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「旅のおわり世界のはじまり」黒沢清

前田敦子の映画である。しかも「愛の讃歌」である。黒沢清の映画には、いつでも死の気配が満ちていた。不在や不安、世界の終わり的な終末観とでも呼べそうな気配が漂っていた。しかし、この映画は、「心の底から湧き上がる感情」につき動かされて、歌を唄うという新たな「世界の始まり」=生の物語である。なんともドキュメンタリードラマのようで、戸惑った。

前半はテレビ番組のロケクルーとレポーターの前田敦子の仕事ぶりが淡々と進行する。ディレクターの染谷将太やカメラマンの加瀬亮とレポーターの前田敦子の関係はいたってドライだ。無駄口をたたかず、プライベートにお互い立ち入らず、とても和やかな雰囲気とは言えないスタッフの空気。前田敦子は、一人でウズベキスタンの夜の街を食事の買い出しに出かける。車が行き交う道路を横切り、バスに乗り、暗くなった夜の路地を一人で歩く。素足を露出し、ウズベキスタンの男たちの好奇の目に晒されながら、会話を拒否し、ひとりで街をさまよう。

異国の地で言葉も分からないまま、孤独にレポーターの仕事をこなす。唯一、東京にいる恋人とのSNSでのやり取りが、自分を取り戻す時間である。料理ができていなくても、美味しそうに食べてレポートし、街の小さな遊園地で、何度も遊具に振り回されて吐きそうになりながらも、プロとして仕事を意地でも頑張る。

それが後半、別の顔を見せるようになる。飼われてつながれていたヤギを解放してから、自らの意思を示し始める。オペラ歌手の美しい歌声に導かれ、劇場に迷い込んで、舞台で自ら「愛の讃歌」を歌う幻想に立ち会う。そして、ミュージカルのオーディションを受ける夢を加瀬亮に語る。ロケは行き詰まり、ホテルの部屋で死んだように横たわる前田敦子。スタッフの指示に黙々と従っていたレポーター前田敦子は、、バザールで自らカメラを持ち、自分の興味で走り出す。スタッフのことなど置いてきぼりにして。しかし、ウズベキスタンの警官から、「あなたは、私たちのことをどれだけ知っているのですか」と問われる。知ろうとしなければ、コミュニケーションは成り立たない。自らの逃亡と拘束、恋人の危機を経て、前田敦子の内なる何かが動き出す。

ラスト、自分の分身ともいえる山の上のヤギを見つけて、彼女は突き動かされるように、歌を唄う。異国の果てで、「世界のはじまり」を実感する。

これは「自分探し」の物語なんだろうか。自分と世界の関係の物語だろうか。自らを解放するために、どれだけをし、路地に迷い、危険な道路を横断し、何かを求めて走り出せばいいのだろうか。黒沢清の映画としては、ちょっと肩透かしなものだった。『Seventh Code』の荒唐無稽な展開を期待していただけに、ちょっとまったりとしたテンポだった。なんだかの軽やかさがなかったな。


製作年 2019年
製作国 日本・ウズベキスタン・カタール合作
配給 東京テアトル、
上映時間 120分
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
プロデューサー:水野詠子、ジェイソン・グレイ、西ヶ谷寿一
撮影:芦澤明子
美術:安宅紀史
編集:高橋幸一
音楽:林祐介
キャスト:前田敦子、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ、加瀬亮

☆☆☆3
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 ☆☆☆3

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映画ベスト10 2009~2017年
2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
    シング・ストリート 未来へのうた
    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
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    6才のボクが、大人になるまで。
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    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
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    ニシノユキヒコの恋と冒険
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    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
    10、夏時間の庭

<日本映画>
    1、ディア・ドクター
    2、空気人形
    3、ウルトラミラクルラブストーリー
    4、インスタント沼
    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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