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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」クエンティン・タランティーノ

タランティーノは、物語中心に凝縮して映画全体を構成するようなことをしない。だから、基本的に長い。この映画も2時間41分。物語で感動させたり、サスペンスで引っぱるのもうまくない。シチュエーションごとの緊迫感、サスペンスはスゴい面白いのに、映画全体は冗長になる。それは、タランティーノは無駄話(会話劇)や細部の描き込みが好きだからだ。シチュエーションごとのディテールにこそ、タランティーノの面白さがある。

この映画もまた、1969年という時代のハリウッド、LAの細部を楽しむべきなのだ。風俗、音楽、映画、テレビ映画、ファッション、パーティー。そこにある映画愛や時代への郷愁。シャロン・テートや、ロマン·ポランスキーだけではなく、スティーブ·マックィーンやブルース·リーなども役として登場する。悪役ばかりで落ち目になった役者のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼専属のスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)のバディ映画(相棒もの)である。

ロスの高級住宅街で暮らす俳優リック(ディカプリオ)とトレーラーハウスで犬と暮らすクリフ(ブラピ)は架空の存在である。その隣に「ローズマリーの赤ちゃん」の大ヒット映画を撮ったばかりの鬼才ロマン・ポランスキーと新妻女優シャロン・テート (マーゴット・ロビー )が引っ越してくる。史実としてのシャロン・テート事件をタランティーノ風にアレンジしていくのだ。おとぎ話のように。

エンタメ業界のセレブたちのが集まるパーティーの描写では、スティーブ・マックイーン(ダミアン・ルイス)も登場し、シャロン・テートの元婚約者の美容師ジェイ・セブリング(エミール・ハーシュ)とポランスキーとの奇妙な三角関係も紹介される。ちなみに、リックが「大脱走」にオーディションで残っていた話も語られ、「大脱走」のシーンをディカプリオが演じているお遊びも登場する。この映画のバイクシーンはきっとスティーブ・マックイーンのスタントマンもいたのだろう。実物の映画プロデューサー、マーヴィン・シュワルツもアル・パチーノが演じている。

同じように映画ネタのお遊びとしては、シャロン・テートが自分が出ている映画「サイレンサー破壊部隊」を映画館でお客さんの反応を見て喜ぶシーンが微笑ましい。その中でブルース・リー(マイク・モー)にカンフーアクションを習った場面も登場するし、クリフ(ブラピ)が映画撮影現場でブルース・リーと喧嘩をする場面まである。

物語の一つがディカプリオの俳優としての賞味期限を迎えての葛藤があり、セリフでNGを出して楽屋で自暴自棄になって大暴れしたり、いい演技ができて少女俳優に褒められ、涙を流して感激したりする。ギリギリの精神状態の中で役者をやり続けるプライドと孤独、そんな彼を陰で支えるクリフ(ブラピ)のタフさが対照的で面白い。マカロニウェスタンのエピソードは、クリント·イーストウッドを彷彿とさせる。

物語のヤマのもう一つは、クリフが後にシャロン・テート事件とも関係することになるヒッピーたちが住む西部劇撮影用の牧場に行く場面だ。まさに西部劇で知らない町に乗り込むカーボーイのように、クリフはヒッピーたちの世界に乗り込んでいく。史実的には、チャーリー・マンソンを教祖とする「マンソン・ファミリー」のヒッピーたちが暮らしていたところだ。訳のわからない異界への侵入と恐怖。ヒッピーたちのクリフに向けられる悪意に満ちた視線。まさに西部劇だ。

そしてラストの殺害場面。タランティーノの史実をアレンジした演出は、彼流のロマンなのだろう。この映画のシャロン・テートはほんとにキュートで可愛らしい。ミニスカートと白いブーツ。金髪美女の美しさ、華麗なる華そのものだ。時代の悲劇のミューズへの鎮魂なのか。殺害場面の残酷さは相変わらずだ。クリフの犬がこの映画でも大活躍する。「ジャンゴ」でも犬が腕を食いちぎるシーンがあったような気がする。事件があった日にちの時刻を入れながらの描写が、見ていてどう展開させるのか、興味を掻き立てられた。

全体的に長いながらも、楽しめた映画だ。懐かしい音楽が全編流れ、ベトナム戦争があり、ヒッピーたちが溢れ、セレブな成功者たちの華やかな光ともう一つの世界の闇。そんな世界で生きるリックとクリフとバディぶりがなんとも微笑ましい。

2019年製作/161分/PG12/アメリカ
原題:Once Upon a Time... in Hollywood
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント  
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
製作:クエンティン・タランティーノ、デヴィッド・ハイマン、シャノン・マッキントッシュ
製作総指揮:ジョージア・カカンデスユ・ドン、ジェフリー・チャン
撮影:ロバート・リチャードソン
編集:フレッド・ラスキン
出演者:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、アル・パチーノ

☆☆☆☆4
(ワ)
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

tag : エンターテイメント 暴力 人生 実話 ☆☆☆☆4

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ハリウッド愛

タランティーノのハリウッド愛がここまで極まり「歴史」を捻じ曲げるサマが見ものでしたね!

