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「町田くんの世界」石井裕也

走り出すこと、思わず走り出してしまうこと、訳も分からずに、何も考えられずに走ること。そして、誰かを追いかけてしまうこと。そんな時を懐かしく思い出してしまう映画だ。

町田くんの存在そのものがファンタジーである。町田くんの走り方がまずヘンだ。前に進もうと走るのではなく、膝を高く上げて宙を飛ぼうとするかのような奇妙な走り方。そう、町田くんは宙を舞う。ジタバタと不器用に誰かを助けるために走っていた町田くんは、自らの思いのために宙を舞う。

新しい町田くんが誕生しようとしている時に、町田くんと猪原さんは走り、追いかけ、追いかけられ、逃げて、また追いかける。川べりの草むらで二人が走り回るシーンがいい。その訳の分からなさこそが、愛おしい。走らずにはいられない衝動こそが、かけがえのない時間なのだ。

石井裕也監督は、水や川が好きなのかもしれない。雨、プールに川辺・・・と、水が頻繁に登場する。満島ひかりと石井裕也監督の出世作の『川の底からこんにちは』でも、川が印象的に使われていた。今作でも、川辺とプールは、いつもの二人が過ごす場所であるし、二人が気持ちをぶつけ合う場所である。そして、雨は自分と向き合う時でもあり、素直に人に気持ちをぶつけるクライマックスの舞台となる。まるで、雨が降らなかったら、素直に気持ちをぶつけられないかのように、二人には雨が必要だった。

自分のことばかりのバラバラの時代だからこそ、町田くんのような誰かのために生きようとするファンタジー的存在が求められるのかもしれない。誰かのために何かをすることが、恥ずかしく、偽善的で、嘘くさく感じられ、怒りや毒や嘲笑や罵倒こそが、本当らしく感じる時代。恋の一生懸命さも、どこかファンタジーにしないと成立しないのかもしれない。主役の二人の不器用さと脇を固める役者陣の芸達者ぶりがいいバランスだ。前田敦子の毒舌ぶりも笑える。

それにしても学校のプールという場所は、相米慎二も岩井俊二も様々な映画監督たちが青春の舞台に使ってきた神聖なる場所なんだなぁ。リアリティなど何もない。馬鹿らしくコメディタッチの青春ファンタジーである。


製作年 2019年
製作国 日本
配給 ワーナー・ブラザース映画
上映時間 120分
監督:石井裕也
原作:安藤ゆき
脚本:石井裕也、片岡翔
企画:北島直明
プロデュース:北島直明
撮影:柳田裕男
美術:井上心平
編集:普嶋信一
音楽:河野丈洋
キャスト:細田佳央太、関水渚、岩田剛、高畑充希、前田敦子、太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子

☆☆☆☆4
(マ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : ファンタジー 青春 ☆☆☆☆4

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映画ベスト10 2009~2017年
2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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