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「寝ても覚めても」柴崎友香 (河出文庫)

映画に続いて原作を読んでみた。柴崎友香は、以前に読んでことがあったのだが、なんという作品だったか忘れてしまった。とても視覚的・映像的な作家であるのは覚えている。映画が面白かったので、久しぶりに柴崎友香を読んでみた。

やはり視覚的・映像的作家だ。今回何よりもその文体の抑制された感じがなんとも好感が持てた。省略の技法、余白。くどくど心理描写や物語が書かれていないのだ。すっと時間が飛んで、すっと展開されていく。エッセイのようでもあるし、それでいて物語はとても強引だったりする。その強引な展開の心理を読者に想像させる。それがいい。

視覚的・映像的だと書いたのは、カメラ・写真、テレビなど視覚的メディアが物語の中で多用されていることが大きい。深夜のテレビ画面に映し出される街の灯りが、自分の部屋の外に広がっている夜と繋がっている感覚。

「わたしは、自分の家の中で自分がいる街を見下ろしているのと同時に、天井の上の暗い空から自分によって見下ろされてもいた。(P100)」

テレビというメディアを通した空間の広がり。

あるいは現在が刻々と過去に変わっている瞬間をカメラで写し取る時間の感覚。

「そのとき、目の前のすべてが、過去に見えた。モニターの中ではなく、外に広がる、今ここにあるものこそが、すべて過去だった。カメラで撮られた画像の中に収まり、過去として、記録された光景として、そこにあった。(P118)」

そのレンズという目を通した時間と空間の感覚、あるいみ客観的に自分を見つめる感覚がこの作家にはある。
麦と亮平という瓜二つの男の間で彷徨う朝子という女性は、過去と現在の間を彷徨うことにもなる。だから過去の麦と自分の写真を見ることで、彼女は今の時間を取り戻す。過去の亡霊から抜け出すことができる。

「わたしは見た。懐かしい麦の顔と、それをじっと見つめている自分の顔と。十年前のわたしと今のわたしが、同時に麦を見ていた。うしろの黄色い銀杏は、葉を散らせている途中だった。黄色い葉が空中で静止していた。新幹線の中じゃなくて、他に誰もいなければ、わたしは声を上げていたと思う。違う。似ていない。この人、亮平じゃない。(P299)

ぼやっとした感じの朝子という女の子が、強い欲望、直観に突き動かされて、麦を好きになり、麦とそっくりな亮平に惹かれていく。そして麦がテレビの向こう側から現れて、朝子を惑わす。過去の亡霊。テレビというメディアから朝子の目の前に現れた麦。過去に「見続けていた麦」と「今、目の前にいる麦」は同じ存在なのか。そして麦にそっくりな亮平は、私にとって何者なのか。現在が刻々と過去になっていく時間の流れの中で、朝子が現在に向かって走り出すのがいい。映画の面白さとは、また違った良さのある小説だ。どちらも僕は好きだ。

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テーマ : ブックレビュー
ジャンル : 小説・文学

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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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映画ベスト10 2009~2017年
2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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