コメントありがとう

いつもコメントありがとうございます。
タランティーノのハリウッド愛、映画愛満載の映画でしたね。

事件としてしか記憶されていない女優の名を、もう一度、美しく愛すべき女優としてスクリーンな生き返らせたということでしょうか。映画というマジックを使って。
プロフィール

ヒデヨシ

Author:ヒデヨシ
札幌でテレビの仕事をしている
オヤジです。
映画にまつわる雑文です。
2006年からの映画レビュー。
それから、本の感想を少し。


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2018年ベスト10
<洋画>
    「スリー・ビルボード」
    「正しい日、間違えた日」(2015)
    「希望のかなた」
    「顔たち、ところどころ」
    「ラブレス」

<日本映画>
    「万引き家族」
    「寝ても覚めても」
    「きみの鳥はうたえる」
    「モリがいる場所」
    「カメラを止めるな」


2017年ベスト10
<洋画>
    「パターソン」
    「動くな!死ね!甦れ!」(1989)
    「誰のせいでもない」
    「ありがとう、トニー・エルドマン」
    「オン・ザ・ミルキー・ロード」
    「パーソナル・ショッパー」
    「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
    「マリアンヌ」
    「婚約者の友人」
    「セールスマン」

<日本映画>
    「散歩する侵略者
/予兆 散歩する侵略者」
    「三度目の殺人」
    「南瓜とマヨネーズ」
    「光(大森立嗣)」
    「息の跡」
    次点「彼女がその名を知らない鳥たち」
    次点「幼な子われらに生まれ」
    次点「バンコクナイツ」


2016年ベスト10
<洋画>
    ダゲレオタイプの女
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    キャロル
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<日本映画>
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    次点この世界の片隅に


2015年ベスト10
<洋画>
    やさしい女
    さよなら人類
    さらば、愛の言葉よ
    毛皮にヴィーナス
    雪の轍
    愛して飲んで歌って
    サンドラの週末
    サイの季節
    インヒアレント・ヴァイス
    ソニはご機嫌ななめ

<日本映画>
    海街dairy
    岸辺の旅
    FOUJITA
    百円の恋
    この国の空


2014年ベスト10
<洋画>
    エレニの帰郷
    グランド・ブタペスト・ホテル
    罪の手ざわり
    ウルフ・オブ・ウォールストリート
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    ウォールフラワー
    ある過去の行方

    <日本映画>
    そこのみにて光輝く
    ニシノユキヒコの恋と冒険
    紙の月
    Sventh Code
    私の男


      2013年映画ベスト5
<洋画>
    1、「愛、アムール」
    2、「ホーリー・モーターズ」
    3、「オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ」
    4、「いとしきエブリデイ」
    5、「ムーンライズ・キングダム」
    ※番外「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)

    <日本映画>
    1、「共喰い」
    2、「さよなら渓谷」
    3、「恋の渦」
    4、「リアル 完全なる首長竜の日」
    5、「Playback」(2012年)


    2012年映画ベスト10
<洋画>
    2、「少年と自転車」
    3、「Pina ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち」
    4、「ライク・サムワン・イン・ラブ」
    5、「きっと ここが帰る場所」
    6、「ドライヴ」
    7、「風にそよぐ草」
    8、「恋のロンドン狂騒曲」
    9、「おとなのけんか」
    10、「別離」
    次点 「裏切りのサーカス」
番外
    「永遠の僕たち」
    「J・エドガー」
    「家族の庭」

    3、「演劇1&2」
    4、「夢売るふたり」
    5、「アウトレイジビヨンド」
    番外 「ヒミズ」


2011年映画ベスト10
    3,「ブルーバレンタイン」
    4,「愛する人」
    5,「クリスマス・ストーリー」
    6,「トゥルー・グリット」
    7,「SOMEWHERE」
    8,「さすらいの女神(ディーバ)たち」
    9,「エリックを探して」
    10,「シリアスマン」
    次点,「エッセンシャル・キリング」

    3,「あぜ道のダンディ」
    4,「マイ・バック・ページ」
    5,「冷たい熱帯魚」

    2010年映画ベスト10
    3、フローズン・リバー
    4、アンナと過ごした4日間(2008)
    5、Babble/バブル(2005)
    6、パリ20区、僕たちのクラス
    7、クレイジー・ハート
    8、ずっとあなたを愛してる
    9、千年の祈り
    10、シルビアのいる街で
    次点、闇の列車、光の旅

    3、川の底からこんにちは
    4、さんかく
    5、ノルウェイの森
    次点、乱暴と待機


2009年映画ベスト10
    3、リミッツ・オブ・コントロール
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<日本映画>
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