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「PASSION」濵口竜介

『寝ても覚めても』の濵口竜介監督が、2008年に東京藝術大学大学院の修了制作として撮った作品。この監督は、「人間の面倒くささ」を徹底して描いている作家なのだと思った。『寝ても覚めても』でも、男女関係が「迷い」とともに複雑化する物語だったが、この『PASSION』もまた、一組の婚約したカップルが、その報告を友人たちに告げた夜から、大きな「迷いと混乱」が始まり、男女のカップルが過去と現在で入り乱れる話だ。簡単に言えば、とセックスと暴力の話なのだが、それをストレートな描写ではなく、セリフ劇として展開しているのが特徴だ。濵口監督のどこかのインタビューで、ジョン・カサヴェテスに影響を受けたようなことが書いてあったが、それはよくわかる。衝撃的な出来事やアクションが起きなくても、十分に会話だけで、不安と迷いと葛藤の活劇は描けるということだ。

『ハッピーアワー』という女性たちだけの長い映画があったが、そこでも延々と続くセリフ劇は同じなのだが、ケーブルカーの車内が効果的に使われていたのが印象的だった。今回はバスの車内の描写が印象的だ。婚約発表の夜、男たちは夜のバスに乗って、一人の女の家に行く。バスの中でふざけあう男たち。その夜のバスは、男たちを別の世界に誘うかのようだ。あるいはラストで、男と女が偶然、同じバスに乗り合わせる場面。「バス」は、男や女たちをどこへ運んでいくのだろう。そのほか、登場人物たちが何度もすれ違う女性の家の近くの「歩道橋」も印象的だ。ほかに、非常口の螺旋階段、猫を埋めた高台の場所など、映像演出的に「場所」へのこだわりが感じられる。それからラストの工場の煙突の煙の長廻しと男女の会話、港での行き交う色鮮やかなコンテナを運ぶトラックや船の汽笛の音まで、いろいろと作為的映像演出をやっている。

そして際立っている演出は、「暴力について」語り合う学校の教室の場面と、男二人と女一人が女の家で、「本音ゲーム」を始める場面だ。どちらも映画の中で突出しているのだ。長過ぎるし、セリフが過度である。それは、『ハッピーアワー』でのワークショップの場面も同じように突出して長かった。なぜ濵口は、このような映画全体の中で納まりの悪い、過剰な会話劇をやりたがるのだろう。それはナマナマしいとも言えるが、嘘くさいともいえる。生徒たちや登場人物たちが、本音のように感情むき出しで言い合うのだが、そんなことは日常ではあまり起こらない。「暴力は引き受けるしかない」と生徒たちに説くカホ(河井青葉)。ラストでは、「すべては奇跡だ」とも語る。ヒロインであるカホ(河井青葉)は、精神的な存在であり、理知的な存在だ。もう一人のヒロイン、ショートカットのタカコ(占部房子)は、「あまり考えたくない」と言い、性的・肉体的、感覚的な存在である。男たちは、この対極の二人の間で、右往左往する。誰もが迷い、ためらい、等身大でもあるが、いやになるほどハッキリしない。魅力的でないのだ。この人間のダメさ、面倒くささをどう引き受けられるか。濵口竜介は作為的な映像を仕掛け、生々しい芝居のリアリティとフィクションの間で、観客に「居心地の悪さ」を感じさせ、その「あいまいさ」を表現し続ける。
 

製作年:2008年
製作国:日本
上映時間:115分
監督・脚本:濱口竜介
プロデューサー:藤井智
撮影:湯澤祐一
照明:佐々木靖之
録音:草刈悠子
美術:安宅紀史、岩本浩典
編集:山本良子
キャスト:河井青葉、岡本竜汰、占部房子、岡部尚、渋川清彦

☆☆☆☆4
(パ)
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テーマ : TVで見た映画
ジャンル : 映画

tag : 暴力 人生 ☆☆☆☆4

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2017年ベスト10
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    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
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2016年ベスト10
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2011年映画ベスト10
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    3,「あぜ道のダンディ」
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    2010年映画ベスト10
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