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「よこがお」深田晃司

深田晃司監督は不穏な空気を描くのがうまい。しかも、あまり説明がない。よくわからないのに不気味なのだ。よくわからなこそが不気味なのかもしれない。「淵に立つ」では、突然の闖入者の浅野忠信の正体不明さがその佇まいとともに不気味だった。夫との関係など、最後まではっきり示さないままだった。

今回の「よこがお」は、その女性版ともいえる作品だ。「淵に立つ」が、古舘寛治と浅野忠信の過去の関係からくる不幸の物語だったが、「よこがお」は、筒井真理子と市川実日子の女性二人の関係の微妙な変化からくる不幸の物語である。

オープニング、筒井真理子が「ご指名ですね」などと言われながら店にやってくる。なにやらホストクラブとかいかがわしい店かと思いきや、普通の美容室である。美容師の池松壮亮との関係も、知り合いのようなそうでないような微妙な空気が流れる。そして、過去の筒井真理子が訪問看護で働いている場面になる。老婆を丁寧に看護していて、その孫娘の市川実日子が映る。

筒井真理子が自転車で帰っていくのを市川実日子が2階の窓からジッと見ている場面を印象的に描き、会社に戻って飲みに行く誘いを断り、再び筒井真理子はファミレスで市川実日子と妹役の川隅奈保子と一緒に勉強をしている場面になる。この勉強会がなんとも不自然な感じだ。最初、新興宗教や訪問販売などの怪しい勉強会か、なんて思ったが、どうやら普通の学校の勉強を教えているようなのだ。妹は塾に行く前なのに、わざわざ筒井真理子に教えてもらい、市川実日子がなぜ筒井真理子に勉強を教えてもらっているのかの説明もない。だから、不思議な女性3人の集まりとしか見えない。そこにやってくる筒井真理子の甥…。何の本を持ってきたのか、彼の登場もやや意味不明で説明不足。

続いての場面は、筒井真理子が池松壮亮と偶然のように出会い、連絡先を交換し、夜も家の窓から彼の生活をストーカーのように監視続ける不自然さ。やがて、池松壮亮の元に来る女性は、市川実日子らしいのだが、ここでは顔はハッキリと映し出されない。筒井真理子は、その彼女に敵意の犬の遠吠えをし、公園で犬になった夢まで見る。四本足で犬のように歩く筒井真理子は異様だ。いったいどんな女なのだ、どんな物語なのかと、観客はそのあまりの不自然さと説明不足に、不審さ・不穏さを募らせる。

物語は、髪を切って仕事を辞め、池松壮亮との関係を持とうとする筒井真理子と、老婆を訪問看護で丁寧に介護し、その家の孫娘の市川実日子と会話する過去の筒井真理子の二つの時間が交互に描かれる。動物園の場面は、まさに2つの時間、現在(筒井真理子と池松壮亮)と過去(筒井真理子と市川実日子)が繋がって描かれる。

詳しい説明をしないまま、物語が不自然なままに進んでいく展開は「淵に立つ」によく似ている。映画では、その後、ある事件が起きて、筒井真理子がその事件に巻き込まれて転落していく様と、市川実日子との不思議な関係が、次第に明らかになる。謎がわかってくる恐怖などサスペンスとして見応えがある。しかし、事件そのものは全く描かれない。見せないこと、ハッキリさせないことで想像がいろいろと膨らむ。いろんな考え方、見方ができる映画なのだ。

なんと言っても二人の女優が素晴らしい。池松壮亮のいつもののらりくらりしたつかみどころのない演技も効果的で、彼の本当の気持ちがよくわからないままだ。本人にさえもわからない心の動きと行動。市川実日子は、人間の謎と不気味さを体現している。つい言ってしまった過去の言葉が、捻じ曲げられていく過程、お決まりのメディアの暴力。誰も本当のことなど語らない。本当とはナニ?人間の多面性。ある言葉は、語る人や状況によって、どんどん別のものになり、誤解が膨らんでいく。言い訳しても、誰もわかってくれない。そんな空気の変化の恐ろしさが、見事に描かれている。

ラスト、車をパーキングからドライブにして、ゆっくりと動き出す場面が恐ろしい。そしてクラクションの鳴り続ける音、サイドミラーに移る彼女の顔と風の音など、音が見事に効果を上げている。今年の注目の1本であるのは間違いない。

製作年:2018年
製作国:日本=フランス
配給:KADOKAWA
上映時間:111分
監督:深田晃司
製作:堀内大示、三宅容介
プロデューサー:Kaz、二宮直彦、二木大介、椋樹弘尚
原案:Kaz
脚本:深田晃司
企画:Kaz
撮影:根岸憲一
編集:深田晃司
音楽:小野川浩幸
キャスト:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮 、吹越満、大方斐紗子、川隅奈保子

☆☆☆☆☆5
(ヨ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : 人生 サスペンス ☆☆☆☆☆5

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ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
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2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
    マイ・ファニー・レディ
    キャロル
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    リザとキツネと恋する死者たち
    グッバイ・サマー
    サウルの息子
    マジカル・ガール
    ブリッジ・オブ・スパイ
    手紙は憶えている
<日本映画>
    淵に立つ
    クリーピー 偽りの隣人
    海よりもまだ深く
    ふきげんな過去
    SCOOP!
    永い言い訳
    オーバー・フェンス
    ディストラクション・ベイビーズ
    葛城事件
    湯を沸かすほどに熱い愛
    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
    ジャージー・ボーイズ
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    6才のボクが、大人になるまで。
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    ウォールフラワー
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    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
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      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
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    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
    4、あの日、欲望の大地で
    5、人生に乾杯!
    6、ウェディング・ベルを鳴らせ!
    7、チェンジリング
    8、ロルナの祈り
    9、レスラー
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<日本映画>
    1、ディア・ドクター
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    5、ノン子36歳(家事手伝い)
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