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「バイス」アダム・マッケイ

まだ存命中の実在の政治家をブラックコメディとして描けるアメリカという国の底力をあらためて感じる映画。政治家に忖度しまくる日本では考えられない。こういう映画を作れないということは、文化的成熟度、自由度が日本ではまだ育っていないということだろう。9.11後、アメリカをイラク戦争に導いたとされる副大統領、悪名高きディック・チェイニー。クリスチャン・ベールが、体重を20キロ増やして臨んだと言われている。

チェイニー副大統領が、ジョージ・W・ブッシュ大統領を影で操り、情報から予算から実務をすべて掌握していたということらしい。ジョージ・W・ブッシュ大統領を演じたサム・ロックウェルが、バカっぽく演じているところが笑える。

チェイニーは、大学を中退し、酒癖の悪いうだつの上がらない青年に過ぎなかったのが、後に妻となった上昇志向の強い才女である恋人リンに導かれるように、次第に政治の世界で頭角を現していく。政治家ドナルド・ラムズフェルドとの出会いが大きかったようだ。権力の魅力に惹きつけられるように、権力に媚びながら次第にチェイニーは力を手に入れていく。まさにチェイニーの成長物語でもあるのだ。ラムズフェルドに「(政治の)理念は?」とチェイニーが尋ねると、笑い声しか返ってこないところも風刺が効いている。ラムズフェルドにしても、チェイニーにしても、「政治理念など二の次なのだ」とばかりに、何も「信念」のようなものは描かれない。あるのは権力欲と上昇志向のみ。演説は下手くそで、妻の魅力を利用しながら、経験を積み上げ、まわりの人々を操り、策略家としてのし上がっていく。

一方で、チェイニーの家族愛は描かれ、娘が同性愛者であることで政治的損得との葛藤が描かれている。南部の共和党支持者たちの保守的な家族観と異質な娘の同性愛は、チェイニーのアキレス腱となるが、政治よりも娘への愛を優先させる父親像もしっかりと描いている。単なる悪辣な愚か者として描いている訳でもないのだ。ちゃんと人間ドラマという側面もある。

テンポの良いアダム・マッケイの風刺を効いた演出は、エンタメとして楽しめる。実物そっくりに演じる俳優たちを楽しみつつ、政治家たちの身勝手な乱暴さ、その内幕ものに寒気がする。どこまでが真実で、フィクションでどのように膨らませてあるのかわからないが、政治の世界もまた愚かな人間たちのドラマであることを教えてくれる。こんなことで、多くの人々が一瞬のうちに死んでいく世界の馬鹿らしさを感じる。


原題:Vice
製作年:2018年
制作国:アメリカ
配給:ロングライド
上映時間:132分
監督:アダム・マッケイ
製作:ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クレイマー、
ウィル・フェレル
キャスト:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーブ・カレル
、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー

☆☆☆3
(ハ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 社会派 コメディ ☆☆☆3

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非公開コメント

さらにキレが増してましたねー

「マネーショート」よりさらにキレが増してましたねー

あの謎の狂言廻しの正体が発覚した瞬間の驚きは一生忘れません(笑)

またマーゴット・ロビーが利いていた前作に続き今回はAモリーナ、Nワッツとカメオも強化!

onscreenさん、コメントありがとう

きっと、一度見ただけでは分からない仕掛けが、たくさんあるのでしょう。遊び心溢れた演出と、役者陣の心意気のようなものを感じますね。

確かに!

<一度見ただけでは分からない仕掛けが、たくさんある

実は今日、2度目に挑みました!
一度目は機内映画だったので、見逃したニュアンスが結構あるのではと...

で確かにおっしゃる通りです。

カメオ陣、ナオミ・ワッツは3度登場。
で新しく誕生した共和党系FOXチャンネルのメインキャスター

Aモリーナは一度目の印象では何言ってるか覚えていられなかった(笑)
が強烈なセルフをかますステーキハウスのウエーター
→2度目でしっかり記憶に。
政権が堕ちていくいく様を象徴するセリフをメニュー説明だけで完了!

「ワイルドスピード」って何? → 一般大衆の低い意識を象徴

などなど、強力な2度目の鑑賞でした!

情報ありがとうございます。

onscreenさん

情報ありがとうございます。遊び心を入れながらの社会的皮肉。こういう肩の力の抜いた批判精神こそ、日本人も身につけたいところですが、なかなか難しいのでしょうね。肩ひじ張らずに社会を批判できる余裕こそ、民主主義には必要なのかもしれません。
プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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映画ベスト10 2009~2017年
2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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