに変化していくまでが描かれる。

女相撲は明治13年からすでに行われていた。土俵は神聖なもの、女性は上がれないという騒動があったが、昔から女相撲はあった。山形の石山兵四郎が本格的な興行女相撲として創業し、そこから分派、独立していった興行団体が幾つか生まれ、ハワイや満州まで興行に行ったらしい。昭和31年、東京浅草公園劇場の興行を最後に「石山女相撲」の幕を下ろしたということだ。しかし、田畑が干ばつで飢饉の際に、女相撲の興行を呼んで、「神様の怒りをかって雨を降らす」というエピソードも披露される。そういうところは変わっていない。

この映画は、女相撲の女力士たちとアナキスト集団を描きながら、女性や朝鮮人への暴力や差別、貧富の差、国家や警察、在郷軍人たちの暴力などがテーマとして描かれている。しかし、それがメインではない。女相撲の女力士たちも、ギロチン社のアナキストたちも、誰もが滑稽で愚かで弱く、したたかに打算的でいじましい。「革命」や「天皇陛下万歳」というかけ声も、自らを奮い立たせるための呪文のような方便でしかなく、滑稽でさえある。誰もカッコよくない。それでも「好きな女さえ守れなくて、何が革命だ」と中濱鐵(東出昌大)も古田大次郎(寛一郎)も、暴力に立ち向かって突進する。

アナキスト集団のギロチン社というのも実在したらしい。大正11年に結成されたテロ集団だった。大杉栄が殺された話も登場し、当時の時代の空気を描いている。閉塞しつつある中でも、満州で自由と平等の国を作る中濱鐵の夢も語られる。中濱鐵が獄中で書いた詩集も実在したようだ。

大正モダニズムの革命ロマンと挫折、そんな空気を描いた映画として神代辰巳の『宵町草』という私の大好きな映画があるが、そのアナーキーな夢や青春、そして閉塞していく時代の空気との軋轢が同じように面白い。

朝鮮人の元娼婦の十勝川を演じた韓英恵がいい。愚かで純情なアナキストを演じた東出昌大、この人もいろいろな役ができて面白い。まさにそれぞれの人物ドラマとして見応えがある。瀬々敬久は、こういう馬鹿で愚かな半端モンたちへのシンパシーがきっとあるんだろうな。


製作年:2018年
製作国:日本
配給:トランスフォーマー
上映時間:189分
映倫区分:R15+
監督:瀬々敬久
脚本:相澤虎之助、瀬々敬久
プロデューサー:坂口一直、石毛栄典、浅野博貴、藤川佳三
撮影:鍋島淳裕
照明:かげつよし
美術監修:磯見俊裕、馬場正男
美術:露木恵美子
編集:早野亮
音楽:安川午朗
ナレーション:永瀬正敏
キャスト:木竜麻生、韓英恵、東出昌大、寛 一 郎、嘉門洋子、前原麻希、仁科あい、田代友紀、持田加奈子、播田美保、山田真歩、大西礼芳、和田光沙、背乃じゅん、原田夏帆、嶺豪一、渋川清彦、荒巻全紀、池田良、木村知貴、飯田芳、小林竜樹、小水たいが、伊島空、東龍之介、小木戸利光、山中崇、井浦新、大西信満、 大森立嗣、篠原篤 、菅田俊、嶋田久作 、宇野祥平

☆☆☆☆4
(キ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 青春 歴史上人物 時代劇

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映画ベスト10 2009~2017年
2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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