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「薄情」絲山秋子(河出文庫)

絲山秋子という作家は、なんか面白くて何作か読んでいる。「ばかもの」「エスケイプ/アブセント」「ニート」「海の仙人」など(レビューあり)、いずれもパッとしないダメダメ男女が登場する。決してカッコいい男女は登場しない。グダグダな日常を過ごし、愚かで冴えない人間たちだ。その描き方が、なんだかいいのだ。決して、勇気をもらえたり、感動があるわけではない。それでも、小説に登場する人物たちのダメさ加減が人間っぽいのだ。

この「薄情」もまた、パッとしない宇田川静生という神主として跡を継ぐことは決まっているが、まだ猶予があり、嬬恋でキャベツ収穫のバイトをしたり、温泉で風呂洗いをしたりしながら、モラトリアム的な日常を送っている男の話だ。群馬県高崎市という地方都市であることがこの小説では重要だ。東京の國學院大學を出て、高崎に戻ってきた男。東京から来た芸術家、鹿谷さんから「田舎者」とは思われたくない。かといって宇田川は郷土愛があるわけでもなく、地方と都会の「間」にいる存在だ。「堅気とそうでないもの」、「大人と子供」、「自由と不自由」の「間」。「辺境」、「境界」という言葉がたびたび登場するが、地方でも田舎でもどちらでもない中途半端な場所を好む。都会の無関心も、田舎の窮屈さもどちらも嫌いであり、ほどほどの距離感、人間関係、それが鹿谷さんの「変人工房」に集まる人々の関係であり、宇加川はその場所に居心地の良さを感じる。出入り自由な窮屈ではないコミュニティ。

それが鹿谷さんと同級生の蜂須賀の不倫関係を知ることによって、途端に「変人工房」は、居心地の悪い不自由な場所に変わってしまう。鹿谷さんは田舎で忘れられ、都会に戻り、蜂須賀は田舎の窮屈な人々の目に晒されながら生きていくしかない。

神主は「イレモノ」であり、「笹舟」であり、宇田川も車に蜂須賀やヒッチハイクの少年の乗せたりしながら、ゆらゆらと生きている。車は宇田川そのもののようでもある。人と人との距離感は難しい。宇田川は恋人ができたと思ったら、彼女に裏切られる。「辺境」に生き、「間」をうろうろし、高崎周辺の風景と同一化するようでもある。そういう存在に絲山秋子は惹かれるのだろう。幸福でも不幸でもない、敵でも味方でもない曖昧な存在が、人と人との関係には必要なんだろう。二人の田中さんという正体不明の探偵の存在も面白い。
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テーマ : ブックレビュー
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
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映画ベスト10 2009~2017年
2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
    インサイド・ルーウィン・デイヴィス
    6才のボクが、大人になるまで。
    フランシス・ハ
    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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